↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幽花  作者: 花厳 幽花
PR
5/5

エピローグ「どうして」

その後、僕はナミの墓参りへ行った。隣にはナミを連れて。

僕がお参りする様子を、彼女は何も言わずじっと眺めていた。僕は生前彼女が大好きだった小さな熊の人形を供える。


僕はナミの手を握る。酷く冷たいが、今となってはむしろそれが心地良く感じてきた。


「礼二・・・」


彼女の呟きを聞きながら、僕は空を見上げる。夕焼け・・・。もう一日が終わりを迎え始めているのか。

僕ははっとする。手にナミの感触がない。僕は急いでナミのいた方を見やる。そこにはもう、ナミはいなかった。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


最後に、僕はナミの実家を訪れた。出迎えてくれたナミの母は少し元気になっていた。それに僕は安心する。

畳の間に入り、また線香を上げさせてもらった。遺影の中の彼女は笑顔の花を咲かせたまま、写真の中で生きている。ああ、その通り、ナミは生きているのだ。


手に伝わる氷のような冷たい感触。しかし、彼女の手は柔らかい。


僕はまだ手に彼女の感覚が残っている気がして、握り拳を作ったり、崩したりと繰り返す。


「礼二くん、実はこれ・・・」


唐突に、ナミの母がとある箱を持って来た。手中に収まるほど小さなその箱を見つめ、僕はふと考える。


「ゆび、わ」というナミの言葉を思い出した。もしやこれが・・・。


「本当はすぐ渡そうと思ったんだけど、ナミが亡くなったばかりの貴方はどこか様子がおかしくて、渡そうにも渡せずにいたの」

「これは・・・」

「指輪みたい。ナミが事故に遭う直前に買った物らしいの。綺麗に残っているのが奇跡だわ」


僕は彼女の手から恐る恐る箱を受け取る。箱を開ける。それはそれは、確かに指輪だった。


ナミが探していたのはこの指輪のことだったのだろう。彼女の性格から考えるに、僕に結婚のサプライズでもする予定だったのだろう。


「普通、僕がサプライズする側だろうが・・・」


箱を持つ手が震える。声が上ずって、自分でもどう聞こえているのか分からなくなる。

目が熱い。涙なんて乾き切ったはずなのに。


「ナミ・・・!」


僕の背中を、ナミの母が優しく摩ってくれた。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


指輪をもらって以来、ナミは現れていない。かれこれ一年以上の月日が経過した。僕は就職に成功した。元々AIだったりプログラミングだったりの知識が深かったため、IT系の企業に就くことに。

初めての給料日、僕は小さな棚を買った。背が低い木の棚で、二段。一番上の段に指輪の入る箱を飾っている。


またいつかふらっとナミが戻ってきてくれるのではないか。そんな淡い期待を抱いているせいか、恋人なんて作る気になれなかった。


僕はナミの、あの咲き誇る笑顔の花を思い出す。


ナミが亡くなった後に現れた彼女がもしも幽霊だったのなら、僕はいつまでも魅憑かれていたい。

いつまでも側にいて、いつまでも彼女の体温を感じて、いつまでも笑い合って。


気付けば、僕は『待凪公園』にいた。


誰もいない。それは分かり切っている。真昼間から一人、屋根付きベンチの下に座りながら、海を眺める。


こうして過ごしていると、ふと、隣にナミがいる気がした。


「礼二」


そうやってまた名前を呼んでくれないか。


「部活、サボっちゃおっか」


またあの子供のような笑みを浮かべてほしい。


僕はそれから海へ向かった。バスには乗らず、歩いて向かった。海に到着した。こちらもまた人気はない。僕はただ一人、その青さを目に焼き付ける。


「何でもない!」


快活なその声を、また聞かせてくれないか。

彼女の手を握って、時間の流れなんて気にせず過ごしていたい。


どうして、サプライズなんてしようと考えたんだ。どうして、僕にそのことを黙っていたんだ。

どうして一人で先に逝ってしまったんだ。


ナミが亡くなってから何回も、自殺を考えた。でも、行動する勇気なんて中々出なかった。


波のさざめきが、鼓膜を優しく震わせる。僕はただぼうっと、ナミ以外の全てを忘れて、海の景色を眺めていた。


「礼二、どうして」


ふと、声が聞こえた気がした。

僕が隣へ振り向く前に、手に温かな感触が走った。人の手の感触。これはまさか・・・。


僕の目がまた熱くなる。


ああ、そっか。僕はもう――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。