ヤバめの錬金術師
翌朝のこと。
私の戸建ての家に、ピンクたちからの抗議の声が轟いた。
「断固として抗議するわぁ!」
「オリジナル、これは懲罰采配というんじゃないんじゃないかしらァ!」
ピンクたちを反発させたのは、私が発表したバイト先である。
色欲を宿す彼女たちは、華やかな夜の世界での活躍を望んでいたらしいのだが、そんなことは私が許さない。
ピンクが2名になってしまったのは予想外だけど、元々ピンクを1名は迎え入れなければならなかった。
事前に相手側にも話はつけてある。
「異議は認めません。あなたたちは今日から、近所のお総菜屋さんの厨房スタッフです。毎日コロッケを、揚げて、揚げて、揚げまくってね」
「「えええええええ……」」
なんかこう、イイ感じにエロいことができる職場を希望だった様子の二人。
だけどその筋は完璧に潰してある。私――志保谷エイの世間体を守るためには、いくらでも手を打つのが私だ。
「で、ブルーとイエローは今日から職探しだけど……アテはあるの?」
私が問えば、睡眠欲のブルーが眠そうな目をしながら頷く。
「ブルーはもう候補を見つけた。今日、面接に行く……」
「本当? 素早いわね。で、イエローは?」
食欲のイエローだから、飲食に行くのだろうか。
「あはは、ボクはまだ決めてないよ。少し様子を見たいと思ってね」
「様子を見るって、誰の?」
「オリジナルの様子を見るんだよ。ボクたち分身を全てバイトに割き、自分ひとりで街を守る――どうにも勇み足に見えるんだ」
ああ、そういうこと。
気づかわしげなイエローを前にして、私はフンと胸を張る。
「私は戦闘は完璧なの。それよりも金策が問題」
「……ねぇ、金策にこだわっているのって、もしかして過去のことが原因?」
うっ。
私はひるむ。
考えてもみれば、イエローやブルーも私の記憶を共有しているのだ。
当然、あの件だって承知のはず。
私が過去にやらかした事件のことを……
「ええ、そうよ」
私は同じ顔の相手に対して、声帯を絞るように声を出し、自らの過去と向き合う。
「転生魔法の研究に没頭しすぎてお金が尽きた時に、私は錬金術を使って、金を作り出してしまった」
「同じ志保谷エイであるボクが言うのもアレだけど……世界の金融市場をぶち壊しかねない案件だったよね」
「だってしょうがないじゃない!」
私は自己弁護に走る。
「研究していたら働く暇がなかったんだもの! だけど美味しいものだって食べたいし、家事は外注してぐっすり寝たい! だからどうしてもお金が欲しくて、錬金術があるじゃんって思って……っ!」
そうだ。
あの案件で、魔法少女に関わる者たち全てから非難を浴びせられ、私は謝罪に追い込まれた。だけどあれは全て私のなかの睡眠欲と食欲が悪かったのだ。
私のせいではない。
「うわぁ。今、今世紀最悪の責任転嫁の気配がしたよ」
「……これにはブルーもドン引き」
睡眠欲と食欲を宿された二人は、私の責任転嫁に敏感に反応した。
「ま、まぁまぁ! とにかく私は二度と同じ過ちを犯さないためにも、邪魔な睡眠欲と食欲を自らと切り分ける必要があったの! そしてその目論見は成功した!」
と、ここでピンクたちがおずおずと切り出してくる。
「えっと、オリジナル? 聞きたいのだけど」
「それだど睡眠欲と食欲だけ分離すればよかったんじゃない? なんであたしたちも?」
問われ、素で答える。
「えっ? 普通に性欲が研究の邪魔だったからだけど? 性欲がなくなればもっと研究に没頭できるし。欲望って基本的には邪魔なだけでしょ?
「「「「…………」」」」
私以外の場の志保谷エイが「大丈夫かコイツ?」みたいな目で私を見てくる。
心外な。
私は全ての欲望から解放された、究極の魔法少女だというのに。
「とにかく、私は現場で命を懸けるから、みんなはバイトでお金を稼いで!」
「「「「…………」」」」
「返事!」
はーい、と。
どこかやる気のない気配を帯びた返事が、場に満ちた。
とはいえ。
ブルーもイエローも、数日のうちにはバイト先を見つけてきた。
うん、素敵な流れ!
さぁ私は魔法少女の活動を頑張るぞ!




