束の間の幸せ
あまりの事に、オルグは口を開けたまま、暫く何も言えずにいた。
「ルキスを知っていたのか?」
「幼い頃から、何度か見ていてな。アシュレイの精霊だったとは…」
「それは精霊と契約できる腕輪だったんだな。」
腕輪を見てディルクに聞いてみる。
「その様だな。」
「なぜ弟を連れ去った女がそれをディルクに…?」
「分からないが…この腕輪をつけられた事が、果たして良かったのか悪かったのかって事だな……」
「そうだな…」
「俺はディルクに見つけて貰えたから、アッシュを助けられたぞ!」
「ハハ、そうだな、レクス。それならあって良かったんだな!」
「そうだぞ!」
「凄まじい精霊の力でしたな…あの、すまんが、確認させて欲しいんですが……」
「はい、オルグ。」
「もう村は大丈夫と言うことでいいんでしょうか?」
「あぁ、大丈夫です。この森に入った余所者は、まず森の精霊たちによって惑わされる。それから、闇の精霊の力によって、この森自体が恐怖の対象となる。それでも突き進むなら、その者は数日間の記憶を奪われ、空間の精霊の力によって、全く別の場所へ飛ばされる事になる。しかし、村人や村人と共にいる者は問題なく森を歩けます。」
「あ、ありがとうございます!完璧です!もう何も怖いものはありません!!」
「ただ、今回の様に誰かが村を飛び出して、外に出るとなれば、それは防ぎようはありません。」
「いや、それは仕方のないことです!何も問題ありません!本当にありがとうございます!早速村の皆にも伝えます!あ、貴方達はまだ何処にも行かないで下さいよ!」
「あ、はい、分かりました。」
「じゃあ、俺達も村に一旦戻るか!って言っても、俺何にもしてないけどな!」
「レクスがいてくれるだけで、私は安心するよ。」
レクスに微笑んでそう伝える。
レクスは照れくさそうに笑う。
「アシュリー?」
ディルクがわたしの顔を覗き込む様にして聞く。
「え?あ、あぁ、私は本当はアシュリーって言うんだ。」
「そうだったのか。では、俺はこれからアシュリーって呼ぶぞ?」
その言葉に胸の鼓動が飛び上がる。
「そ、それは構わないが…私は自分を男だと装っている。今回、セルジの事もあったから、やはり女と知られない様にしなくてはいけないと思っているから……」
「セルジには何故女と知られた?」
「それはマリーがアッシュと結婚するって言ったからだぞ!」
「レクスっ!」
「だから、仕方なく女であることを言ったんだよな?アッシュ!」
「レクスの言う通りだ……」
「マリーは信じないって言うから、マリーと、マリーの母ちゃんとアッシュで温泉に行って確認して来るって。帰ってきたアッシュの女の子の姿を見てセルジが固まってたから、そん時に目をつけられたんだ!」
「いや、違うんだディルク、私の瞳には光と闇の魔力が合わさって、勝手に瞳に魅了の付与がかかっているんだ。なるべく制御はしているが、まだちゃんと制御が出来ていないようで、セルジはそれにあてられてしまったんだ。」
「でも女の子のアッシュは、スッゲー可愛くて、スッゲー綺麗だったんだぞ!」
「レ、レクス!」
「魅了が付与されているのか?」
そう言って、マジマジと私の瞳を覗き込む。
恥ずかしい!
私をじっと見つめるディルク。
心臓が煩い!
「綺麗な瞳をしてるな…けど、魅了の効果は出てないようだぞ?」
「そうなのか?私、ちゃんと制御できてたのかな…?」
「アシュリー。」
「え、あ、はい!」
「もう誰の前でも、女の姿をしない方がいい。」
「あ、うん、それは私も分かっている。」
「いや…違うな……」
「え?なにが?」
「悪い、何でもない。気にしないでくれ。」
そう言って後ろを向いて、頭を片手でワシャワシャしだした。
「ディルク、なに言ってるんだ?!」
レクスがディルクに問いただす様に聞く。
「いや、まだまだ俺もなってないな、と思ってな……」
「ん?どう言う事か分かんないぞ?」
「ディルク?」
私もよく分からなくて、ディルクの方を見る。
ディルクがレクスを見て
「レクスとセルジが羨ましいって思っちまったんだよ!」
「えっ!?」
何が羨ましいと思ったのか、さっぱり分からない。
「くそ、アイツ、一発くらい殴ってやりゃ良かったっ!」
「ディルク、どうしたんだ?!」
「アハハハハ!そっか、ディルクは焼きもちを焼いたんだな!」
「うるさいぞ!レクス!」
「え?!何?どういう事?レクス?!」
「それはー…」
「こらっ!レクス、言うな!」
2人で何やら追いかけっこみたいにはしゃぎ出した。
何やってんだか……と思いながら、それを木に寄り掛かりながら見ている自分に幸せを感じている。
追いかけられたレクスが笑って、フッと消えて何処かへ行った。
ブツブツ言いながら、ディルクが私の所まで戻ってきた。
「アシュリー。」
「あ、はい。」
まだその名前で呼ばれ慣れてなくて、つい真面目に答えてしまう。
「俺はアシュリーと今は一緒に旅は出来ないが…」
「…うん。」
「また会いたいと思っている。」
「ディルク、それは、私も……でも……」
「あぁ、別々に旅をする者同士、また会う事が出来る事は殆どない。今回会えたのが奇跡みたいなものだ。」
「そう、だな…」
「これを受け取ってくれるか?」
そう言って、ディルクは首飾りを取り出した。
「それは?」
「この首飾りは対になっている。離れると呼び合うんだ。もし俺に会いたくなったら、この首飾りの先についている石を握りしめて、俺を想ってくれないだろうか。」
「ディルク……」
「俺はいつでもアシュリーに会えるように想うよ。」
「…分かった。」
そう言うと、ディルクが首飾りを私につける為に手を首の後ろに回す。
まるで抱き締められそうな感じになって、身動きが取れなくなる。
木を背にしたまま、ただじっとしていた。
それからディルクの手が、私の頬に添えられた。
「俺の事は怖くないか?」
優しくディルクが聞いてくる。
「うん…ディルクなら大丈夫……」
優しく微笑んでから、ディルクの顔が近づいてくる。
そっと私は目を閉じた……




