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赤ずきんちゃんと狼さん  作者: 星狼


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3/6

相談

部屋の空気が、重く淀み始めた。

少女の声が、再び別のベッドへと投げかけられる。

青ずきん。

その名を呼んだ瞬間、狼の胸に新たな棘が刺さった。

別の少女の声が、静かに、しかし確実に部屋に響く。


「私、二人の答えで思った事があるんだけど、おばあちゃん達、赤ずきんの事、さっきどういう風に呼んだっけ? もう一度確認させて」


言葉は穏やかだ。

だが、その穏やかさの奥に、鋭い刃のようなものが潜んでいる。

右のベッドのおばあちゃんが、のんびりと答える。


「アタシは『赤ずきん』って呼んだよ?」


その瞬間、狼の鼓動が、獣のそれとは違うリズムを刻み始めた。

記憶を遡る。

自分の声が、喉から漏れた言葉を、冷静に、冷たく思い出す。


「……左のベッドのおばあちゃんは?」


青ずきんの視線が、こちらに注がれる。

毛布の下で、爪がシーツを抉る。

嘘は危険だ。

ここで偽るのは、自ら首を差し出すようなもの。

だから、正直に。

安全策を、選ぶしかない。


「え、え〜っと……アタシは……『お前』……」


声が、わずかに震えた。

少女たちの記憶に、まだ鮮明に残っているはずだ。

あの瞬間、獣の本性が零れ落ちた一言。

『お前』。

親しみなどない、ただの獲物に対する呼び方。


青ずきんは、静かに頷く。


「うん。おばあちゃん、二人共答えてくれてありがとうね。じゃあ、ちょっと皆で相談させてね?」


相談……だと?


狼の胸の奥で、何かが音を立てて砕けた。

やめろ。

やめろやめろやめろ。

相談なんて、必要ない。

直感で決めろ。

こんなところで、じっくり話し合う必要なんてないだろう!?


少女たちの声が、重なり合う。

赤ずきんたちの声が、柔らかく響く。


「ねぇ、どう思う?」


「私は、おばあちゃんに『お前』って呼ばれた事はないかな? いつも『赤ずきん』って呼ばれてた記憶がある」


「……それ、おばあちゃんが機嫌悪い時とかでも?」


「うん。おばあちゃん、機嫌悪い時でも、私の事『赤ずきん』って呼ぶよ?」


狼は、毛布の下で息を殺す。

やめろ。

相談なんて、よくないよ。

やめようよ。

質問は『どうしてお口が大きいの?』でいいはずだよ。

それで、俺が『お前を食べるためだよ!』と叫んで、飛びかかって、すべてを終わらせる。

それが、テンプレートだよね?

それが、この物語の定められた流れのはずなんじゃないかな?


なのに、少女たちは、ゆっくりと、確実に、狼の構築した幻想を解体していく。

鼓動は、止まらない。

獣の心臓が、ただの人間のそれのように、怯えながら鳴り続ける。


部屋の隅で、時間が、静かに、残酷に流れていた。

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