第20話 真実
「ただいま!」
「お帰り! どう、上手く乗れた?」
「良かったよ、バッチリ!」
翔子は店長にブイサインして、笑って見せた。
「余裕だね、翔子は!」
「そうだ、お弁当ありがとう」
「どいたしまして、で、この後は?」
翔子は残りのリンゴ飴を口に頬張る。
そして、店の時計を見ながらスマホを覗き込んだ。
「支度できたら出発するわ。明るいうちに、宮崎まで行きたいから」
「そう言えば、早乙女くんはどこなの?」
と店長は翔子に尋ねた。
「さっき、すぐ戻るからって、自転車で出かけたわ」
「そうなのね」
「その方が私にとっても、良かったかも……」
「彼に話したの?」
「いいえ、それはパパとの約束だから」
「頑なね、そんな約束守らなくても良いんじゃないの?」
「それはダメ、パパにも春風にも迷惑がかかるから」
「そうね。あの子にとってあなた達は生きているはずのない存在、そして、あなたの母親にとっても生きているはずのない存在」
「事実を知ることになれば、何も知らないあの子を苦しめることになりかねないから」
「でも、春風くんと会いたくて仕方なかったんでしょ?」
「ええ、会って益々愛おしくなりました。だから、真実を語らずあの子に近づいた分、与えられる愛情を私が最大限に注ぐつもりよ」
「覚悟は理解したわ。頑張んなさい」
「ええ」
「春風くんのことは、遊も親代わりみたいになってるから大丈夫よ。気をつけて行ってらっしゃい」
「じゃあ荷物まとめてくるから」
「そうそう、ガレージにパパからボードが二本送られて来てるわよ」
「いいタイミング! あれだね、ほら?」
「渡に船?」
「そうそう、それよそれ。一本ちょうどリペアしたいのあったから」
「今回のサーフトリップは何本持ってくの?」
「一本入れ替えて、計三本かな」
「今ガレージに誠くんがいるから聞いてみて」
「ありがとう、見てきます!」
「こんにちは! 誠さん!」
「ん?」
背を向けながらサーフボードの手入れをしている誠は、呼びかけに反応したものの、作業に集中していた。
「お邪魔します」
と小声で言いながら、そっと近づいた。
「これ、誠さんの大事にしてたダレンじゃないですか?」
誠はボードを見つめたまま、静かに話しかけた。
「ヒビのリペアしたけど、寿命か?」
「左手腕の怪我? どうしたんですか?」
「……慢心、かな?」
「大丈夫ですか?」
「こいつに助けられたのさ」
「大きなひび割れ、ですね」
「ここまでだと、もう使えないんだけどね、思い出があるからね。リペアして飾るよ」
「かつて、世界戦を一緒に戦った相棒でしたよね?」
「詳しいね、翔子は」
「まぁ、誠さんにサーフィン教えてもらってましたから」
手を止めた誠が思い出したかのように問いかけた。
「宮崎の木崎浜、だったよね?」
「はい」
「あっ、そこにハワイからボード来てるよ」
翔子は、壁に立てかけられた二本のPYSEL製のサーフボードを見つけた。
「出しておいて頂いて、ありがとうございます」
「いや、どうも」
翔子はボードのボトムをノーズからエンドまで手で触ってみた。
「今度のはダブルコンケーブで、ノーズからプレイングロッカーまでが押さえ気味だから、ドライブ性能が高くなりそうだ。けど、フィンエンドロッカーが強いから、安定した操作性を確保するためフィンはノーマルベースのパフォーマンスコアくらいが、スピードに乗せるのが上手い翔子ちゃんには、あってるかもね」
「アドバイス、ありがとうございます」
「もう一本は、日本の波では力が発揮されないバランスのサーフボードじゃないかな。ひょっとして……
海外戦かい?」
「そう、チャンスがあれば、いつでも行けるようにと」
「楽しみだな。そうだ、翔子ちゃんのやる気に火をつけたあの子、神楽紗矢香だっけ?」
「あの子はもうダメよ。中学三年時の世界戦で、接触事故を起こしてから、サーフィン競技には出てないの」
「突如消えた天才サーファーか……」
誠 僕の説明専門用語ばかりでまずかったかな?
翔子 まあ、サンフィンの用語は掴みにくいかも?
春風 僕にはさっぱりです。
誠 わずかな出番なのに、やらかしたかな?
翔子 次回「旅立ち」
春風 お楽しみに!