【第1章】【第1節】ブラックな宮廷を追放された錬金術師、故郷を救ってスローライフ(仮)へ旅立つ
第1章 空飛ぶ龍と青き限界
第1節 ブラックな宮廷を追放された錬金術師、故郷を救ってスローライフ(仮)へ旅立つ
「アルス・ロウェル! 貴様の作るポーションは色が汚い! 生理的に無理だ! よって、この宮廷から追放する!」
……あの日、俺が王都を去る時に投げつけられた言葉は、今思い出しても失笑ものだ。
国王が危篤の際、俺が調合したポーションは、確かに見た目は泥水のようだった。だが、効果は絶大だったはずだ。
それを、あの無能な筆頭錬金術師の見た目が綺麗なだけのポーションを選んだせいで、国王陛下は一命こそとりとめたものの、意識が戻らない植物状態になってしまった。
あろうことか、奴らはその責任を全て俺になすりつけやがった。「アルスのポーションへの発言、呪いが陛下が植物状態にした原因だ」だのなんだのと言って。
まあ、いい。あんなブラック職場、こっちから願い下げだ。
俺は実家のある最下層の街『アッシュバーデン』に戻り、持ち前の錬金術チート……もとい、地道な技術で汚染を浄化してやった。
おかげで今やアッシュバーデンは空気も美味いし、野菜も育つ優良物件ならぬ優良都市になったわけだが。
「主よ、働きすぎだ。ブラック体質が染み付いているぞ」
執務室で書類と格闘していた俺の肩を、ぽんと叩く小さな影があった。
今は緑色のモフモフした毛玉。見た目は愛らしいマスコットだが、その正体は伝説の『翠玉の古龍』であるマリモだ。俺の数少ない、心を許せる相棒である。
「マリモか……。いや、故郷のみんなが喜んでくれるのが嬉しくてな」
「それは良いことだが、お主自身のメンテナンスも必要だろう。そろそろ有給休暇でも消化したらどうだ?」
「有給って……俺、フリーランスなんだけど」
「細かいことは気にするな。東だ、アルス。地図の果てにある未踏の地、『限界海域』へ行くぞ。あそこの魚は魔力を食って育つから、めちゃくちゃ美味いらしい」
マリモがニヤリと笑った(ように見えた)。
限界海域。人類未踏の秘境。
錬金術師としての探究心が疼かないと言えば嘘になる。それに、アッシュバーデンの発展のためには、未知の素材や知識は喉から手が出るほど欲しい。
「……分かった。たまにはバカンスも悪くないな」
「うむ、決定だ! 善は急げ、さっさと出発するぞ!」
こうして俺は、少しばかりの荷物と、溢れんばかりの解放感を胸に、東の空へと旅立ったのだった。




