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モンスターを鎧にする仕事  作者: タック
第二章

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息子と母

 ――それは数十分前の出来事だ。

 ウリエルとユーダイは爆破された旧工房に残された物資を回収しに行っていた。


「それじゃあ、俺はこっちの方を見て回りますね」

「はい、私はあちらを」


 ユーダイはウリエルと少しだけ離れたところで、まだ使える物資がないか探していた。

 爆撃によって様々なものが四散していたが、めぼしいものは見つけられない。

 しばらくして、そろそろ引き上げようと思ったそのときだ。

 ガサッと木々の奥から音がしたのだ。

 それなりに場慣れしているユーダイは、風の音ではないと判断した。

 方角的にも味方がやってきたのではない。

 機魔国側からだ。


(警告――すら必要ないな。量産型モンスター防具の力を試すか)


 詠唱は気が付かれる可能性がある。

 ユーダイは剣を鞘から抜き、音がした方へと疾走して木々ごと強引に袈裟斬り。

 標的の意表を突いて一方的な奇襲だ。

 何かガシャッと金属音がした。

 そこには鉄パイプで形作られたような、人型の簡素なゴーレムがいた。


「なんだ、これは」


 先ほどの奇襲で片腕を切断することに成功したようで、ダメージを負っている。

 ユーダイはすぐに機魔国の機械モンスターだと判断してトドメを刺そうとするが――。


『ユーダイ』

「……なぜ俺の名を」


 機械モンスターは、人間とは違う電子音の耳ざわりな声を発した。


「グラウ・グスタフから名前を聞いたのか? それともまさか……村のかーちゃんからか!? 拷問でもしたのか!!」


 ユーダイは敵対する自分のせいで、母親が何かされて情報を吐かされたのかもしれないと思った。

 苛立ち、怒り、自分の名を呼ぶ卑劣なる機械モンスターにトドメを刺そうとする。


『ユーダイ……立派になったねぇ……』

「な、何を……」

『夢だった偉い騎士様になれたかい……? 村では鍛冶仕事ばかり手伝わせてごめんねぇ……』

「まさか……かーちゃん……。いや、そんな馬鹿な……だって……これは機械モンスターで……」


 ユーダイは混乱して剣を落としてしまう。

 そこでハッと気が付いた。

 もしかしたら、これはグラウ・グスタフが油断させるために聞き出した情報を喋らせているだけなのでは、と。

 罠だ。


「しまっ――」


 機械モンスターは残った片腕をユーダイに近づけてきていた。

 殺されると思い身構えるも――。


『ユーダイ、おっきくなったねぇ』


 その機械モンスターは片腕で抱き締めてきていた。


「かーちゃん……。なんで……こんな姿に……」

「ユーダイさん、危ない!!」


 そこへウリエルが駆け付けてきた。

 ユーダイが危険だと思い、翅剣を出現させて斬りつけようとしたのだが――。


「!?」


 機械モンスターは、ユーダイを守るように立ち塞がったのだ。


「俺の!! 俺の母親です!!」


 それを聞いたウリエルは急いで止めようとするも、間に合わない。

 血飛沫が舞う。


『ユーダイ……』

「あ、ああ……!?」


 機械モンスターは真っ二つに――なっていなかった。

 飛び散った血はウリエルのものだ。


「失礼しました、ユーダイのお母さん」

「う、ウリエルさん!? 何をやってるんですか!! 自分の腕を盾にするだなんて!?」


 ウリエルの翅剣は、ウリエルのもう片方の腕に深く食い込んでいた。

 位置的に骨を切断していて、皮とわずかな筋肉でプラプラしている。


「お母さんは大事にしなさいって、お婆ちゃんも言ってましたから」

「だ、だからって……」

「気にしないでください、これは私ができなかったことですから。それよりも普通に出血死する可能性があるので、治療魔術をかけて頂けるとありがたいです」

「そ、そうですね!! まずは止血します!!」


 ユーダイは急いで回復魔術を唱えて止血をした。

 その間、ウリエルは機械モンスターをジーッと見つめる。


『息子がお世話になっております』

「いえいえ、こちらこそです。……ユーダイさんって、機械モンスターとのハーフだったんですね」

「違います。ウリエルさんは何か勘違いしているかもしれませんが、母は人間でした。なんで機械モンスターになっているかは理解できませんが……」

『村で線路を作るために働かされて、動けなくなったらこの身体にされてしまうんだよ』

「そんな……それじゃあ……村のみんなは……」

『結構な数がこの身体だねぇ』

「クソッ!! グラウ・グスタフめ!!」


 ユーダイは怒りをどこかにぶつけたかったが、今はウリエルの治療に専念しなければならない。


『ああ、そうそう。それでグラウ・グスタフに脅されてここまでやってきたんだけどね。伝えてくれって』

「あいつが……?」

『なかなか来ないからしびれを切らしてカッとなって撃ってしまった。もし無事だったら早く村へ来い、さもなくばレイリ姫も同じような身体にしてやる――って伝言』

「くそっ! そもそも、グラウ・グスタフが最初から期限を決めておかないからだろう!」

「それはそうですね、機魔族って頭が良いイメージだったんですけどねぇ……。おっ、血が止まりました。それじゃあ、いったん戻りますか」




 ***


「――という感じです」

「すまん、防具作りに夢中でなんも聞いとらんかった」

「ぶった斬りますよ」

「冗談だぞ!? 斬るはお前の腕だけにしておけよ!?」


 移動工房の中で騒がしい声が響く。

 ウリエルは翅剣を収めて、アルプスからの本格的な治療魔術を受け続けていた。


「まぁ、何となく理解はできた。村の現状は労力として扱われて、使えなくなったら機械に置き換えるという民族浄化が行われているということだな」

「民族浄化?」

「人間を減らして、貴魔族側を増やすってことだ。アイツらにとっては一石二鳥、なかなかにやるじゃないか」

「イストさん……お母さんが機械にされてしまったユーダイさんの前でそれは酷いです。どういうことですか? 説明してください」


 ウリエルだけじゃなく、ギルドメンバー全員の視線が集まっている。

 前の英雄を見ていた目から変わって、異質な者を見る目だ。


「聞かれたら答えるぞ。俺は正義の味方じゃない、ただ自分の作りたい防具が作れたら満足なだけだ。だから、別に人外の種族を憎んだりはしていないし、善悪も興味がないし、レイリの世界を救うという夢も馬鹿げている」


 周囲はザワザワし始めた。

 このイストをリーダーにして付いて行って良いのか、悩む者も出てきたのだろう。


「――だが、馬鹿げた夢ほど面白いモノはないだろう。俺が防具を作ることで世界を救う結果になるのなら、俺は協力してやる。その道半ばにいるグラウ・グスタフをぶっ倒す防具を作ることにな!」


 周囲は納得したようで歓声が上がった。

 この絶望的な状況の中で立ち向かうことができるのは、レイリのような正義感か、イストのような絶対的な狂気だけだろう。

 そこでイストはふと疑問に思い、ウリエルに小声で聞いてみた。


「ウリエル、なんで今さらあんなことを聞いたんだ? 俺がどんな奴かっていうのはお前が一番知ってるだろう?」

「たぶん心が折れちゃいそうな人が出てきそうだったので、景気付けの再確認ですよ。ほら」


 ユーダイが男泣きしながら近付いてきた。


「イストさん、俺一生あなたに付いて行きます……!」

「うわっ、急にどうした!?」

「かーちゃんがあんなことになって絶望して、それでも希望を見せてくれたイストさんは……英雄ですよ……誰が何と言おうと……」

「お、おう?」


 きょとんとするイストは、バシッとウリエルに叩かれた。


「ほらっ、しっかりしてくださいよ。私は腕をやっちゃってしばらく戦えないので離脱しますが、士気は上がったのであとは何とかしてくださいね」

「えっ、マジか。ウリエルがいないとなると少し不安になってきたぞ……」

「俺!! ウリエルさんの代わりにはならないと思いますが、イストさんのことを命に替えても守りますから!!」

「ユーダイ、暑苦しい!! 離れろ!!」

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