471:毒の塔が動き始めました!
■メルティエンリ 23歳
■第502期 Dランク【毒の塔】塔主
「ひぇ~、どうなってんのよこの同盟は。この【節制】同盟っての相当強いんでしょ? よく戦えるし、よく勝てるもんよね」
「そりゃAランク最上位でランキング6位様だもの。強いに決まっているさ」
私には情報二割、想像八割くらいで考えることくらいしか出来ないけれど、それでも【節制】同盟がとんでもなく強いってのは分かる。
いくらピーゾンが強くたって勝てるとも思えないし、戦力は【毒の塔】の数百……いや数千倍だっておかしくはない。
魔物の数と質、それに加えて限定スキルやら経験やら何でも揃っているだろう。
「あっちが六塔だとしても二年目、三年目でどうやったら勝てるわけ? 私にはよく分からないよ」
本当だね。単純に考えれば、【節制】同盟以上の戦力は最低限必要だ。
劣っている部分ももちろんあるはずだし、だからこそ分かりやすく上回れるナニカが絶対にいる。
それがあったから【女帝】同盟は受けたのだろうしね。
そしてそれは【節制】同盟にとって理外のものでなければならない。でなければ塔主戦争は成立しないからね。
【節制】側からは見られず、【女帝】側には見えているもの――それが勝敗を分けたのだろう。
メイドか、限定スキルか、策略か……【節制】側が探ろうと思っても探れないナニカ。
バベル特有の『不透明さ』によって【女帝】同盟は勝てたんじゃないか、と私は思う。
ただそれ以前に戦力は必要で、それを揃えるだけのTPを二年目、三年目で稼いでいるという事実が問題だ。
ピーゾンじゃなくても「ありえない」と思考放棄したくなる。
まぁ戦績を見れば納得出来る部分もあるのだけれど、戦績を見れば見るほど「ありえない」と言いたくなるのだ。
私の調べた限り、【女帝】同盟……【彩糸の組紐】という同盟六塔だけで、今までに六十以上もの塔を斃している。
たった二年、三年でだ。
バベルで起こった塔主戦争の何割かが【彩糸の組紐】で占められ、その全てに勝利している。
その中には【傲慢】【魔術師】【空城】、そして【節制】【戦車】というAランクの塔も含まれる。
Bランクの塔など十六塔にも上る。
ほとんどの塔主戦争が格上相手の下剋上。これが異常でなくて何と言うのだ。
こうした戦績を見ていると『バベル特有の不透明さ』だけでは説明が付かなくなってしまう。
【節制】同盟戦ではそこが鍵になっていたのだと思うけれど、今までの戦いでも鍵であったかと言われると、それも違うなと。
だって、メイドや限定スキルが要因であったなら【女帝】以外が交塔戦で下克上出来るわけがないからね。
時期的に「まだ限定スキルは持っていないだろう」という時に勝っていたりもするし。
だから考えれば考えるほど訳が分からなくなる。どうしても矛盾が出て来るんだ。
バベルは暗い闇の中、なんてどこかで聞いたけど、私にとっては【女帝】同盟こそが闇そのものだね。
全く見えないし、全く理解出来ない。
凡人たる我々がいくら目を凝らしたところで見えるものではないのだよ。
「って言うか、あれだけ塔主戦争を出来ているのがまず信じられないよ。そんな簡単に成立するわけないじゃん」
「ああ、それは大体想像がついているよ」
「何さ。ちゃんとした理由があるの?」
「うん、彼女たちは″悪役″なのさ」
「ハハッ、随分と人気者の悪役がいたもんだね。街の人は悪役に大声援を送ってるのか」
「街の人にとっては紛れもなく英雄だろう。私が言ってるのは″バベルの塔主にとっての悪役″ってこと。彼女たちは最初から今までそれをずっと突き通しているんだよ」
自分より後に塔主になったのにランキングで抜かされた。
人気を独り占めしていてうざったい。
目障りだからさっさと消したい。
塔主だって人だ。妬み嫉みはあるし、焦りや恐れもある。
彼女たちはそういった塔主からの『悪感情の受け皿』になり続けている。だから申請もされやすいし、申請しても受理されやすい。
おまけに反貴族・反差別主義と謳ったことで貴族や創界教とも敵対関係になった。
まぁ塔主なんてどことも敵対関係であるものなんだけど、世間の目からも明確な敵対関係になったというのが大きい。
貴族は外聞を気にするし、創界教は世界中に教徒がいる。
街の評判は無視できない。だから【女帝】同盟を捨て置けない。
おそらく【女帝】同盟も最初はそこを意識していなかったはずだ。
悪役になるつもりはなかっただろうし、反貴族・反差別主義とも謳っていなかった。
ただ初期に塔主戦争をした相手が貴族だったり金持ちだったりしたせいで、そういったイメージがつき、彼女たちはそれを利用したんじゃないかと思っている。
それがアデルあたりの策略かどうかは分からないけれど。
「なるほどね。まぁ最初から『私たちはお前らの敵だぞー』とか言ってたら速攻で死んでるだろうしね」
「バベルの事を知ろうともしない新塔主ならそういうのもいそうだけどね。そこまで馬鹿なら今まで生き抜いていないだろうし」
「ん? じゃあ【女帝】が一発目に【正義】を斃しちゃったのがそもそもの原因なわけ?」
「そうだね。相手がニーベルゲン帝国の第三皇子で、しかも大いに目立っちゃったから塔主戦争の機会を多く得られた。あとはもう芋づる式だよ」
【正義】を斃したから【力】同盟と戦うことが出来た。
Bランクの【力の塔】を斃せたから余計に騒がれた。人気を得た。
さらに【風】同盟も斃せた。ここでもう人気は不動のものとなり、塔主からは完全に″悪役″と見られるわけだね。
それから反貴族・反差別主義を唱え、人々からは英雄視される一方、塔主からは目の敵にされると。
これが彼女たちの成したことであり、多くの塔主戦争が出来ている原因でもある……と私は思っている。
「んじゃあ神様が悪いじゃん。【正義】を焚きつけてオープン前に特例の塔主戦争をさせたのも神様なんでしょ?」
「噂話だとそうなるね」
私たちが塔主になる前だから本当の所は分からないけどね。もし噂話が真実なら火付け役は神様だったということになる。
あの神様なら遊び半分で塔主戦争をさせるというのは十分に考えられる。
でも遊びでなくて計算されたものだとしたら……?
もしかしたら神様は【女帝】の成長を促したかったのかもしれない。
【女帝】を中心とする六塔同盟。これらが急激に成長しているのは歴史的にも異例なことだ。
八年半でSランクにまで上り詰めた【黒の塔】も歴史的な成長速度だったと言うが、それ以上のことが今実際に起きている。
五百年間ありえなかったことが、現在【女帝】たちの手で創られている。
これが神様の思惑だとしたら……その目的は何だ?
【女帝】を強くすることで何を狙っている? バベルをどうするつもりなのだ?
凡人に神の思考など読めるはずもない。それこそバベル以上に闇の中だ。
「ん~~どしたもんかねぇ……何も【女帝】ほどとは言わないからさ、私たちももっと戦えるようになれればいいんだけど」
「怠惰なピーゾンらしくないねぇ。塔主としちゃあありがたいけれども」
「だって塔が弱すぎるじゃん。TDBのくせにユニット不足なんだよ。回復も飛行ユニットもいないし」
「てぃーでぃーびー? ゆにっと? また訳の分からない異世界語を……」
ようは戦力不足って言いたいのか? まぁそれは事実なのだけれども。
ピーゾンは塔運営を遊び感覚で行う時がある。まるで塔がおもちゃであるかのように。
自分自身の鍛錬や戦闘もそうだ。いかに効率よく、いかに上手く動けるかを考えているらしい。
ピーゾンという人間を動かすもう一人のピーゾンがいるような感覚。
全てを俯瞰して見ているようなそれは、私からして神様と同じようなものに感じる。
そういうピーゾンだから神定英雄に選ばれたのか、神定英雄の中でも変人の類なのか……後者の可能性が圧倒的に高いが。
「いっそのこと私たちも″悪役″になってみるってのは?」
「彼女たちの後追いかい? 二番煎じで上手くいくわけがないだろう。世の摂理だ」
「別に反貴族とかを訴えるつもりはなくてさ、ようは不特定多数の塔主から目を付けられればそれでいいんでしょ?」
「まぁそれはそうだけど……何かいい案でもあるのかい?」
「ふっふっふ、私の前職が活きるかもってね。もしかしたらだけど」
ピーゾンが何やら悪い顔をしている。今までに何度か見た顔だ。
こういう時は大抵、突拍子もないことを言い出して私を疲れさせるのだ。
そしてその結果が上手くいくからまた困ったものでね。
異世界人の思考を理解することなど出来ない。事あるごとに私はそう思った。
で、今回は何? 前職?
「前職って生きていた時は冒険者じゃなかったの?」
「冒険者は前々職だね。引退してからは別のことをやってたから」
「ああ、確かに老衰で死んだのなら冒険者なんかとっくに引退しているか。じゃあ何をやっていたのさ」
「相談所の所長。アドバイザーだね、アドバイザー」
アドバイザー? アドバイス、つまり助言をするということ?
それでどうやって他塔から敵意を向けられることに……
……あっ! そういうこと!? いやそれはさすがにやりすぎじゃないのか? 下手したら私たちが【神の裁定者】に消されるぞ!?




