第13話 ガンとタケオのこと
タケオが帰る前の一週間は、ガンにとって試練だった。
タケオはミナシロ組の最後の一人として、建設作業の最終段階を担っていた。西側の荊棘柵の完成と、見張り台の骨格の仕上げ。それが終われば帰る、という段取りだった。問題は、その作業の進め方でガンとタケオが毎日のように意見を違えたことだ。
柵の支柱の間隔、角材の向き、荊棘の束の高さ。いずれも些細なことだった。しかし些細なことが積み重なると、朝から口論になった。
ガンが「こうする」と言えば、タケオが「うちの集落ではこうしない」と返した。タケオが「こう組む」と言えば、ガンが「それは強度が足りない」と返した。どちらも自分の集落で長年やってきたやり方を持っていた。どちらも間違いではなかった。だからこそ、決着がつかなかった。
三日目の昼、見張り台の骨格を組んでいる最中に本格的な口論になった。
支柱の接合部の処理を巡って、ガンが「骨甲の板を当てて蔓縄で締める」と主張し、タケオが「板は要らん、縄だけで十分だ」と返した。
「縄だけでは荷重がかかった時に緩む」
「縄の巻き方次第だ。うちの集落の見張り台は縄だけで十年持っている」
「ここは風が強い。丘の端だから地形が違う」
「そんなことはやってみなければわからん」
「だからやる前に強度を確認するんだ」
二人の声が大きくなった。少し離れて作業していた者たちの手が、何度か止まりかけた。
カイが近くで作業をしていた。しばらく聞いていた。どちらの言い方も、相手を貶めようとしているわけではなかった。技術への自信と、自分の経験への確信が、ぶつかっているだけだった。
カイは「両方やってみたらどうですか」と口を挟んだ。
二人が振り向いた。
「見張り台の支柱は四本あります。ガンさんのやり方で二本、タケオさんのやり方で二本。雨季が来て、どちらが保ったかで確認すれば」
沈黙があった。
「……それじゃ結論が雨季まで出ないだろう」とガンが返した。
「どうせどちらも正しいかもしれないので、急いで決めなくていいと思います」
「その間に壊れたらどうする」とタケオが返した。
「壊れたら、壊れた理由がわかります」とカイは答えた。「人が乗る前に、荷重をかけて試します。危ない状態で使わないようにすれば、失敗も記録になります」
ガンが「失敗を前提にするな」と言い、タケオが「いや、試すなら悪くない」と続けた。
タケオが少し考えた。腕を組み直して、地面の木屑を一度蹴ってから「まあ、それでいいか」とつぶやいた。
ガンが「……なんで素直に了解するんだ」と返した。カイに向かって言っていた。
「タケオさんは、急いで決めることに意味を感じていないからじゃないですか」
「なぜわかる」
「そういう顔をしているので」
タケオが低く笑った。「若いのによく見てる」と漏らした。
翌日の午後、見張り台の骨格を立てる作業をしているとき、南の草地からどさどさという音がした。
草毛獣だった。昼間に単独行動をする個体は珍しかったが、何かに追われているのかもしれなかった。一頭が草地を横切って、ちょうどガンとタケオが作業している方向に向かって走ってきた。
ガンが「おい」と言った。
草毛獣は止まらなかった。体長八十センチ、体重二十キロほどの塊が、ガンの横を抜けて木材の山に突っ込んだ。木材がばらばらと崩れた。
「こら!」とガンが怒鳴って追った。
草毛獣が方向を変えてタケオの方へ走った。タケオが「うわっ」と声を上げて横に飛んだ。草毛獣はさらに方向を変えて、今度は食堂の小屋の方へ向かった。
「まだ話は終わってないぞ!」とガンが走りながら叫んだ。
草毛獣を追いかけているのかタケオに言っているのか、しばらく判断がつかなかった。
「わかってる!」とタケオが走りながら叫んだ。
二人が同じ方向に走っていた。スズが柵の補修道具を持ったまま、その場に立ち止まって見ていた。「これ、仲がいいの、悪いの、ガンさんとタケオさん」とカイに聞いた。「どちらもだと思います」とカイが返した。
草毛獣は食堂の小屋の裏をぐるりと回って、荊棘柵の切れ目から外に出ていった。ミルクの抜け道として使われていた隙間だった。
二人がそこで立ち止まった。
肩で息をしながら、しばらく黙っていた。
「……逃げたな」とタケオがつぶやいた。
「逃げた」とガンが返した。
また沈黙があった。柵の隙間から外の草地が見えていた。
「なぜここに来たか、聞いていいか、タケオさん」とガンが言った。
唐突だった。タケオが振り向いた。
「ミナシロの集落が安全になってほしいから来た」とタケオは答えた。間を置かずに答えた。「うちには十二歳の孫娘がいる。去年、草毛獣が入ってきて、畑を一晩で半分やられた。孫娘が恐ろしい目をしたと言っていた。それをまた起こしたくない。それだけだ」
「そのためにここに来た」
「そうだ。お前たちが頼りなかったら文句も言う。でも」とタケオは付け加えた。「お前たちが本当にやる気があるなら、俺がとやかく言う必要もない。帰れる」
ガンが何も言わなかった。
「俺が帰っても安心できるか」とタケオが聞いた。
「安心はまだ早いかもしれないが」とガンは答えた。「やる」
「そうか」
タケオが柵の隙間を確認した。「ここ、塞いでおけ。ミルクの抜け道になっているが、草毛獣も使う」
「わかった」
「骨甲の板一枚で塞げる。蔓縄で止めておけばいい」
「縄だけで十分か」
タケオが少し間を置いた。「十分だ」と言った。
見張り台の接合部は、最終的にガンのやり方で全部統一した。タケオが「あんたのやり方でやれ」と言ったからだ。理由を聞いたら「お前がここに残るんだから、お前のやり方が正しい」と答えた。
それがタケオの折れ方だった。
見張り台の骨格が完成した翌朝、タケオは帰った。霧がまだ出ている朝だった。
荷をまとめたタケオは、来た時と同じ格好をしていた。何度も繕いの入った厚手の作務衣。膝当ては土で黒くなっていた。農夫が旅に出るときの、余分なものを一切持たない装いだった。
ガンは柵の補修をしていた。タケオが「頑張れ」とだけ言った。ガンが「ああ」と顔を上げずに答えた。二人の別れはそれで終わった。
タケオが隊商の列についていなくなった後、ガンはしばらく柵の前で立っていた。
カイが隣に来た。タケオが帰る前に話してくれたことを、カイはまだ頭の中で繰り返していた。孫娘のこと。農地のこと。そのためにここまで来て、三週間文句を言い続けて、最後に「やれ」と言って帰った人のことを。
ガンが「あの人は、うるさかったな」とつぶやいた。隊商が消えた南東の方を、まだ見ていた。
「そうですね」
「でも、うるさい理由があった」
「そうですね」
「お前は、どう思った」
「何を」
「タケオさんのことを。孫娘の話とか」
カイは少し考えた。「そのために来た人だということは、よくわかりました」
「俺もだ」とガンが返した。「あの人が文句を言い続けた理由は、俺たちを信頼していたからじゃないかと思う。信頼してなければ、文句じゃなく無視するだろう」
「そうかもしれません」
「お前はそういうことを当たり前みたいに言うけど、俺はさっき気づいた」
「ガンさんにしては早い気づきじゃないですか」とカイが返した。
ガンが「そういうことを言う奴に似てきたな、お前も」とつぶやいた。カイが「そうですか」と答えた。否定も肯定もしない、いつもの返事だった。
しばらくして、ガンが「作業を続ける」と言って立ち上がり、動いた。
カイも隣で作業を続けた。タケオが去った柵の隙間は、もうなかった。ガンがすでに塞いでいた。




