465:セリオさんに報告します!
■セリオ・ヒッツベル 24歳
■第499期 Cランク【審判の塔】塔主
【彩糸の組紐】と【節制】同盟の戦いの翌日。
朝一にその通知を確認してすぐ、僕はシャルロット宛てに手紙を送った。
戦勝祝いと安否確認のためだ。ティナが心配していたからな。
返事はすぐに来た。そこでエメリーが無事であることも分かったのでそれはティナに伝えておいた。
どうせなら直接エメリーに会いたいだろうと会談のセッティングもしておいた。
するとその日の夜に会えると言う。忙しいだろうに急かしたようになってしまったな。
「お待たせしました、セリオ様、シフォン様」
「いえ、お忙しいところお時間を頂きまして申し訳ないです。今日は特に塔も混みあったでしょうに」
「さすがに今日は多かったですね。こうなるだろうとは予想していましたが……少し予想以上でした」
塔主戦争の翌日というのは街中や冒険者ギルドの話題にもなりやすく、客入りが増える傾向にある。
話題性のある塔主戦争であれば尚更だ。
同盟戦のあとは僕のところにも多くの侵入者が入ったものだ。今は【風雷】の人気も高いからな。
【彩糸の組紐】と【節制】同盟の戦いなど話題性という意味では最高峰のものに違いない。
バベリオに留まらず、他国までもが騒ぎ出してもおかしくはない。
新進気鋭の同盟vsバベル三位の同盟というのもあるし、メルセドウ王国派vs中立派という構図もある。知名度も世界的だ。
何をどう切り取っても話題性が付いてまわる要素に溢れている。
シャルロットは苦笑いしながらいかにも「疲れた」という表情をしている。
どれだけの客入りがあったのだろうな……羨ましく思う反面、恐ろしくも思う。
おそらくBランク侵入者がなだれ込んで来たのだろうからな。僕の塔だったらどうなることか。
そんなことを考えつつシャルロットとエメリーを迎え入れた。
円卓を囲い、ティナとルサールカ(A)を含む全員が座る。最近は侍女に立たせることもない。
お茶が行きわたり話は始まった。
「色々と話せないことも多いので事の経緯をお話することは出来ないのですが」
「ええ、大丈夫です。そちらは大体想像がついていますので」
メルセドウの貴族問題が絡んでいるのだろう。
国政に関与する可能性もある。僕も一応はグリンラッド貴族の息子だ。やたらなことは聞くわけにもいかない。
ただ【節制】側から申請され、それを受けた形らしい。それだけは教えてくれた。
よく受けたものだ。僕がシャルロットの立場だったら即座に却下する。
やんごとなき事情があって受けざるを得なかった……と見るべきだろうな。さすがに。
「しかし私には何をどうすればあの【節制】同盟に勝てるのか、正直想像もつきません。相当な戦力が相手だったのでは?」
「そうですね。戦力的には……エメリーさん、結局どれくらいだったのですかね」
「総数で約二千体。内半分弱がAランク以上の魔物だと思います。加えて固有魔物が全部で十八体ですね」
「「うわぁ……」」「まあまあ」「うわぁ~」
本当にとんでもない戦力だった。さすがは【節制】同盟と言うべきか、それにしてもと言うべきか。
Aランク以上が約千体だけでも地獄だし、固有魔物十八体など絶望しかない。
ただ総数二千というのは少ないと感じる。【節制の塔】だけでもそれ以上いるはずだ。
となると同盟戦の条文か? 魔物の数を制限したと見るのが妥当だろう。
「問題はそちらではないのですよ。戦力があるのは最初から分かっていたことですし」
「十分大問題に聞こえるのですがね……。それ以外となると……限定スキルですか?」
「はい。それと神授宝具もですね。私が確認した限りでは事前に諜報型で探られていた上に、塔主戦争で三つの限定スキルを使われましたし、神授宝具も二つを併用していました」
「そ、それは何とも……」
なぜ勝てた? なぜシャルロットとエメリーは生きている? そんな疑問が真っ先に浮かぶ。
限定スキルの危険性というのは以前から聞いていた。当のシャルロット本人からだ。
一つだけでも怖い。【魔術師】戦では二つの限定スキルを併用されてエメリーは殺されそうになったと言っていた。
それが今回は三つ? しかも神授宝具も二つを併用? その上諜報されていただと? 正直、僕には想像の出来ない世界だ。
「……後学の為にもその限定スキルや神授宝具についてお聞きしてもよろしいでしょうか」
「エメリーさん、大丈夫ですかね?」
「お教えしても問題ないかと存じます。むしろ知ってもらっていたほうが皆様の安全に繋がると思いますので」
「では……まず限定スキルですが――」
そこから塔主戦争で使われた限定スキルと神授宝具の説明に入った。
限定スキルは『長距離・高火力の攻撃型限定スキル』『風を操りダメージを与える攻撃型限定スキル』『光の檻に閉じ込めて攻撃不能にさせるデバフ型限定スキル』そして『諜報型限定スキル』の四つを確認したらしい。
神授宝具は『おそらく姿を隠す杖』と『自軍にバフ効果のある戦旗』だそうだ。アズーリオとデルトーニのものだな。
限定スキルの恐ろしさについてはシャルロットに懇々と語られた。これだけ苦労したのだぞと。
特に『長距離攻撃』と『光の檻』については聞くからに恐ろしい。
限定スキルに対する完全な対策がなければまともに戦うことも出来ないだろう。
しかしシャルロットたちがそれを持っていたとは思えない。なぜなら諜報されているからだ。
仮に防御型限定スキルを持っていれば諜報型限定スキルも防げるはず。それはシャルロット本人も口にしていたのだから。
「……そもそもなぜ諜報されていると分かったのですか?」
「私にはよく分からないのです。アデルさんは元々『【節制】側は諜報型を持っているに違いない』と予想していたそうなのですが、それがどのタイミングで確信に変わったのか……私は今でも『本当は持っていなかったのでは?』と思っているくらいですし」
「ふむ……『諜報はされているけれど急所となる情報は抜かれていない』と判断したから受けたということでしょうか」
「何とも言えませんが、少なくとも『情報を抜かれたところで対策もできない』という頭はあったと思います。私たちは普段からそうして塔運営をしていますし」
諜報はされていて当然と思って日々の運営をする。それも以前に聞いたな。
防ぐ手段がない以上、そういう心構えでいるしかないとは思うのだが……だからと言って『じゃあ戦っても問題ないか』とはならない。
諜報される前提で策を練るか、重大な部分は絶対に漏らさないようにするか、というくらいしか対処方法が思いつかない。
しかしどちらも難しい上に不確実だな……限定スキルというもの自体が不透明だからそれはそうなのだが。
シャルロットが『本当は持っていなかったのでは?』と思っているということは塔主戦争でその様子が窺えなかったからだろう。
諜報型だけでは戦局を左右するに至らないということだと思う。
普通は諜報されている時点で相当不利になるものなのだがな……シャルロットたちが普通でないだけだと思っておこう。
「ともかく今回に関しては諜報よりも『長距離攻撃』と『光の檻』ですね。こちらが一手間違えていたらあれだけで負けもありえたと思っています」
「エメリーお姉ちゃんは大丈夫だったの?」
「わたくしが最初から前線に出ていれば危うかったでしょうね。敵も最初からわたくしを狙って使ってきていたでしょうし」
「? エメリーさんは前線に出ていなかったと?」
「今回は塔主の皆様の判断で終始後詰めとして控えておりました。ですので相手の限定スキルを確認してから向かうという手がとれたのです。そのおかげで無事だったと言えるでしょう」
「アデルさんたちの策がお見事でしたね。私だったらエメリーさんを攻撃陣に入れちゃいそうですし」
僕がシャルロットの立場でもそうする。ティナを攻撃陣の主軸に据えるのと同じだ。
【節制】という強者に対してそれを斃せるような攻撃陣を組まなければいけないのだから、エメリーを使わないという択はとれないだろう。
だがもしそうしていればエメリーは『長距離攻撃』と『光の檻』の的になっていた。
最高戦力であるエメリーがそこでやられれば、即ち負けが濃厚になるということだ。
それを見越していたからアデルはあえてエメリーを使わずに後詰めとしていたのか……恐ろしい軍師がいたものだ。
エメリーを前線に立たせないことによるデメリットはもちろん大きいだろう。
被害も大きくなるだろうし、攻撃陣が壊滅することもありえる。
だがそれを忍てでもエメリーを控えさせた。これは簡単に出来ることではない。他のどの塔主でも無理なのではないだろうか。
シャルロットもアデルたちもエメリーの力はよく知っているはずだし、その力に依存もしているはずだ。
僕や伯母上がティナの力に頼っているのと同じ。
だからこそエメリーを控えに置くという策がいかに難しく、いかに恐ろしいことなのかよく分かる。
後から聞けば最良の策なのかもしれないが、やる前に聞いていれば悪手にしか思えない。
考えるほうもおかしいし、了承するほうもおかしいし、実行するほうもおかしい。
だからアズーリオの裏を突けたということなのかもしれないが……。
「シャルロット殿はエメリーさんを後詰めに置いても平気だと思われたのですか? エメリーさんに代わる戦力が揃っていたと?」
「以前にも言ったとおり指揮に関しては他の眷属を使っていますし、戦力については少し不安でしたが……でも【節制の塔】を攻略できるくらいの戦力にはなっていたと思います。もちろんエメリーさんがいたほうが確実性は上がりますけれど」
「そ、そうですか……」
Aランク以上が千体、固有魔物が十八体……それに勝てる戦力があるということか。エメリーを除いても。
【彩糸の組紐】が常識外の強さを持っているという頭ではいたのだが……さすがにそれほどとは思わなかったな。
【女帝の塔】が【節制の塔】を上回るということはありえないだろうが、それに近くはあるのだろう。そう考えなければ辻褄が合わない。
そして【赤】もまた【女帝】に近いとなれば、【節制】同盟に対抗出来ると言えるのかもしれない。
さすがに「どのくらいの戦力を持っているのですか?」とは聞けないg――
「へぇ~、お姉ちゃんのところにもSランク固有魔物とかいっぱいいるの?」
むせそうになった。無邪気か。いや、この場でその無邪気さは助かるのだが。
「多いほうだとは思いますが【女帝】の戦力だけで対抗できるほどではありませんよ。同盟六塔の戦力を結集したからこそ勝てたのですから」
「もしエメリーお姉ちゃんが控えたまんまでも勝てた?」
「勝てたでしょうね。ただ相応に被害も出ていたとは思いますし、時間も掛かったでしょうが」
「私が戦ってたら?」
「わたくしと同じ役目を担っていれば同じことを出来たでしょうね。しかしティナは攻撃陣に行きたがるでしょう? そうしたら最初に死んでいたかもしれないですね」
「むぅ」
僕たちが【彩糸の組紐】と同等の戦力を持っていて【節制】同盟と戦うことになったら、確かにティナは攻撃陣に置くだろうな。
ティナも望むだろうが僕も攻撃陣の主軸に置くはずだ。
しかしそうしていたなら負けていたと……限定スキルの対処か。これは本当に悩ましい。
高ランクの塔主戦争というのはそうした一手で勝敗が左右されるものなのだろう。
話を聞けば聞くほど、Bランク以上の塔とは戦いたくなくなる。
だが……ティナに頼らない戦力の確保というのも重要になってくるのだろうな。
そうなるとTPが必要だし、その為には塔主戦争をしなければ、という話になる。
堂々巡り――バベルは暗い闇の中。生と死がぐるぐると渦巻いているようだ。
僕は深く溜息を吐きつつ、シャルロットとエメリーの話に耳を傾けていた。




