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元婚約者とその友人(女性)は、ある種お似合いのベストフレンズです(あなたに奪われたものを数えましょう)  作者: 暁
《1》 ザッハトルテ

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ザッハトルテ【5】 マリエル様 その後 ソフィア様


 マリエル様がわたくしのところにいらしたのは、領地の父母、ラデルのおじさま、おばさま、ついでにフィリップ様に、心情を含めた顛末を記したお手紙を出して数日後でした。


 午後の授業の始まる前で、クラスの皆様はのんびり次の授業の教科書を準備していました。

休息時間のこと、教室のドアは開いておりました。


「次の授業、帝国史じゃない。寝たらどうしよう。」

「いや、寝るの確定。」

会話を漏れ聞いて、くすりと笑ってしまった時でした。


 マリエル様はのんびりした空気を破るように、風を切るように教室に入ってきました。

その勢いにクラスメートたちはおしゃべりをやめて、こちらに注目を向けました。

相変わらず、ピンクブロンドに水色の目の、人目を引く美しさです。


 マリエル様は、学園のカフェテリアで販売しているチョコチャンククッキーの小袋をわたくしの机の上に叩きつけると、言い放ちました。


「嫉妬深い上にいやしいのね。

私たちの温かい友情を邪推して嫉妬した挙げ句に、プレゼントのケーキの数が少なかったからって拗ねて婚約解消だなんて!

このクッキー差し上げるから、これでご機嫌を直して再婚約したらどう?

あなたのような冴えない娘に、次の婚約者なんて見つかる訳もないんだから。」


マリエル様はわたくしの反応を待たずに、勝ち誇った様に堂々と歩いて出て行かれました。


 以前わたくしを愚弄していた人々の多くは、フィリップ様との婚約が解消となり、両子爵家の今後を考えて穏便に解消としたもののフィリップ様に大きなペナルティが与えられた事を知って、またラデル子爵家から公式に謝罪がなされ慰謝料が支払われたことを知り、恐慌状態となって沈黙しました。ほぼ平民や下級貴族の方々でありましたから。

 愚かの一言です。


 その愚かな行為の積み重ねで、わたくしが失ってしまったもののことを悔しく感じます。


 しかし、マリエル様は未だ意気軒昂のご様子。マリエル様ご自身は、富豪のお嬢様と言っても身分は平民です。しかし、伯爵家に望まれて嫁されるご予定で、その前に子爵家と養子縁組をなさると聞いています。

 ご身分として負けはしないという意識をお持ちのようです。 

 マリエル様の婚約者、アレックス・ゴードン様は、伯爵家の嫡男です。幅広く交易を行っているお家で、マリエル様の人の心を引きつける美しさばかりではなく、頭の良さ、座持ちの巧みさを高く評価してのご縁だそうです。

アレックス様は、濃紺の髪と瞳の背の高い美丈夫です。同い年の方ですと「美少年」と評される方が多いの対し、既に「美丈夫」の風格をお持ちの方です。マリエル様は、そのご容姿が優れていることばかりではなく、疑う者の無い、高い知性と行動力に満足しておられて、アレックス様を大切にしていることは端からも明らかです。アレックス様の方も、ただ美しいだけでは無く、状況に合わせて機転を利かせることの出来るマリエル様の頭の回転の速さを気に入って、マリエル様を尊重しておられるのです。

 フィリップ様もそれなりに整った容貌、わたくしの容姿を、不釣り合いだと見なす程度の容姿をお持ちですが、その容姿だけを理由として、マリエル様がフィリップ様に心を移すことなど、まずありえません。


 マリエル様の座持ちの巧みさ、思いのままに場の雰囲気を作り上げる能力はわたくしも感嘆するほどです。

マリエル様は、これまで、周囲の方たちを掌握するために、わたくしを上手く利用してきたのでしょう。歴史などで、国をまとめるために共通の敵を意図的に作り出した話を教わりますが、その変形です。

フィリップ様のわたくしへの粗雑な行動を観察した結果、わたくしという、貶める対象を決め、意識を共有することで集団の強固な結束を維持していたのでしょう。マリエル様の制御を超え、度が過ぎたために現在機能しなくなってしまいましたが。

マリエル様の行動も、如才のなさを失い、八つ当たりに近くなってきた様にも思います。


 マリエル様の発言からすると、わたくしの手紙は何の意味もなかった様です。

婚約解消の理由は、わたくしのお二人への嫉妬とケーキの個数へのひがみだそうです。

これまでのフィリップ様の主張から、1ミクロンの変化もありません。

フィリップ様にこちらの思いが伝わることはない、と、これまでの経験から確信していたにも関わらず、叩きつけられた可哀想なチョコチャンククッキーを眺めながら虚脱いたしました。伝わらないにもほどがあります。


 チョコチャンククッキーは、カフェテリアで人気の大きなチョコレートが贅沢に入っている隠れた名品で、売り切れることもままあるのに、なんてことをするのでしょうか。

 美味しいスイーツを、悪意をのせる道具にしてしまうなんて外道の所業です。さすがはフィリップ様とマリエル様、仲の良いお友達です。

 本日はわたくしにとってもチョコチャンククッキーにとっても不運な日のようです。

 クッキーの袋に同情と共感の視線を送りました。


 この間に、隣の席で午睡をとっていらしたソフィア様が目を覚ましていて、

「面白かっ・・・いや災難だったわね。『今期最大の馬鹿』ランキングに楽々エントリーしたわ。馬鹿レベルは子うさぎとどっこいどっこいかしらね」

ノートに書き付けていらっしゃいました。

子うさぎというのは、ソフィア様の前にソフィア様の婚約者様を引きずってきて婚約破棄しようとした、可憐な子うさぎの様な馬鹿のことだそうです。  

本当に馬鹿だと思います。

ソフィア様の婚約者のフランツ様はどうみてもソフィア様にべったりなのですから・・・。

今もう教室の扉のところからひょいと綺麗な金色の頭をのぞかせています。

ソフィア様の午睡の時間だからと接近を禁じられていたのでしょうか?


 「フランツ何やってんの?もう授業はじま…ちようどよいわね。」

ソフィア様がフランツ様をちょいちょいと手招きしました。

「確かマリエル嬢の婚約者ってフランツのクラスよね?」

フランツ様は別のクラス。別の学年。これでもソフィア様より年上なのです。

「そうだけど、今いないよ彼。卒業単位を全部とって、家の仕事で海外出張中。」

「穏便に連絡をとるツテはない?」

「ん~、間に一人挟むけど、ある。」

「よし。それ頼むわ。対価はこれで。」


 ソフィア様が例の可哀想なクッキーの袋をつまみ上げました。

「やった。さっき学園カフェ行ったら売り切れてた。」


 フランツ様は緩慢に踊りながら授業に向かわれました。面倒くさがりでいらっしゃるので、喜びの表現も緩慢です。

学園有数の美少年にあっては、悪意をなすりつけられたクッキーも浄化されることでしょう。


 ソフィア様は鞄を開けながら、

「了承も無く勝手に横流ししてご免ね。代わりにこれ差し上げるね。」

と言って、小さなしましまの紙袋に入ったクッキーを二つ、渡してくれました。

中を覗くと、ダニエル特製クッキーとアイシングで書いてあるクッキーが入っていました。

「ダニエルズ…?」お店で見たことがありません。

「パティスリーのダニエルズではないのよ。お気に入りのお店だものね。ご免。違うとこ。」

国立劇場謹製、俳優のダニエル・ファーガソンのくじ付きクッキーとのことで、クッキーの中からハート型の金属が出てくる可能性があるから慎重に食べること、もしもハート型の金属が出てきたら、ソフィア様に渡すことを約束いたしました。

国立劇場の窓口に持って行くと、俳優のダニエル・ファーガソン氏の細部までリアルを追求したミニチュア像が頂けるそうです。

わたくしには確実に不要です。

ソフィア様に必ずお渡しすることを誓いました。

代わりにソフィア様の妹君、ナディア様の絵姿を差し上げましょうか?と聞かれましたが、うっかり落としでもしたらシスコンのソフィア様に絶縁されそうで恐ろしいです。

それに、確かにナディア様は天使のような美少女ですが、わたくしはソフィア様の方が好ましく感じるのです。

美しいだけでは無く、いたずら好きの妖精の様な方で、悪巧む表情がなんとも言えず魅力的なのです。


 その夜、慎重にクッキーをかじったわたくしは、自分の慎重な性格を喜びました。

ハート型の金属片が出てきたのです。

片面にはダニエルファーガソンと刻印があり、裏側には国立劇場の複雑なロゴの刻印がありました。偽造防止だそうですが、どなたがこれだけの手間をかけて偽造するのか疑問に思いました。

 結局チョコチャンククッキーにとっても私にとっても、今日は幸運な日だったようです。


 ソフィア様は狂喜乱舞されました。

お礼とのこと、大人買いされたダニエル特製クッキーを沢山頂きました。なかなかおいしいのでお友達にも分けようと思います。引換は一人一像までだそうで、これ以上当たりが出ても必要ないそうです。




 次は2つ目、「ブックシェルフ 改8」についてでしょうか。

わたくしが中等部に進学した後の頃、先日まとめた事項よりも以前のお話です。

 





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