ある放課後2
田島は立ち上がってはこなかった。
俺は恐る恐る近づき、顔を覗き込んだ。
仰向けで倒れている田島の目は、生きている者の目ではなかった。
俺は驚き、腰を抜かしてしまった。すぐに逃げたかったが、思いとはうらはらに体に力が入らず、
身動きがとれなくなってしまった。
俺は頭が真っ白になった。
「死んだのか。まさか、でも確かめよう。」
俺は揺すって名前を呼んでみた。やはり反応はない。
心臓に耳をあててみた。何も聞こえない。
息をしている様子もない。
何よりこの目だ。
瞳孔が開いているというのは、こういう状態なのだろう。
田島の頭の後ろには10センチ程の高さのある教壇があり、ちょうどその角に頭を
強打してしまったのだろう。
昔俺が小学生の頃、友達に突き倒されて、大きな石に後頭部をぶつけた時、母親が
ものすごく心配していたのを思い出した。
何て運の悪いやつだ。いや、運が悪いのは俺のほうだ。
いったい俺はどうすればいいんだ。
どのくらい時間がたったのだろう。
「きゃっ!」という声でわれに返った。
直子だった。
倒れている田島を見て立ち尽くしていた。
「何これ、どういうこと、何で倒れてんの?」
直子は興奮してまくしたてた。
「死んでる。」
俺は呟いた。
「えっ、何、何て言ったの?」
「だから死んでるんだよ。俺が殴ろうとしたら、あいつがよろけて勝手に後ろに倒れた。
それでこうなった。」
「こうなった、じゃなくて救急車呼んだの?」
「呼んでない、だってもう死んでるよ。」
「まだ助かるかもしれないわよ。いいわ私が呼ぶから。」
「待ってくれ。」
俺は思わずそう叫んだ。
「そんなことしたら俺はどうなるんだよ。」
「そんなこと言ったって。」
直子も言葉を失っていた。
殺意もないし、未成年だ。たいした罪にはならないだろう。
だが、自分が死に追いやったことには変わりはない。
こんなことを親が知ったらどう思うだろう。今まで大事に育ててくれた両親を悲しませる
ことになるのだ。
相手方の家族にもどんな顔をすればいいのだ。
人を一人殺してしまった。
俺はこの先、ずっとこの重圧に耐えていけるのだろうか。
「何とかならないかなぁ」
俺はすがる思いで直子に言った。
「何とかって、逃げるってこと?」
そうだ、今逃げれば何とかなるかもしれない。
「このまま逃げても、一人で倒れるわけないんだから、誰かといたのは明らかよ。
徹を見かけた人がいたら、間違いなく疑われるわよ。」
「そうか」
「ねえ、どうしてこういうことになったわけ?」
どうやら直子も助けを呼んでも助からないと察しがついたのだろう。
俺はいきさつを話した。
「それって私のせい?」
「まぁ、そういうことになるかな。こいつなんだろ?」
「そうだけど、何も殴らなくても。」
「あいつから先に手出してしたんだ。あんな変態野郎一発殴られなきゃ気が付かないんだよ。」
「それだけじゃ済まなかったわね。」
直子はもう冷静だった。
直子は少し間を置いてから話し始めた。
「ねえ、私すごいこと思いついたんだけど。」




