1出会い
生まれながら父がいなかった私、母も数年前に亡くなり母が残した薬草店をひとりで切り盛りして来た私に生まれて初めて好きな人が出来た。
彼の名はルカ。騎士でここアルベガ国の北辺境ルクラに任務でやって来た人だ。
北の辺境は魔獣は出没するし魔毒の発生する原生林もある。暖かくなると魔獣の出没も増えるのでルクラの辺境伯は王都に騎士達の派遣を要請している。
だから街の人たちは王都からやって来た騎士達には、そんな危険な場所に来てくれてと温かく出迎える。
そして年に一度の星祭りが終わると騎士たちは王都に帰って行く。
私は薬師としての資格も持っていて週に一度辺境騎士団の診療室を訪れる事になっている。
辺境では医者が不足しており薬師である私が薬の補充や軽い怪我をした騎士の手当て、病の人の容体を見て薬を調合したりするのも仕事だった。
3カ月前、王都から来た騎士のルカは着任早々足首を痛めた。
彼は子爵令息で王都でも有望な騎士ら使途さっそく友人のエリーナから情報が入っていた。
王都からかっこいい騎士が来たと。
私にはそんなこと関係ないと思っていた。
でも、診療室に入って来た彼は栗色の艶やかな髪に灰青色の瞳をした騎士だった。彼は驚くほど整った顔立ちをしていた。
さすが王都騎士は見た目がすごいと思った。ほんの少し心が揺れて診療室でルカの手当てをする事になり緊張した。
「先生すみません。俺、早速やらかしたみたいで」
ルカは以外に気さくに話しかけてきた。
さすが王都の騎士は女慣れしている。
「あっ、いえ、私は医者ではありません。ここに出入りしている薬師でして」
「あっ、すみません。てっきり」
彼は後ろで結った髪まで一緒にわしゃわしゃ掻きまわした。
「いえ、医師が不足しているので打撲程度の手当ては私がします。脚を見せてもらっても?」
ルカは目の前の椅子に腰を襲るとブーツを脱いでひねった脚を目の前に晒した。
下肢だけなのに筋張った筋肉に思わず躊躇する。いつも見慣れているはずなのにこれも王都の騎士だから?などとおかしなことを思った。
「せんせ、い?」
ルカが何か間違ってるのかと怪訝そうな目をした。
おかしな考えを吹き飛ばしてすぐに目の前にある怪我に集中する。
「いえ、少し触っても?」
「はい」
ルカの脚は少し腫れていたが、骨には異常はなく捻挫まではいかない筋肉の腫れだった。
「捻挫までは行ってないようですが職業柄しっかり治しておかれた方がよろしいかと思います。数日は仕事を休んで」
「いえ、大丈夫です。俺、これくらい何でもありません」
ルカが突然立ち上がった。
「ッツ!!」
「だから無理は禁物だと言ったはずです。無理をすればそれこそ後に痛みが残って騎士として支障が出ます。ここは数日無理をせず腫れが引くまでは休んで下さい」
「あなたは医者でもないんでしょう?だったら俺の行動を決める権利はないはずです」
「いいから座って下さい。手当が出来ませんから」
声が大きくなった。
彼は納得いかない顔をしながら渋々椅子に座った。
その間もぶつぶつと文句を言い続けた。意外と正義感が強いのかバカなのか彼は矛を収めなかった。
私は苛つく気持ちながらも手際よく湿布を貼り包帯を巻いた。
せっかくいい男と思ったけど取り消しね。彼はただの患者。何度もそう言い聞かす。
「こんなぐるぐる巻きに‥大げさなんだ」
彼は大きなため息をつく。
「ええ、無理に休めとは言いません。私はあなたの為を思って忠告しただけですから。とにかく替えの湿布を3日分渡しておきます。今夜寝る前に貼り直して下さい。明日は私は来れませんので渡した湿布を自分で毎日張り替えて下さい。3日ほどすれば腫れも引いて痛みも治まると思いますので」
「自分でやらなきゃいけないのか?明日も先生が来てくれればいい事だろう?」
彼は何でみたいな顔で言った。
またか。
今までも王都から来た騎士は同じような事を言った。王都では医者がいるのは当たり前で診療室には医者が在中しているとが当たり前なのだ。
「申し訳ありません。ここは王都ではないので医者がここに在中していませんし、私も自分の店がありますので毎日ここには来れません。それに仕事も休みたくない程度の怪我のようですし‥」
「なんだよ。それはそれだろ」
ルカは気に入らないと言った口調で差し出された湿布をむしり取るように診療室を出て行った。




