512:どこも色々考えているみたいです!
■メルティエンリ 24歳
■第502期 Dランク【毒の塔】塔主
「んじゃあ相談所は継続ってことでいいね。しばらくは派手な塔主戦争も無理そうだけど」
「ああ、そうしてくれ。短期的には小銭稼ぎがメインだ。あとは新塔主の塔情報が入れば言うことなしだね」
「【愚者】【皇帝】【勇者】か」
「他にもどこかしらあるのだろうけどね。残念ながら私の情報網では掴めていないから」
ピーゾンの相談所は侵入者からの評判も良く、多くの塔主から恨みを買うことにも成功した。
その甲斐あって塔主戦争も出来たわけだけど……順調だったのは年明けくらいまでだ。
毎年、後期は塔主戦争の数もかなり減ると聞く。
昨期はそれでも多かったらしいのだが、それでもレイチェルの死があったからね。
それ以降はバベル全体が追悼ムードだ。塔主戦争なんて一つも起こらなかった。
侵入者の数も減った。それでもピーゾンは相談所を継続していた。
塔で腐らせておくよりマシだからね。真面目に仕事を熟したわけだ。
そして内定式を越え、二年目に突入した今後もそれは継続したほうがいいと私は考えている。
理由はいくつかある。
一つは、まだ敵を作れる余地があると思っているからだ。
【防刃】同盟のような馬鹿塔主はまだいるだろうし、今もまだ苛立っているヤツらがいるはず。
そいつらの目を離させないためにも継続する必要がある。
【毒の塔】が思いの外危険だとか、ピーゾンの異常性に気付いた連中も多いだろう。
とは言えまだ油断しているヤツらもいるはず。
「メイドに比べれば弱いに違いない」とかね。それは実際そうなのだろうけど。まぁそう思ってくれている連中を釣れたら万々歳ってとこだね。
二つ目は、新塔主の情報を集めたいってことだね。
僕の情報筋である錬金術師のお婆さんはバベルのことにかなり詳しいけど、さすがに新塔主の情報まで網羅しているわけではない。
だからピーゾンが直接冒険者に聞いたり、バベル一階の様子を窺ったりして欲しいというわけさ。
新塔主の中で注目すべきは【愚者】【皇帝】【勇者】の三塔だが、それ以外にもプレオープンで好成績を上げる塔があるかもしれない。
バベルの一階で侵入者が群がる塔を見られるかもしれないし、Fランク冒険者が興味本位で相談所に来るかもしれない。そこからも情報を得られるだろう。
そういった意味でも相談所に立つ必要があるってことだね。
三つ目は、新塔主たちに顔を売るため。
私たちは不特定多数の塔主から敵意を向けられなければならない。そのためには【毒の塔】を認知してもらう必要があるということだね。
新塔主のほとんどは【毒の塔】なんて知らないだろうから、まずは注目してもらうところから。
その後、「【毒】のせいで塔が攻略されそう」とでも思ってくれればいいだろう。
おそらく塔主総会後には新塔主からの塔主戦争申請がいくつかあるはずだ。
それを斃して小銭を稼ぐのも手なのだが……気を付けたいのは、『長生きさせたほうが美味しい塔』からの申請を受理しないことだね。
その取捨選択をするためにも新塔主の情報は知っておきたいところだ。
私の予想では今期も前半は塔主戦争が活発になる。
レイチェルの死から静かだったバベルは、その反動で活性化すると思っている。
その波に乗って塔主戦争を熟し、紛れることができればピーゾンの実力も隠せるかもしれないからね。
せいぜい利用させてもらうとしよう。バベルの流れにね。
■アレサンドロ・スリッツィア 65歳
■第472期 Sランク【聖の塔】塔主
昨年、アダルゼア大司教が【正義の塔】の新塔主となってから我々の立場はどんどんと悪くなっていった。
貴重な高ランク塔主の信者であったアドミラを【女帝】に嗾け、返り討ち。
アダルゼア大司教自身も【女帝】に討たれた、が、それはまぁいいだろう。正直助かったくらいだ。
しかしその後、やつらが街に流したであろう噂……アダルゼア大司教がアドミラを手駒のように使ったという事実が広まったころで周囲は騒がしくなった。
情報操作の巧い【赤】あたりの策略だろうとシュレクトは言っていたが、全く厄介な手を使ったものだ。
塔主らしくはない手であるものの、私たちにとって極めて効果的である。
すでに民意は向こうに傾いている。
勝者が正義の愚かな街で、勝ち続け、人気を得続けているのだ。
そこで私たちが何を言っても受け入れる土俵にない。
私たちが築き上げた実績など忘れたかのように、ヤツらの印象が上塗りされている。ふざけた話だ。
バベリオの創界教会には背信者どもが群がり凶弾めいた真似まで始めた。
そしてそれはバベリオから世界へと広がる。やがて国の総本山にまで噂は流れた。
当然、私たちには「一刻も早く【女帝】一派を消せ」との手紙が届いたが……それが出来れば苦労はしない。
教皇も含め、総本山の者どもはバベルのことなどろくに知らない者ばかりなのだ。
塔主戦争のことも、限定スキルのことも、塔主同士のしがらみも、何も知らない。だから命令すれば私は動くと思っている。
バベルのことを知っている者ならば誰でも分かるだろう。
そんな簡単に塔主戦争は起こせないし、動こうにも動けないのが高ランク塔主というものなのだと。
一応は塔主戦争申請はしたがそれだけだ。
受理されるわけもないし、ただポーズとして文を投げただけ。
猪の如く連戦している【女帝】であっても、さすがに私からの申請を受理するような馬鹿ではない。そんなことは承知の上だ。
なんとももどかしい期間を経て、バベルには一つの大事が起きた。
――【世界の塔】が消えた、と。
【鏡面】のミュラー司祭や【鋭利】のエッジリンク司教は喜んでいた。
おそらくその報を受けた創界教の関係者は同じような反応をしただろう。
不動の頂点が消えた。これで頂点は【聖の塔】となる。創界教がバベルのトップに立ったのだ、と。
バベルの頂点とは『世界の頂点』に等しい。
世界を統べるのは人間であり、それを導くのが創界教であるならば、バベルの頂点は創界教にこそ相応しい。――そんな気風は数百年前から総本山の中にあっただろう。
それがやっとのことで為されたのだ。喜ぶ気持ちも分かる。
しかし……当事者である私は素直に喜べなかった。報を聞いてからずっと渋い顔を続けていた。
私だけではない。隣にいるシシェートもそうだし、【雷光】のレイモンド司教もだ。おそらく同じ思考をしていた。
もちろんバベルの頂点が【聖の塔】になるのは事実だし、それ自体は喜ばしいことである。
私とて三十年以上も塔主として励んだ結果なのだ。やっと報われたという気持ちもある。
だが事はそう単純な話ではない。それはすぐに明らかになった。
少し間を置いて行われたのはフランシス都市長によるレイチェルの追悼式だった。
バベリオは『創界教の街』ではない。バベル神の神官であるフランシス都市長が収める自治都市だ。
だから創界教会で葬礼の儀式を行うのではなく、街ぐるみでの追悼式としたのは理解できる。
まぁ「たかが一塔主の死でそんな大それたことをしなくても」とは思ったがな。それが【世界】のレイチェルであれば理解のできる話だ。
とは言え、理解できるのは塔主である我々と、バベルに識のある街民くらいのもの。
遠く離れたペテルギアの連中には分からない。
実際「なぜ創界教会で葬礼を行わないのだ」とクレームが来たくらいだ。本当に馬鹿ばかりだな。
バベルのことも、バベリオのことも分かっていないし、私を本当に『バベルの頂点』と思っているならば敬ってしかるべきだろう。こちらに文句を言うこと自体、ずれている。
おそらく【聖の塔】の偉業も「自分たちの偉業」「創界教の偉業」と捉えているのだろうな。
未だに私を創界教の駒の一人と思っている。
だからこそ命ずればこちらはその通りに動くと思っている。呆れて物も言えんな。
そして追悼式にて【女帝】が演説したことで、さらに具合の悪いことになった。
さすがにフランシス都市長に抗議の一つでもしたくなったが、あれはバベル神とも繋がっている。やたらな真似はできない。
「都市長の企みというより、神の意思と考えたほうがいいでしょう。【女帝】を目立たせることが神の利になっていると」
「何とも迷惑な悪戯だ。我々は所詮、盤面の駒にすぎないわけか」
「駒が面白く動かれたほうが満足はしそうですがね。しかしこちらにとっても利はあります」
シシェートはそう言う。
街は【女帝】を称え、レイチェルの後継者として【女帝】を望み始めた。
それは「【聖の塔】は頂点に相応しくない」という悪評となり教会に対する凶弾の声は大きくなる。
それこそバベリオに留まらず、世界の各地でも同じような動きになるかもしれない。
同時に総本山も反発の声を上げるだろう。私にも「何が何でも【女帝】を斃せ」という手紙が来るだろう、とは思っている。
民意は【女帝】一派が【聖】同盟を斃すことを望んでいる。
総本山も塔主戦争にて【女帝】一派を討ち斃すことを望んでいる。
元々表面化していた敵対関係が、より現実的なところまで来ているのだ。
だからこそシシェートは『利』だと言っている。
早期に戦えないものかと画策していたところにレイチェルの死という吉報が入った。
それによって思っていたより早く塔主戦争を行える可能性がかなり高まったのだから。
「とは言え、私としては二案なのですがね。出来ることなら爪先ほどの不安もしたくはないのですし」
「私としても第一案はどっしり座って、そのまま居続けることなのだがな」
「バベルの頂点に相応しい、ご立派なお考えで」
「たわけ。それが可能ならば、という話だ。お前も分かっているだろう」
今回の全ての問題を解決する、一番理想的な方法は『何もしない』だ。
あと数年でもじっとしていれば、「バベルの頂点は【聖の塔】だ」と浸透する。ランキングでもパレードでもそう見せるのだから当然だ。
凶弾の声も沈静化するし、総本山の馬鹿どもも何も言えなくなる。
私がトップに居座り続けるだけで、全ての諸問題は解決するのだ。
しかし問題は「【女帝】が大人しくしているか」ということだ。おそらく無理だろう。
人気は衰えるどころか増している現状。塔は歴史的躍進を続け、やがてその差は限りなく狭まってくる。
【聖の塔】が抜かされることはないと断言できる。
少なくとも私が生きている限りは『バベルの頂点』が創界教であり続けるだろう。
だが、私が死んだ後はどうか。
【雷光の塔】だけでどうにかできるとは思えない。自然、『バベルの頂点』は創界教ではなくなる。
正直、レイモンド司教たちが抜かされても私の心が痛むということもないのだが……ペテルギアにいる家族は別だ。
子供や孫が総本山でも苦労しないよう、土台は整えておきたい。
となれば私は出来る限り『バベルの頂点』で居続けたいし、出来れば私が死んだあとも『バベルの頂点』は創世教であって欲しい。
そうなれば私の功績は「最初にバベルの頂点に着いた創界教徒」として根付くだろう。安心して冥土に発てるというものよ。
まぁそこまで皆に吐露するわけではないがな。
レイモンド司教の地位を盤石なものとするために、とでも繕っておく。
それは同盟の皆からも同意を得やすく、総本山を納得させやすい手だ。
シシェートならば言わずとも理解しているだろう。
そしてそれを成す策を考えているはずだ。
「いずれにしても今は静かにいるべきです。周りが騒がしくとも、何もしていないと見せる必要がある」
「例の策のためだな。それは理解している」
「時間がかかって申し訳ありませんがね。しかし追悼式のおかげで少しは予定を早められそうです。幸か不幸かは微妙なところですが」
「全くだ。頂点とは言えど、何ともままならんものよ」
「国のトップも、世界のトップも変わらないのですね。皆等しく苦労するものなのでしょう」
どっしり落ち着くこともできないとはな……頂点を夢見る若者どもに言ってやりたいものだ。
それほど座り心地の良い椅子ではないぞ、とな。
とりあえず連続投稿ここまで。




