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元婚約者とその友人(女性)は、ある種お似合いのベストフレンズです(あなたに奪われたものを数えましょう)  作者: 暁
《2》「ブックシェルフ 改8」

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「ブックシェルフ 改.8」【1】 魔道具とルスカのスケッチ


 わたしとフィリップ様と「ブックシェルフ 改8」に至るお話は、長くなりそうですので、一旦わたくし自身の備忘録を書き記し、そこから抜粋してお送りしようと思います。


◇◇◇ 


 今、わたくしたちの生活は魔道具無しには成立しません。幼い頃から魔道具は周囲に沢山ありましたが、本格的にその魅力に気がついたのは、祖父母からのプレゼントであった常夜灯を部屋でつけてみた時でした。

 そろそろ一人で眠る年になったわたくしが暗闇をこわがり、ライトを明るくつけていないと眠ることが出来ないことを聞いて、心配した祖父母が魔道具商と相談して選んでくれた常夜灯でした。

常夜灯は、大人の手のひらくらいの大きさで、高さの低い円筒形の円の縁の部分を削り取ったようなころんとした形をしていました。明るい空色に、楽しそうな様子の童話に出てくる生き物たちが描かれて、手に取ると幼いわたくしには重く感じられましたが、一見してその常夜灯がすっかり気に入ったわたくしにはその重ささえ心地よく感じられました。


 スイッチを入れると影絵が踊り出しました。影の猫、小鳥、犬、馬、それからかごを持った女の子。わたくしの知っている物語の登場人物たちでした。見惚れるわたくしのに、祖母は、他の物語の影絵もデータに入っているのよとスイッチを切り替えてくれました。今度はクジラ、イルカ、かめ、くらげが泳ぎだし、そこに海鳥が突っ込んできました。よく見ると船がゆらゆらと浮かんでいて、女の子と男の子が乗っています。

 常夜灯は、切り替え式で、物語を選べるだけで無く、絵を動かすことも出来れば止めることも出来ました。眠る前に一人であることを忘れてしまうくらい素敵な影絵で、間もなくわたくしは、踊る影絵をしばらく楽しんでからその動きを止めて、淡い光の中で眠ることが出来るようになりました。やがては常夜灯が無くても眠ることをおぼえました。

 暗い中で眠ることが出来るようになっても、常夜灯はわたくしのお気に入りでした。


 あるとき、常夜灯のスイッチを切り替えようとすると。スイッチが動きませんでした。もう眠くなっていたわたくしは、動く影絵の中で眠りにつき、翌日早朝に目をさましてからオンオフのメインスイッチを切りました。

 わたくしは思いました。どこがおかしいんだろうか?

ちょうどその頃、祖父母が我が家に滞在していたので、祖父母に聞いてみようかとも考えたのですが、まだ朝が早く、誰も起きている時間ではありません。

 わたくしは常夜灯をひっくり返してスイッチの部分をじっと見つめました。スイッチの周辺部はパーツでカバーされています。なにが問題なんだろう、どうすれば直るだろう、と気が急いていたわたくしは、そのパーツをはずし、常夜灯の中を開けてみました。部品が一つ一つ居場所を決められてはめ込まれています。わたくしはむき出しになった、影絵の動きのオンオフスイッチの付け根あたりを左右に揺さぶりました。かちん、音がしてびくっとしましたが、動かしてみるとスイッチが動きます。直ったようでした。面白くなってきて、あちらこちらと部品を触ったり動かしたりし始めました。裏側も見たくなり部品を引き出して並べて。一通り引っ張り出してから、こんどは部品を元あったところに組み直してみました。ところが何が悪かったのか、今度は物語を切り替えてくれるスイッチが動かなくなり・・・。

わたくしは常夜灯を壊してしまったのです。


 父母の朝の支度を手伝おうとやってきた侍女は、しょんぼりとしたわたくしが父母の寝室の扉の前に立っていて驚いたそうです。父母は一体何事かと思ったそうですが、わたくしが両手で抱えていた常夜灯に気がついて、話を聞いてくれました。

母に

「おばあさまが下さったものを壊してしまったのだから、きちんと謝罪しなければいけませんよ。」

と母には珍しく真顔で告げられ、わたくしはまた落ち込みました。祖父母も不愉快に思うに違いないのです。  


 実際のところ、祖母は怒りませんでした。祖母は小さい頃に魔道具を分解して戻せなくなってしまい、曾祖母にしこたま怒られたそうです。

「怒られた理由も分かるのだけれど、機械に触れてみたくなる気持ちも分かるから怒れないわね。」

分解して良い魔道具を探してあげるから、家で使っている他の魔道具を分解してはだめよ、と続けて、祖母は自領に帰って行きました。


 それからほどなくして、祖父母から荷物が届きました。わたくし宛の荷物です。それ以前にもわたくしに何か送って下さることはあっても、その時は父母宛の荷物の中に同梱してありました。

 何だろう?しっかりとした梱包を母と開けてみると、子供向けの魔道具キットと魔術関連の本でした。

祖父母からの手紙も入っていて、初歩的な分解・組み立てを楽しむことが出来るキットを見つけたのでミリアムに丁度よいと考えたこと、同封の本は、祖父母が学園小等部の頃の教科書で、古いけれど、載っているのは基本的な事項だから今でも通じるだろう、何より絵も豊富で理解がしやすいであろうこと、がしるされていました。


 その後も、祖父母はわたくしが魔道具に興味を示したことを楽しく思って、機会あるごとに魔道具の本を送ってくれました。わたくしの部屋には、年ごとに対象年齢が上がって行く、魔道具の本のコレクションができました。


 学園小等部に上がって、初めから寮に入った方が良いと父母と話し合い、寮生活が始まりました。王都の屋敷は両親の帰領する数年後に、一度閉鎖することが決まっていたのです。

 学園生活と寮生活が同時に始まり、わたくしはもうてんてこ舞いで、自分の趣味に費やす時間など無く、寝台に倒れ込んでは眠る日々が続きました。正直、お休みの日も大部分寝ていたくらいです。魔道具の本を開く余裕もありませんでした。


 そんな日々に変化が生まれたのは、小等部の学園外活動の時です。博物館のバックヤードツアーの時でした。これまでにも博物館には何度も言っていますし、小さい子供向けのイベントに参加したこともあります。しかしその日は、「魔道具の起源を探る」、がテーマの特別展示に関する学芸員さんのガイドツアーだったのです。


 わたくしたちが日々使用している魔道具の開発は、2,300年前から始まっています。それまでにも魔道具作成の基礎となる魔術理論などの研究はあったのですが、それを現実のものとしたのは、ある一人の天才だったと言います。

 ルスカ、という呼称だけが残されていて、それが家名なのか名前なのか愛称なのかもわかりません。一応男性とされていますが、女性である、という説もあります。

 ルスカは、それまでの魔術理論を生かした魔道具のコンセプトなどのメモを残しています。そのメモには様々なスケッチが添えられていることは有名でした。自然界からしくみを学ぼうとしたのか、動物・植物・昆虫・魚・そして老若男女の人間とその一部、ルスカが作ることを夢見た種々の魔道具のスケッチです。そしてそのメモの数は膨大である、はずなのですが、残されているものはそれほど多くないのでした。


 展示会では、国内外を問わず、各所の博物館や美術館から借り受けたルスカのメモが展示されていました。ガラスケースの中に厳重に保管されてはいますが、実物のメモです。

ルスカのスケッチについては、祖父母から送られた最初の本である学園の教科書にすでにあり、心惹かれるものを感じていました。動植物などのスケッチは限りなく本物に近いのに、ルスカが夢見た魔道具のスケッチは詳細で有りながら自由気ままで楽しいのです。そしてこれはその本物です。本物が目の前にあるのです。わたくしは嬉しくて、ガラスケースぎりぎりまで顔を近づけてスケッチを凝視しました。ガラスケースがうっかり息で曇ってしまい、あわててハンカチで拭いてからは息を殺して眺めました。なんて繊細なスケッチなんだろう。生きているような立体感はどうなっているんだろう。端の方に「ルスカの猫」がいます。メモの主体となっているスケッチとは別に、ルスカのメモには猫が走り書きされていることがありました。アイデアをとりまとめるときに無意識に書いていたのでしょうか、スケッチよりもラフな線で、メモの端の方に猫が描かれているのです。のびをしていたり、小さなかごで眠っていたり、ぴんとしっぽを立てて澄まして歩いていたり、半眼でこちらをあきれたように見つめていたり、どの猫も可愛らしく、謎だらけのルスカですが、愛猫家であったことを否定する研究者はいませんでした。愛らしいスケッチの数々は、グリーティングカードに利用されたりもしてします。ここにいるのは座って何かを見つめる後ろ姿の猫でした。

これを、生きているルスカが自分で書いたのです。現在の紙とは違う厚みのある、黄ばんだ何かに書かれたメモからその時代の空気が漂ってくるようです。


 しかしスケジュールは無情です。さあ、皆さん、次は常設展示についても説明して頂きましょう、と先生はおっしゃるのです。次の展示室にクラスメートたちを誘導していた先生は、わたくしが展示ケースに張り付いたままなのに気がついて展示ケースの所まで戻ってくると、さあ、行きましょうね~、とわたくしを引っぺがして連行なさったのでした。


 実はこのとき、わたくしたちに同行して下さった先生方の中に、大学の魔道具研究室の方がおられました。

ガラスケースに顔をくっつけてスケッチを眺め、仕舞いには連行されるわたくしに気がついて、面白がっておられたのです。


 博物館を出たところで、後ろから肩をちょんちょん、とつつかれて、わたくしは振り返りました。


 そこには、背がひょろりと高い、ミルクティーベージュの髪の優しそうな男性が立っていました。

髪には寝癖が残っていました。わたくしが寝癖を観察しているのにお気づきになったのか、焦げ茶色の目を細めて、照れくさそうはねている髪を手で押さえていらっしゃいます。

 お名前は後で知ったのですが、魔道具研究室の准教授、ダレス先生でした。





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