第22話 魔術の自己評価をしてみた
俺はトロールの死を確認して、起き上がろうとする。
しかし、顔を顰めて吐血した。
トロールに殴られたのは胴体だ。
肋骨が折れたのは確実で、内臓も傷付いたかもしれない。
俺は諦めて横になり、陥没した鎧を外して浅い呼吸を始めた。
(くそ、重傷だな……避けられないなら、せめて防御すべきだった)
やはりトロールの打撃は侮れない。
アンデッド化によって膂力がさらに上がっていたのだろう。
仮に盾で防いだとしても、今度は腕が潰れていた。
防壁の指輪を使えればよかったが、充填した魔力を使い切っていた。
どのみち他に有効な防御手段は無かったのである。
あの場面で上手く乗り切るのがこの先の課題だった。
俺は横になりながら水魔術で治療をする。
負傷箇所が水に覆われて痛みが治まっていく。
水魔術が体内まで浸透して肉体を修復しているのだ。
他の属性にも回復手段はあるが、水属性が最も効果が高いそうなので優先して習得した。
ただし、俺の魔力量では治癒に時間がかかる。
それまでは大人しく待つしかなかった。
目を閉じて集中するうちにビビがやってくる。
どうやら俺の剣を持ってきてくれたらしい。
彼女は心配そうに見つめてくる。
「ご主人、大丈夫?」
「ああ。魔術を習得しておいたおかげだな」
上体を起こした俺は鞄に手を突っ込む。
取り出した鎮痛剤を噛み砕き、回復力を促進させる飲み薬で胃まで流し込んだ。
さらに薬草の軟膏を各所に塗りたくる。
水魔術の治療で大きな怪我は修復している。
あとは時間経過に任せるのが一番だ。
自前の治療具で処置を進めていると、ビビが少し驚いた顔になった。
「……なんだか慣れてるね」
「新人の頃なんて満身創痍になってばかりだった。いちいち医者に任せたら金がいくらあっても足りない。だから自分で処置できるようにしている」
説明しつつ、俺は火魔術で傷を焼き固めて止血する。
仕上げに増血作用のある丸薬を口に含んだ。
そこまで済ませてようやく手を止める。
俺の全身には、過去の荒療治の痕跡がある。
古傷も多く、お世辞にも綺麗とは言い難かった。
ビビはもう見るのに慣れているものの、普通の冒険者に比べても多い部類だろう。
それでも生き延びているので、悪運だけは強いらしい。
魔術を習得したことで治療法が増えた。
今後はさらにしぶとくなるはずだ。
俺が横になっている間、ビビは周囲に魔物除けの結界を用意してくれていた。
しっかりと役目を果たしてくれることに感心する。
横に座った彼女は俺に質問をした。
「トロールを倒した感想は?」
「意外と苦戦しなかったな。最後にきつい一撃を貰ったが、それを除くとほぼ完璧だった」
俺は戦闘を振り返る。
全属性の適性を活かした立ち回りができたと思う。
相手の強さを考えれば、一方的な攻撃で勝利できたのは大きな功績と言えよう。
魔術でここまで変わるとは思わなかった。
これまでの戦い方を軸にしたままなのも気に入っている。
工夫次第でさらに色々なことができそうだ。
此度の探索の収穫は十分なので、地上に帰還することになった。
今回の最大の戦果であるトロールの防具はもちろん持ち帰る。
この防具には死霊魔術が仕込まれている。
改良すれば何らかの道具になるに違いなかった。
もっとも、俺にそこまでの技術はないため、ギルドに売るのが妥当である。
大きさ的に持ち帰るのが難しい防具は、闇魔術の収納機能で処理する。
俺は手元に漆黒の穴を発生させた。
その先には小部屋が広がっており、いつでも開閉可能で物を保管できるのだ。
そこにトロールの防具を押し込んでおく。
この収納機能は便利だ。
盗難防止にもなり、予備の武器を気軽に持ち運べる。
心配性な俺にとっては強い味方だった。
休息を終えた俺は、ゆっくりと立ち上がる。
すぐさまビビが身体を支えるように寄り添ってくれた。
「怪我は大丈夫?」
「もう平気だ。魔力もある程度まで回復した」
俺は軽く笑って問題ないことを示す。
迷宮での活動は、とにかく身体が頑丈でないと長続きしない。
骨折や内臓の損傷で泣いている暇はないのだ。
帰還したら然るべき施設で治療を受けるつもりだが、それまでは余裕で耐えられる。
魔物はこちらの事情など加味してくれないのだから。




