第五章第一節
ヒロインが出てくると書くペースが上がります。あと今日は早く家に帰れたので。
そういえばブックマークが一件増えてました。ありがたいことです。
オイノモリが「タツさん」と言いかけた時にはすでに龍飛崎はオイノモリの手からひょいと本をつまみ上げていた。ペラペラとページをめくっていく。
「『星の王子さま』か。中々いい本を読んでんね。…大分中身は変わったようだけど」
「ああ、それはきっと何か非進歩的な表現があったんでしょう。ほら、最後のページに『一部現代的な表現に差し替えています』と書いてありますし」
「…そんな程度の話じゃないと思うけどね」
パタン、と本を閉じた龍飛崎は、本を棚にしまって「今日暇?」とオイノモリに尋ねた。買い出しがあると答えたオイノモリに龍飛崎は
「付き合うから乗りなよ、後で代わりの本を見せてあげる」と答えた。
いつも通りの独特の香り漂う車内で、シートベルトを締めたオイノモリに、龍飛崎はステアリングを握りながら聞いた。
「そういや、例の後輩クンはどうなったの?」
「最近職場に復帰したんですが、性格変わりましたね。少し心配で色々調べてるんですが…」
…「フーン…脳に働きかけて、ね」
「ええ、そのせいで性格にも影響が出たんじゃないかと…勧めたのは自分ですし、少し責任を感じてしまって」
「今から責任感じたってしょうがないし、後輩クンも自分で了承してるんでしょ?いい大人が自分で判断したんだから気にすることないと思うけど」
この先のスーパーでいいよな?と言って龍飛崎は車を走らせた。無言の車内で、オイノモリは書籍の表現差し替えの話を思い出して少し気まずくなった。
タツさんは決して進歩的ではないし、今まで話題に触れなかったから交流があるだけで、こういう考えの違いをきっかけに気まずくなったら嫌だな、とオイノモリは思った。
雨の乾いた跡が残るガラスを通して曇りの市街地を見つめながら、オイノモリは、非進歩的な言動をする人と喧嘩別れしたくないと思っている自分に初めて気づいた。
「そろそろ着くよ」
龍飛崎の言葉でオイノモリは思索から現実に引き戻された。
「なんか考え事してた?」フッと龍飛崎は笑った。
「あ、いや、えーと…この車、年代物だよなって」
「あちこち汚れてるし…って?案外しっかりしてるよ、傷だらけだけどね」
確かに傷も塗装の剥がれもない『団体』の職場とは大違いだ、とオイノモリは思った。
「性能が良けりゃアタシは好きなんだよ。機能美っていうかさ。灰皿は付いてるし、年代物のカーステレオはいい音させてるし」
スーパーの駐車場に車を停めた龍飛崎はサイドブレーキを引いて言った。
「確かに灰皿付きなんて今の新車じゃ有り得ないですしね」
オイノモリは苦笑してシートベルトを外した。
「何でもそうだよ、見た目を着飾ってるよりも中身が磨かれてることの方が大事」
世界の平和の第一歩だっつってね、と笑って龍飛崎はドアを閉めてキーの施錠ボタンを押した。
世界の平和の第一歩、っていうのは忌野清志郎の「瀕死の双六問屋」のオマージュですね。第四章第一節でかかってた曲も清志郎の曲が元ネタです。オイノモリもそうですが、現実でも他人からよく思われたいがために進歩的だって言われてることをしてる人いますよね。右も左も自分の国のために議論してる中で、自分の外っ面のために主張してる人が。




