470:エルフ塔主の互助会です!
■クラウディア・コートレイズ 127歳 エルフ
■第475期 Sランク【緑の塔】塔主
話は塔主総会の日にさかのぼる。
私はいつものように総会が始まる五分前に画面をつないだのだが……そこであるものを発見した。
フッツィル様がフードを外していたのだ。
お美しいご尊顔を晒しておられた。私とてまだ見た事のないお顔を皆に見せるように……。
正直かなり動揺した。あれだけ隠し続けていたのになぜいきなり素顔を晒すのか。
ハイエルフとはバレないはずだがエルフとはバレてしまう。
常々「バレたらバレたで諜報型を使っている敵が分かればそれでいい」というような事を仰ってはいたが、それは隠していて尚バレた時の話だ。ご自分から晒しては″釣り″も何もない。
これでは「【彩糸の組紐】に実はエルフもいた」と見られてしまうし、我々とのつながりも知られてしまうだろう。
フッツィル様とて最近はともかく、当初はそれを最も警戒なさっていたはずだ。
だと言うのになぜ……なぜこのタイミングで急に……?
そんなことを考えつつ私は目口が開きっぱなしになったわけだが、後から画面に現れたアリシア、ミケル、エレオノーラももちろん驚いていたし、新塔主のエルメリアとキーリオも困惑していた。
一方でフッツィル様はニヤリと笑っている。してやったりとでも言っているようだ。
まさか私たちを驚かせるために秘密にしていたのか?
本当は前々からこの塔主総会でバラす予定であったと?
そうした戸惑いの中、塔主総会は始まり、結果として【輝翼の塔】はBランクに上がったわけだがそんなことはいい。
以前からBランクに上がるためにアレコレしているという話はされていたし別段驚くようなことではない。
いや、三年目後期でBランクというのは十分驚くべきことなのだが、今はそれどころではないのだ。
私は塔主総会が終わるや否や、同盟の皆と画面をつなげた。
「あ、あれ、どういうことなんです!? クラウディアさん何か聞いてましたか!?」
「いや、私もいきなりだったので驚いた。とりあえずフッツィル様には至急連絡をとってみよう」
そうしてすぐに手紙を送ったわけだが返事が来たのは明朝だった。おそらく深夜に返信なさったのだろう。
つまり塔主総会が終わってからしばらく忙しかったわけだ。
考えてみれば無理もない。六塔中、四塔がランクアップ。同盟内で色々と話し合うことがあったに違いない。
手紙には「次の互助会で話す」とだけ書かれていた。
何かしらの思惑があるということだ。
私はそれを皆で共有し、一堂に会する時を窺っていた……のだが、それから十二日後、事態は急転する。
【彩糸の組紐】が【節制】同盟を撃破――そんな通信が入ったのだ。
またも慌てて手紙を出す事態になったが、それもまた互助会で説明するとの返信があった。
急遽予定を前倒しし、その二日後、我々は『会談の間』に集まった。
「はっはっは! あの時のお主らの顔といったら傑作じゃったのう。わしも秘密にしていた甲斐がある」
「フッツィル様、あまりお戯れはお止め下さい……」
「クラウディアさん! ちゃんと『ふざけんじゃないわよ!』って言ったほうがいいですよ、こいつには!」
「で、何がどうなってるんです? 俺もうよく分かんないんですけど……」
そこからフッツィル様の説明が始まった。
まず大前提として、メルセドウのほうで貴族絡みの何某があったらしい。
以前にエルフ奴隷の件で【魔術師】同盟とも戦ったが、その延長のような感じで【節制】同盟とも臨戦状態にあったのだと言う。
【聖】同盟との確執は聞いていたのだがな……強い同盟ばかりが敵ならば心中察すると言うしかない。
先の【空城】同盟戦も同じ流れで戦うことになったようだ。
【赤】のアデルの実家の所領がラッツェリア公国との国境にあたるらしい。つまりロージットが内と外から攻められていたということか。……まるで戦争のようだな。
【空城】同盟戦後、バベリオの街である噂が流れたそうだ。
「噂、ですか? 寡聞にして存じませんでしたが……」
「そりゃお主らは滅多に街に出ないから分からんじゃろ。その噂話ではわしがエルフであるというのに加え、特殊能力で他塔の情報を得ているとも言われておった。だから【彩糸の組紐】は今まで勝てていたのだとな」
「合ってんじゃない。あたしのこと覗いてたでしょ!」
「エレオノーラ、黙ってろ。でもエルフ……なんですね。何か妙じゃないですか?」
「噂話にしては詳しすぎる。しかし探りきれていない感もあります」
「そうじゃな。まぁ曖昧な部分も含めて噂を流しておきたかった輩がいるということじゃ」
なるほど。早急に蹴落としたいと思う敵がいたということだな。
フッツィル様たちはそれを【節制】同盟の仕業であると当たりを付けた。【聖】同盟ではないと断定していたらしい。
いずれにせよすぐに対応策を打たなければならない状況となり、フッツィル様は同盟の皆と街を出歩いたようだ。素顔を晒して。
……塔主総会が初お披露目ではなかったのか。私たちが世俗に疎かっただけだな。
それで話は【節制】同盟戦へと移る。
申請自体は塔主総会の前からあったらしいが、本格的に条文を詰めたのは塔主総会の直後かららしい。
そこからハイスピードで立ち会いまで漕ぎつけ塔主戦争にまで持ち込んだそうだ。
どうりでお忙しそうだったわけだ。手紙の返信が来るのも遅かったからな。
そうして結果は勝利。今に至ると……。
「その……よく勝てましたね。【節制】は諜報型限定スキルで情報を得ていたんですよね? それを知ってて受けるのもそうですけど、どうやったら勝てるんです?」
「諜報型以外にも限定スキルは絶対持ってるだろ。それこそ【節制】同盟なんていくつ持ってるか分かったもんじゃない」
「限定スキルどうこうを無視したって強敵ですよ。単純に戦力がすごそうですし」
「フッツィル様の同盟が強いのは知ってましたけど……さすがに【節制】同盟は雲の上って感じですよね……」
皆の疑問も尤もだ。私もさすがに理解が及ばない。
いや、戦力的な差がそこまでないというのは想像できる。今までの戦果からある程度のTP取得量は分かるし、それによって塔は急成長をしているのだ。ランク詐欺と呼ばれるほどの戦力を抱えてはいるのだろう。
【節制】同盟は確かに強いが、私から見れば【節制の塔】の一強と言える。
【戦車】はAランクに上がったばかり。【魔霧】はBランクに上がったばかり。つまりABBCの四塔同盟と言ってもいいだろう。
【節制】が私の塔と大差ないと考えれば、【戦車】との差がありすぎるのだ。
一方でフッツィル様の同盟は全体的に強さを増し、【女帝】と【赤】は確実に【戦車】を上回っている。【女帝】に関してはすでに【節制】に近い戦力を抱えているかもしれない。
そう考えると、同盟全体の戦力差はそこまで開いてないのではないかと思うのだ。
だが限定スキルについては別だ。確実に数で劣っている。
それは塔主歴とランクで判断出来るが、いかにフッツィル様の同盟が戦果を挙げていても届かないだろう。
TPがあればまずは戦力を増やす。限定スキルの取得は二の次だ。
フッツィル様が最近になって取得したのは知っているが、同盟での取得数を比べれば【節制】側に軍配が上がるだろう。
とは言え、限定スキルにはそれ一つで戦況を覆せるものもある。
あまり込み入ったところを聞くわけにはいかないが……。
「……何か急所となりえるような限定スキルはお持ちだったのですか?」
「うーむ、難しいところじゃのう。おそらくこちらからの仕掛けは無意味じゃったと思う。限定スキルに関しては完全に負けておったよ。向こうは三つ、四つと使ってきたし、対策もしておったからのう」
「そうなると益々勝ち筋が見えないのですが……」
【節制】側は限定スキル対策を用意していた。そこはさすが【節制】と言わざるを得ない。
高ランクの塔が塔主戦争をするならケアして当然とも言えるが、実際に対策出来ている塔は少ないだろうからな。
おそらくフッツィル様たちも限定スキルは使っただろう。しかし″対策″によって消されたか効果が十全に発揮出来なかったと見える。
一方で【節制】側は三つ、四つと使ってきて、フッツィル様たちに″対策″はなかったと……そう聞こえるが。
その上、諜報型限定スキルで情報を抜かれているのだとしたら、それこそ勝ち目がない。
相変わらず理外の戦いをし、理外の勝利を掴んでいる。一体何がどうなっているのだ?
「メルセドウのごたごたもあって敵が焦っていたのもある。いくつからしくないミスもあったし精神的に万全の状態でなかったのは確かじゃろう」
「そこを上手く突けたということですか」
「それはそうなんじゃが、わしとしては戦う前の事前準備や作戦会議の段階で勝負が決まったと思っておる。事前に色々と練っておいたから相手の策にも限定スキルにも対応出来た、とな」
なんと……それはつまり【節制】のアズーリオを頭脳で上回ったということか。
さすがはフッツィル様。類稀な思考能力は今までにも見られていたが、まさか【節制】までもを手玉にとるとは……。
これが千年に一人のハイエルフ。エルフの頂点たるフッツィル様のお力なのだ。
私は感動で思わず膝を付きそうになっていた。
「わしやドロシーもある程度は協力出来たが、今回の殊勲はアデルじゃな。策の大本はほとんどアデルが考えておったし」
膝から崩れ落ちそうになった。
アデルだったのか。フッツィル様ではなかったのか。
……いや、だとするとアデルはフッツィル様並みの頭脳を持っているということか? 【忍耐】のドロシーも?
それだけの識者が揃い踏みしているのであれば【節制】を上回って当然と言えなくもない……か?
「お主らの後学のためにもある程度詳しく話しておこうかのう。言えぬところも多いが」
「よろしくお願いします!」
「うむ、ではまず事前会議のところじゃが――」
そこから長話になったのだが、それは私を含め、全員にとって非常にためになる話だっただろう。
相手の思考を読み、それに対してこちらはどう対処するのか。そういったことを戦う前からずっと行っている。
ただ強い魔物をぶつけるような戦いではない。戦略を立て、それを作業的に熟していくような塔主戦争。
バベルの塔主戦争らしくはない。
しかし高ランクの塔同士ではありがちな戦いでもある。
不透明な部分を探り合い、潰し合うのが高ランクの塔主戦争なのだから。
五名のエルフのうち、フッツィル様の話をちゃんと理解出来た者は何人いるのだろうか。
エレオノーラは無理だろうな。事前準備の段階でおそらく脱落している。
しかし今は理解出来なくてもこうしたお話を聞ける機会というのが貴重なのだ。だからこそありがたい。
これからもバベルで生き抜くために塔主戦争は避けて通れない。
そうした時に必ず力となるはずだ。情報は力、それは塔主の誰にとってもそうなのだから。
エルフ塔主の糧となるようなことをフッツィル様はしておられる。
まさしくハイエルフ様だな。エルフを導く存在であるのは間違いない。
一通りの話を終えて休憩していた時、フッツィル様が突然切り出した。
「クラウディアよ、お主、ドレスなどは持っておるのか?」
「ドレスですか? いえ、そのようなものは……」
「実は新年祭のパレードでドレスを着るよう皆から言われておってのう。せっかく顔も出したんじゃしと。ただエルフの身でドレスアップしてもどうかと思ってのう。もしクラウディアが持っていれば参考にしようと――」
「それは素晴らしい! 是非やりましょう! 私は賛成です!」
「お、おおう、そんな前のめりになるでない。怖いわ」
フッツィル様が着飾ってお披露目するということだろう! それは素晴らしい!
バベリオの民に、世界の民にフッツィル様の美しさを見せつけるのだ!
これぞエルフを束ねるハイエルフなのだぞと! 観衆も畏れ跪くに違いない!
……いや、ハイエルフと知らしめるわけにはいかない。もう少し冷静にならねば。




