第四章第八節
先週は酔いつぶれていたので書けませんでした。それと今回は話の区切り目の都合で短いです。
黒い省エネ車が数台、きれいに舗装された道路を走っていった。側面には「昇華課警備部」の白い文字が横に引き伸ばされてペイントされている。
最近は物理書籍店も本当に少なくなってきているな、とオイノモリは感じていた。というのも、ルールを守らずに、非進歩的な表現の残った本を置いている店が昇華課警備部に摘発されるケースが年々増えているからだ。オイノモリの通う物理書籍店は定期的に警備部の立ち入り検査を受けている優良店舗で、実物の本に触れたくなった時はいつもここに通っている。
無駄な排熱を出さない信号機が青に変わり、オイノモリは大通りから細い路地に入った。路地の先にある物理書籍店の駐車場は空いていて、代わりにいくつかの自転車が置かれていた。
「いらっしゃっせー…」と不自然に髪だけが黒い老店主が挨拶し、独特のスパイスのような香りがオイノモリの体を包んだ。物理書籍の匂いだ。『団体』の会員は『団体』関連以外の物理書籍の購入は基本的に制限されているが、閲覧自体は問題なく行える。オイノモリは窓際の陽の当たる古典小説の棚を物色することにした。
フランス人作家の書いた小説が、オイノモリの目に入った。かなり薄く、挿絵も入っているらしい。この合間に読み切れそうだ、と思ったオイノモリは、窓のそばで本を開いた。
砂漠に不時着した主人公が、いるはずのない小さな王子と出会う。王子はいろいろな星をめぐって地球に来たらしく、星々での思い出を語り始めた。王子の居た星は…
そこまで読んだ時、ポンと肩に手が置かれ聞き覚えのある低めの声がした。
「や。よく会うね」
黒いショートカットの中性的な女が、黒い皮のジャケットを着て立っていた。
本の香りについては『華氏451度』のモンターグとフェーバーの会話から取ってます。実際嗅いでみるといい香りですよね。てか本屋自体いい匂いがすることが多いですし。
それとこれは自分が雪国で暮らしている時に思ったクソどうでもいいことなんですが、雪国の信号機を排熱の少ないLEDに替えると信号機の上に積もった雪が融けなくなって見づらくなるんですよね。「新しい技術も時と場合だなー」と思った記憶が今でもあります。




