プロローグ
時は平成、世は泰平。街では人々が平和を謳歌していて、少なくとも命の危険を感じる事の無い現代。そんな今の京の街(つまり京都市)で私こと真澄鳥海はいつも通り中古ゲーム屋でゲームを買って、帰宅の路に就こうとしていた。
「目当てのゲームは手に入ったけど・・・・・・うっとおしい雨だなぁ」
天候は土砂降りの大雨。アスファルトの臭いが漂う帰り道に私は片手に傘、もう片方にビニール袋を持って歩いていた。うん、非日常が一切無い私の日常だ。
いや、違った。どういう訳か非日常が1つ。この土砂降りの雨の中で傘もささずに突っ立ってる人影を見つけてしまう。
「(家出?でもなんか違うよな?)」
その人影は巫女服を少し動きやすいように露出を増やした服装を着ている少女で、ただ無表情で周りからの痛い視線を物ともせずに立っていた。すごい精神力だと思うよ、私ならまず耐えられないね。あんな羞恥プレイ。
が、よくよく見てみると明らかに違和感を醸し出している物体を発見してしまう。
「日本・・・刀?」
少女の腰に携帯されている物体。それはよく時代劇とかで目にする事は出来るが、現代の現実ではまず目にする事の無い物騒な刃物。日本刀だった。銃刀法違反だよな?
しかし少女はコスプレのつもりだろうけど法治国家である日本では刃物をチラつかせたりすると大体は青い制服に拳銃と手錠をぶら下げた厳つい人達(一部の人達の表現では『国歌の犬』)に絡まれてしまう。この少女も例外ではなく、誰かが通報したのか警察がどこからかやって来て職質を掛けられ始めていた。
「あー、お嬢ちゃん。コスプレかな?その刀は本物じゃないよね?」
「・・・・・・」
「両親は?家は何処なのかな?」
「・・・・・・」
警官2人が少女を取り囲んで質問をするが少女は一向に答えない。そして少し苛つく警官とそれを他人事で眺めつつ足を進める私。しかしその少女、よくよく見るとかなりの美人だ。整った顔に真っ白い陶磁器のような肌、そして綺麗に手入れされてポニーテールで纏められた綺麗な黒い髪。同性の私でさえ少し見入ってしまう位の美人さんだ。戦巫女のような格好をしているが実はあまり運動出来ない大人しい子と見た。
「貴様っ!我を誰だと思ってるか!室町幕府13代将軍足利義輝であるぞっ!」
私の予想は大外れ。携帯していた刀に手を出した警官の手を払って少女は高らかにそう名乗り、抜刀せずに警官の首に重い一撃を入れる。その動きはと声は外見からは想像出来ない程大きく機敏だ。
「なっ!君!逮捕だ、公務執行妨害で逮捕だ!」
当然警官を殴ってただでは済まず、もう一人の警官が警棒を取り出しつつ少女の手首を掴む。
「ふん、我を倒したければ腕を磨く事だな」
そう言うと自称:足利義輝は鞘を警官の鳩尾に突き、首を軽く叩いて警官を落す。
「たわいもない。全く、っと」
伸びてる警官2人を尻目に少女はまた無表情に周りを見渡し、直立不動の姿勢に戻る・・・・・・かと思いきや私と目が合ってしまう。これは所謂非日常との邂逅って奴では・・・?
「ふむ、お主!我の所に来い!」
ご指名が入りましたー。ああ、全く嬉しくない指名だ。しかし転がっている警官と同じ目に遭いたくないが故に少女の指示に従う私。周囲の目線も少女には痛いのを、私には同情にも似たようなのに変わっている。
「お主、名は何と申す?」
「へ?名前?ま、真澄鳥海・・・」
「決定じゃ。お主を我の家臣にするぞい」
・・・・・・はい?この少女は何を申されているのでしょうか?家臣?何時代?ていうかさっき足利義輝って名乗ってたよな、足利義輝って言ったら剣豪将軍のあの人だよな?
「な、何を・・・」
「少し落ちるが辛抱するのじゃ、ほれ」
少女はそう言うと私にデコピンしながら、何かの呪文を唱える。そして呪文を唱え終えた瞬間、周囲が歪み始めて激しい閃光と共に私の意識をシャットダウンしてしまった。