交通事故
俺は、5年前までは、ありふれたサラリーマンだった。しかし、目の病気になって視力を失ってしまった。
それでも、俺は必死に生きていた。妻と2人の息子の幸せを守る為に、自分にできる仕事を探して頑張っていた。
しかし、ある日悲劇が起こってしまう。白い杖をつきながら、道を渡っていた俺は、交差点で曲がって来たトラックに気づかず巻き込まれてしまう。
頭を強打した俺は、死亡してしまった……
あの世の受付で、閻魔大王様に言われた。
「君は気の毒な亡くなり方だったな。でも、限られた人生を立派に生きてきたんだな。だから、君は天国行きに決定だ。天国で楽しく過ごしなさい」
俺は、全然嬉しくなかった。
「ご配慮ありがとうございます。でも、俺は天国に行けても、そこに妻と息子たちがいないから悲しいです。俺にとっては、妻と息子たちが全てだったんです」
閻魔大王様は、悩んでいる様子だ。
「そうか……君にとって家族は、そんなにも大切だったんだな」
「よし、分かった。生前の行いの良さを考慮して、君の願いを少しだけ叶えてやろう!」
閻魔大王様は、ピースして
「天国が嫌だと言う人間は初めてだ。ワシは、これからも君を見守っているから頑張れよ」
閻魔大王様は、俺に向かって、光線を当てた。何だ?どうしたんだ?
俺は、気づいたら路上に居た。
しかし、目線がかなり低い。
んっ?目が見えている!
俺は5年前に視力を失ったはずなのに。
ワケも分からず、歩いていると、鏡が落ちていた。覗いてみた。
なんと、俺が犬になっている!
カワイイ子犬になっているではないか!
まさか、閻魔大王様が言っていたのは、この事だったのか。俺は犬として生まれ変わったのか!
そして、視力を与えてくれたんだ。
しかし、ここはどこだろう?俺は人間時代は大阪に住んでいたが、見覚えのない風景が広がっていた。
人の声が聞こえた。これは標準語かな?じゃあ、ここは関東地方かな?
人間の会話から想像すると、ここは東京駅の近くらしい。
俺は、妻と息子たちを思い出した。
家族に会いたい、犬になったが、それでも家族の声を聞きたい……
東京から大阪まで人間だったら、新幹線を使うのが普通だろう。しかし俺は犬だ。多分、駅の改札で止められるだろう。お金もないし……
困っていたら、大きなバスが止まっていた。どうやら夜行バスのようだ。バスの下にある荷物入れが空いている。これは、チャンスかもしれない。
大阪駅行きの夜行バスの荷物入れに潜り込んだ。これなら大阪までいけるんじゃないか。
無賃乗車になるが許して下さい。俺は犬なんです。お金もありません。荷物入れで静かにしています。ゴメンナサイ。
荷物入れは、狭くて暑かったが、作戦は成功した。俺は大阪までたどり着いた。ここから、人間時代に住んでいた大阪府高槻市までフラフラになりながら歩いた。
ちなみに、俺がよく利用していた阪急電車で、梅田駅から高槻市駅までは特急でも20分以上かかる。その距離を歩いた。慣れない犬の体で。そして子犬だから足も短い……
朦朧としながら、歩いていると、おばあさんが声を掛けてくれた。
「あら〜、カワイイワンちゃんね。でも、なんだか疲れているみたいね」
おばあちゃんは、俺を抱っこして撫でてくれた。
そして、水を飲ませてくれた。ありがたいなぁ。
やっぱり、親切な人もいるんだよな。犬になって、改めて人間の優しさを知った。
ようやく、家の近くまでたどり着いた。最後の気力を振り絞って、歩き続ける。
しかし、限界だった。あと少しのところで気を失った。ここまで来て無念だ……
気がついたら、ある家のリビングにいた。ここは、まさか……
俺が人間時代に住んでいた家じゃないか!そして、目の前には息子がいるじゃないか!
息子が、喋っている。
「ママ、このワンちゃん起きたよ。良かった、死んじゃったのかと思ったよ」
人間の俺は、死んじゃったけどね……
そこには、あの人もいた。
俺が、人生を賭けて愛した女性。
最愛の妻がいた。




