第279話 真田家で明かされる真実
夏の昼下がり、春風の心を現したかのような、それは今にも雨が降り出しそうな薄暗がりの中、自転車は小田原に向けて走り出した。
自転車の練習を兼ねたちょっとした気分転換の遠乗りではあったが、いつものようにペダルが回せない。
「ペダルが重いな。ならギアを一、二枚落すか?」
「カシャン」
「おお、回る……」
スピードこそ落ちてはいるが、なんだろう、ライティングが心地良い。
そしてこれまで違和感を感じていた一つ一つの燻りが、次第に噛み合いだし、視界が開けていくのを感じる。
父・祐一は、翔子の父と同じく商社で働くビジネスマンであると話していたこと。
翔子は春風と姉弟関係を持つことに喜びを感じていたこと。
翔子が一緒に暮らしたい言っていたことや、岩下顧問から聞かされた、翔子は実の弟と離れ離れになっていると言うこと。
僕が実弟であると仮定するなら、すべてが噛み合ってしまう。
同時に深まる疑問も生まれる。
母はなぜ僕を連れて離婚しなかったのか?
その理由が堂島鉄心だからなのか?
堂島鉄心が、今になって僕に会いたいと話しているのはなぜか?
やはり堂島が父なのか?
堂島鉄心が頭から離れない!
自転車は見えない景色の中を駆け抜け、気付けば真田宅に到着していた。
「ピンポン」
「早乙女春風です」
「おお、ちょっと待って……」
玄関から雪の父である真田明生が現れた。
「春風くんか? 大きくなったね。その格好を見ると自転車で来たのかい?」
「はい、ライフワークですから」
「そうか……さあ、お入りなさい」
「はい」
春風は脱衣所でサイクルジャージから普段着に着替えた後、リビングに入った。
「お久しぶりね、春風くん」
と雪の母・真澄がキッチンから顔を出した。
「お久しぶりです」
と春風も懐かしそうに応えた。
「今、雪に声かけたから、もう部屋から降りてくるよ」
「ガチャ」
「春風、早かったわね?」
と雪が現れた。
しばらく歓談する中で、春風は父・早乙女祐一と雪の父・真田明生との出会いから、これまでのことをつぶさに聞き入りながら、話題には上がらなかった自身の母・美奈子について聞いてみた。
「祐一の前妻のことは詳しくは知らないんだが……」
と言いかけた明生を静止するように、真澄が言葉を重ねた。
「お父さんから聞いていないの?」
「ええ、母と姉は交通事故で亡くなったとだけ」
真澄は祐一の顔をチラリと見たあと、こう続けた。
「春風くんはなぜ私たちに美奈子さんのことを聞こうとしたのかしら?」
春風は神妙な顔をして、手紙をバックから取り出してふたりに見せた。
雪も覗き込むように手紙を見入った。
「堂島鉄心……堂島ってあのヤクザじゃないの、パパ?」
と雪が不安そうな顔つきで祐一を見た。
「そうだな、あの駅裏にある堂島組の組長だ」
春風は明生に尋ねた。
「母はなぜ父と別れて堂島と……その訳が知りたいんです。そして、この手紙が本当なら、僕は……」 悲しい表情を見せた春風を明生が諭す。
「確かにキミの母は、堂島鉄心のところへ身を寄せたのかも知れないが、キミは堂島の息子ではないよ」
春風はその言葉に喰いついた。「どうしてそんなことがわかるんですか?」
明生が覗き込むと、真澄は首を縦に振って見せた。
明生は春風に向き合い話を始めた。
「これから話す話を信じるか否かはキミ次第だが、かつて祐一から相談されたことを聞いて欲しい」 すると立っていた雪もソファに座り、明生を囲うように皆が耳を傾けた。




