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アルカディアの境界 ‐空の奏者‐  作者: 絢無晴蘿
Noblesse Oblige外伝 聖ルキアの後悔と鏡の魔王。そして主人公ローズマリア
70/80

ローズマリアと魔王ハルファ


世界はあまりにも無常に出来ている。

一瞬の幻。胡蝶の夢。

それを留めることは無謀。

しかし、それでも、それでもただの一瞬を、永遠へと望む。

それは理を侵すコト。

決して明けぬ夜が無いように、炎はやがて燃え尽きるモノだから。


――なぜ?


それはなぜ。

失う事は哀しすぎる。

喪う事は苦しすぎる。

出来ることならこの手に永久に。

亡くすことのない様に、大事に大事に守り続けたい。

それが、私には出来るのだから。









昔、美しい少女がいました。

とても優しく、慈愛に充ち溢れた少女でした。

神に愛されたから、きっと美しいのでしょうね。きっと、優しいのでしょうね。

だから、彼女は神に愛されなかった他の人達から恨まれました。

いや、恨んだのではなく、嫉妬……でしょうか。


執拗な妬み。陰湿な執着。


さて、彼女はある時『不幸な事故』で美しさを失ってしまいました。

人々は、美しさを失ってしまった少女を憐れみました。

そして、嘲笑いました。

いつしか、少女は人々を怨むようになりました。


このような醜い姿。あの頃の美しさは見る影もない。

ねぇ、どうして?

私がなにか悪いことをした?

ねぇ、どうして?

私はなにもしていないのにっ!


やがて、少女は醜い外見から、人々から嫌われました。

それでも、少女は優しいままで、慈愛に充ち溢れたままでした。


さて、そこに通りかかったのは悪逆非道な魔王様。

彼は彼女をいたく気に入り、力をあげました。

人を殺せば殺すほど、美しくなる呪いをあげました。



さて、どうなったでしょう?

その少女は……?



「つまらないな」

悪逆非道な魔王は呟きます。

彼の前に居るのは、とても美しい残虐な魔女。

己をあざける者ども全ての首をはねとばし、自らを妬む者ども全ての胴を切り刻み、自身を嫌う者ども全ての血を浴びて、美しく君臨する魔女。

その姿を見て、魔王様は去って行きます。

この魔王様は、とても美しいモノがすきなのです。でも、目の前の者はあまりにも醜い。

自らの呪いが起こしたことだと言うのに、彼はつまらないと言って去っていきます。

魔女は、もっと、もっとと無関係の人々を巻き込んで災を撒き散らします。


しかし、魔王様はどうやら面白い事を考えついたようです。

去ろうとした足を止めて、魔女に言いました。


「あぁ、でも、やはり物語は幸福な終了が一番美しいと思うんだが、どうだろう?」


銀色の髪にアイスブルーの瞳。鏡の魔王と呼ばれることになる彼は、まるで悪戯をする子どもの様に無邪気に笑って去っていきました。



昔、ある所に美しい少女がいました。

しかし、少女は魔王の呪いで人を殺す魔女になってしまいました。

それを憐れんだ神様は、彼女を一つの木にしてしまいました。

それでも、魔王の呪いは強力で、木に近づこうとする人間は殺されてしまいます。

だから、少女は何時までも待っています。

魔王の呪いを解くことのできる、王子様を。


その森を通りがかった一団は、その奇妙な森に眉をひそめる。

噂の魔の森。

それを実際に見たことが無かったのだ。

馬に乗ったまま、その不気味な森を見つめる。

そのなかで、紅色の髪の幼い人物がその森に近づいた。

十にも満たないこどもだ。

「ローズマリア様っ」

周りの者たちはそれを慌てて止める。

どうやら、彼等はローズマリアを守る騎士らしい。

装備は軽装だが、騎士だと一目でわかる姿をしていた。

「ここには、呪いで苦しむ少女が居るのだろう?」

凛とした声で、ローズマリアは応えた。

「はい。しかし」

「ならば、その呪い……私が解きましょう」

そう言うと、ローズマリアは馬から颯爽と降り、森《少女》に笑いかけた。

「独りぼっちは辛かろう」





魔界――鏡為世界。

そこで優雅にティータイムを楽しんでいた魔王――ハルファレイズ・ミナカトールは突如首をかしげる。

「どうしました?」

相手をしていた少女人形のリュリュは、首を傾げて自らの主に聞いた。

「いや、昔遊びでかけた呪いを、誰かが解いたようだ」

「ハルファ様の呪いを……解いた?!」

ハルファレイズ・ミナカトールは魔王である。

それも、魔王の中でも『唯一の』と呼ばれる異端の王である。

そんな彼の呪い――戯れで掛けたとはいえソレを解いてしまった人間。それに、リュリュは不思議そうに首をかしげる。

そのような存在、居るとすれば幾年も昔に存在した聖女や鏡の巫女ほどの力をもつものではないのだろうか。

「くくっ。いまどきの聖職者が、オレの呪いをいともたやすくとくとはな」

嗤いながら、ハルファはカップを傾ける。

香りを楽しみ、色を愛で、満足したように口をつける。

「いつか、逢い見えたいものだな」

「それは無理な話でしょう。この世界から、出る事は許可されていないのですから……」

あたりは花々が咲き誇る美しい草原。その奥には古びた洋館。

彼等は優雅にティータイムを楽しむ。だが、境界を一歩でも越えれば、そこは魔界。太陽の光など一片も射さない暗く淀んだ世界である。

ここから彼は、出る事は叶わない。それこそ、この世界が終わる時まで、きっとこの狭い檻の中に閉じ込められ続けるのだ。

だが。

「それはどうだろう?」

なにかを知っているかのように、ニヤリと彼は嗤う。

その言葉はどういうことなのか。リュリュがその後何度聞いても彼は答えなかった。


ここは、人々の居ない魔王の世界。

魔王と呼ばれることとなってしまったティアロナリアの眷族が唯一安心できる場所。

光の届かない、現実との境界。

神々の居る場所に最も遠く、近い場所。


魔界の中でも辺境に近い場所にある鏡偽(ハルファの)世界で、彼等のティーパーティーは何時までも続く。



これは、魔王と人間の戦いが始まる何年も前の話。



第二部Noblesse Obligeの外伝となります。

何話か短編が続きます。

本編へつづく過去の話だったり、未来の話だったり……。


第二部の本編の方はまだ時間がかかりそうでいつになるか……。

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