証拠保全のため燃やしたいが燃やせない元婚約者からの不要な手紙
拝啓 フィリップ・ラデル様
お手紙頂戴し、大変驚きました。
わたくしとは一切接触はしない、との条件が婚約解消の際に設定されております。
同じ学園に通う身とあって、限界はあるのではとも危惧いたしました。しかし、周囲の皆様のご配慮もあり、これまで顔を合わせることもなく穏やかな学園生活を送っておりましたのに、大層不愉快です。
手紙は問題ないと判断なさったのかもしれませんが、直接顔を合わせることだけではなく、手紙も「接触」に含まれております。
頂いたお手紙で、わたくしがフィリップ様の名をお呼びすること、記すこと、フィリップ様がわたくしを「ミリアム」と呼ぶこと、手紙に書かれること、すべてが非常に不愉快であることに気づきました。ただ、学園内では皆様基本的に、家名では無く各人の名前に「様」の敬称をつけて呼び合う慣行がございます。学園に在籍中は慣行に従い「フィリップ」様とお呼びいたします。
いただいたお手紙につきましては、写しをラデル子爵家のおじさま、おばさまにお送りしました。
早々に、謝罪の言葉とともに、お返事については基本的に必要ないとご連絡いただいております。しかしながら、但し書きが続いており、もしも私の心の整理になるなど私を利する点があるならば、そして、私が望むのであれば、返信自体に反対することはいたしません。とのことでした。
全くお分かりになっていらっしゃらないご様子ですが、私は多くのものをあなたに奪われました。物質的なものも多少は奪われましたが、何よりもやりきれなかったのは私が大切に思ってきた、心のよすがとなっていたものを奪われ続けたことでした。
婚約解消に至るまで、おじさま、おばさま、先生方、友人の方々、多くの方に何を説明されても理解のかけらも示さなかったフィリップ様のことですから、今更どの様な話を聞こうともお考えが変わることはないだろうとは思っています もはや、何かが伝わることを期待はしておりません。
ただ、婚約解消に至までの事実関係の報告とは別に、わたくしの心情を含めた状況を現在に至るまで詳細に伝えるよう、現在領地におりますわたくしの父母から願われております。その一助となるように、これまでの状況をまとめ、まとめたものをフィリップ様にもお手紙の形でお送りします。おじさま、おばさまにも同時にお送りいたします。
それから、お手紙にありましたように、マリエル様とフィリップ様のご関係が、恋人であるのが、友人であるのか、という点は婚約解消の際の論点とはなっておりません。
すなわち、ご関係が友人としてのものだったとしても、婚約解消となった判断に影響を与えることはありません。ましてや、婚約解消が覆ることもありません。
お二人の関係が友人であるかどうか、恋慕の情の有無にこだわっておられるのはフィリップ様のみ。当事者である両家にあっても、婚約解消検討の際に証言をして下さった方々も、そこが問題点と認識している方は一人もおりません。
誰がどう説明しようとも、恋慕の情がなかったことを根拠にご自分を正当化しようとなさるのは、それしかすがる事由がないからてしょうか?それとも何も考えていらっしゃらないからでしょうか?
マリエル様は婚約者のアレックス・ゴードン様に愛情を持ち、大切にしておられることは明らかです。確かに、互いに恋慕の情があるわけではないのでしょう。
また、わたくしがマリエル様を嫉妬した、妬んだことを前提として、今後はわたくしの扱いを改めてやる等、と言ったお話は、不要です。
わたくしから見たマリエル様は嫉妬や妬みの対象となる方ではありません。確かにどのような場をも華やかにすることに長けておられるとは思います。容姿を最大限に美しく見せる技術もお持ちです。成績もかなり良い方です。
しかし、人として尊敬できるかと問われると、否とお答えするでしょう。
恋慕の情のない関係であれば婚約者をないがしろにすることにはならない、自由に振る舞ってかまわない、とラデル様はお考えのようですが、実は、マリエル様はまた違った考えをお持ちなのではないかと推察します。
さて、あなたに奪われたものを数えましょうか。
まずは、ダニエルズのザッハトルテからです。




