十四話
完結です。
ピピーーーー!!
試合終了のホイッスルが響き渡る。わっと大歓声が沸きあがりフィールドにいる選手たちとサブメンバーが喜びに抱き合い肩を叩き合った。そんななか、ゆっくりとだか確かな足取りで仲間たちの方へ向かうのは、その体格のよい体をはって自陣ゴールを守ったディフェンダーだった。ファインダー越しに見る彼はやや疲れたような顔をしていたが、口元は抑え切れない喜びで珍しく緩み、満足げな笑みを浮かべていた。
その彼の視線がこちらに向けられる。柔らかな微笑みを目にして、思わずシャッターを切った。
高校選手権県大会決勝、今年の優勝校は---
* * *
「古賀先輩、いいんですか?こんなところに来て」
「大丈夫だ。それより悪いな。全然相手をしてやれなくて」
「いいんですよ。当たり前じゃないですか、受験なんだから。それで結果のほうはどうなんですか?」
「お前は本当に聞きにくいことをあっさり聞くよな。あ~、滑り止めは受かった」
「わぁ、おめでとうございます!」
「あぁ、3日後に本命があって、とりあえず受験からは開放されそうだ」
「そうなんですか。じゃあ、早く帰って勉強しなきゃですね」
「そうなんだが、・・・なぁ、どうして今日会おうって言ったか分かってるのか?」
「・・・分かってますよ」
ごそごそと鞄の中から落ち着いたブルーの箱を取り出す。きれいにラッピングされた箱の表には『St.Valentine』と描かれたリボン付きのシールが一枚。
「今年は特別製です」
どうだとばかりに心なし胸を張って差し出せば古賀は意味がわからないという顔をした。
「今年は曲がりなりにも彼女ですから。頑張ってみました」
「何をだ?」
「今年のチョコレートは手作りです!」
「あぁ、そうか。ありがとな」
「今年は先輩だけに作ったんですよ」
「・・・去年は市販のもらった覚えがあるんだが、去年も作ったのか?」
「去年ですか?たしか、友チョコを大量に作ってばら撒いた気が・・・」
「俺にはくれなかったのにか?」
「一応恋する乙女ですから、ただの後輩から手作りのチョコなんて貰って重たがられるのは嫌だなと思いまして。市販の方が無難かなと。すねないでくださいよ」
「すねてない。だが、やはり残念だな」
じっと青い箱を見ながら考え込まれてしまう。過ぎてしまったことでもそうやって思ってくれるのはやはり嬉しく思う。心の中がふわりと温かくなるのを感じながら千菜はにっこりと微笑んだ。
「また作ってきます。私は先輩の彼女ですから、食べたいときはいつでも言ってくださいね」
「あぁ、わかった。ありがとう、吉野」
「いいえ、ところで先輩?」
「なんだ?」
「ホワイトデーは何にもいらないので、今聞いてもらいたいお願いがあるんですけど、いいですか?」
「ホワイトデーはもちろん用意するが、お願いなんて珍しいな。何だ?」
「あのですね、そろそろ『千菜』って呼んでもらいたいな、って思ってるんですけど」
「・・・そうだな」
「先輩。『千菜』って呼んでください」
口元にてを当て空を見ながら何か考え込むようにした古賀が、ちらりと千菜を窺う。なんとなく緊張ししていた古賀は、しかし、ワクワクと顔いっぱい期待に溢れた『彼女』の姿に思わず小さく吹き出した。その目はまるできらきらと輝く幼子の瞳のようで。
「・・・なんですか?」
「いや、なんでもない」
「人の顔を見て笑うなんて失礼ですよ」
頬を膨らませむくれた顔もまたかわいい。古賀がそんな風に思うのは千菜だけだと、そう考えていることに気がついた古賀の口からはすんなりと愛しい『彼女』の名前がこぼれだした。
「千菜」
「!・・・はいっ!」
「これからもよろしくな」
「こちらこそよろしくお願いします!」
まだ寒さが残るある年のバレンタインのこと。寒さなど気にならない恋人たちは頼りないながらも小さな未来の約束を交わす。いつかこの約束が一生の約束になるよう幸せな未来を夢見ながら。




