第21話 旅立ち
「美涼さん、宮崎に行ってくるね」
「翔子ちゃん、頑張ってね」
「カランカラン」
店の扉が勢いよく開いた先に、春風が現れた。
「間に合った! ハァ、ハァ、ハァ」
春風は息を切らしながらパーカーのポケットから小袋を取り出し、翔子に差し出した。
「これは?」
「お守りなんだけど、折鶴……なんだったっけ?」
美涼は、翔子が取り出したお守りを見るなり、
「折鶴叶え守だわ」
と組紐の先の折鶴を触りながら話した。
「春風、鶴岡八幡宮まで行ってきたの?」
「ああ、以外に距離があるんだね。でも、間に合って良かった」
と言いながら安堵し、近くにあった椅子に腰を下ろした。
「大事にするね!」
「怪我のないよう祈ってます」
お互いに大事な言葉だけを交わした。
「さぁ、二人ともしばしのお別れだね。春風くん、ガレージ前まで行こう。誠くんが車出してくれるから」
「美涼さん、ここでいいよ。春風も。みんなに見送られると、泣く場面じゃないのに泣きそうだから」
「そうね、それじゃ、ここで、頑張りな」
「ども」
「じゃあ、姉さん。頑張って!」
「おお」
翔子は春風とグータッチした後、店を出て行った。
背負ったカバンには、お守りの折鶴が揺れていた。
バイトの面接案内
心にまた、ポカンと風穴が空いてしまったような、三日前の何もなかった僕に逆戻りしたような、そんな気持ちになっていた。
そんな気持ちを嘲笑うかのように一本の電話が入った。
「こんにちは、ニコニコマートの神楽です」
「あっ、早乙女です」
「あの、一つ店長からの確認が入りまして、早乙女さんは学生さんですか?」
「はい、そうです」
「そうですか。実は店長が諸般の事情により長期不在にしておりまして、採用面接が直ぐにできかねると……」
これは遠回しに断りを入れてきたのか?
「分かりました。それでは失礼します」
「ピッ」
あーあ、残念。でも不採用ならそれっぽい言い方にしてもらった方が、スッキリするのに!
学生は使いずらいから、フリーターとかの方がいいってことなのか?
「トゥルルルル……ピッ」
「なんで私の話、途中で切るかな!」
「なんでって、不採用なら、もっとストレートに断って下さい。店長さんも学生バイトはいらないんでしょ!」
「……バカねっ」
「バカ? バカ呼ばわりするな!」
「ほんとバカね! 断ってなんかいないじゃない! そうね、あなた、中高校生ね」
「えっ?」
「人の話が最後まで聞けないもの。アルバイトであっても社会で働くんだから、傾聴ができなきゃね」
なんだ、好き勝手言ってさ!
苛立つ!
……けど、この人の言ってること……ムカつくけど、間違ってはいない、か。
あっ。
ついつい感情的になってしまった。
恥ずかしい。
「あの、未熟な態度を取ってしまって、申し訳ありませんでした。今回は、貴重な社会勉強をさせていただきました。せっかくお電話いただいたにも関わらず、傾聴することなく、思い違いをして、不快な思いを神楽さんにさせてしまい、大変申し訳ありませんでした。それでは失礼致します」
「ふふっ、君、そんなよそ行きの言葉をスラスラと話せるなんて凄いじゃない?」
「それ、どう言う意味ですか?」
「ごめんね、からかった訳じゃないの。ただ、上手く話せるのねって感心したのよ」
「そうですか」
「じゃあ、採用面接の話、してもいいかな?」
「えっ、あっ、はい、お願いします」
「店長の採用面接が直ぐにはできないので、代わりに吉野店長代理が面接をすることになりますので、明日午前十時に店舗まで来ていただけますか?」
「もちろん、行かせていただきます!」
「分かりました」
春風は一つ腑に落ちないことを尋ねた。
「一つだけ、聞いておきたいことがあるのですが?」
「あら? 何でしょうか?」
「冒頭で、学生かどうか尋ねられたと思うのですが、これは何のためなんですか?」
「そうですね。私、聞きましたね、確かに」
「ですね」
「ただ何となく、かな?」
ただ、何となく……?
「では早乙女さん、明日十時に遅れないようにねっ」
「分かりました」
神楽 早乙女くんはなぜバイトを?
春風 この先お金がいろいろかかりそうだからです。
神楽 女子寮は仕事じゃないの?
春風 仕事と言わないと、変態扱いですか?
次回「誰もいない女子寮散策」
神楽 男の子ってそう言う設定好きだもんね?
春風 そんなんじゃ、ありませんから、本当に!




