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ゼムナ戦記 ストレイドッグホープ  作者: 八波草三郎
違うようで同じ二人

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迷い犬(1)

 キュロラント・バニャック戦隊長の私室はそれなりに広い。階級も操機団長補と高いうえに、この星間(G)平和維(P)持軍(F)駐留艦隊を統べる立場にある彼女が使う部屋は防諜対策なども万全である。ゆえに周囲を気にするまでもなかった。


「は……ぁん」


 それでも威厳を保とうとする努力は破られる。ベッドをともにしている男がそのいかつい外見に似合わず、あまりに丁寧に女体を扱うから。それが余計にキュロラントを熱くさせていた。


「お願い……、もう」

「ああ」


 激しく、それでいて彼女を気遣う攻めに屈して絶頂に達した。心地よい余韻に酔う。厚い胸板に頬を寄せていると幸福感さえ覚える。しかし、長続きはしなかった。


「もう行くの、ロゾー?」


 男は身を起こしてアンダーウェアに腕を通している。脱いだフィットスキンを抱えると立ちあがった。


「オレが部屋に出入りしているところを見られるのは風聞が良くない。君にとってはただの不満解消の相手でしかないんだからな」

「それは……」


 誘ったのは彼女だ。男にしてみれば、女の我儘に付き合った気分なのだろう。


(今からでも始めるのは)


 しかし、キュロラントはそれ以上手を伸ばすことができなかった。


   ◇      ◇      ◇


 十九歳のうら若きミレニティ・ユングの暮らす惑星ベッフェルベリは開拓歴わずか五十年ほどの若い星である。星間銀河でも辺境のゴート宙区のまた辺境に存在する鉱物資源惑星でしかない。

 極めて複雑な成長をした星系は大量の小惑星帯を抱えており、ベッフェルベリの惑星圏でさえかなりの数の衛星が周回している。その小惑星の探査を行い、有望な鉱物を内包しているか否かを確認し採掘して収入を得ている。


 それゆえ住民は結構な確率で荒くれ者を含んでいる。男の七割方はパイロット。女も半分くらいはそうだし、元をたどれば似たような確率でパイロット出身である。

 そんな感じなので喧嘩など日常茶飯事だ。この日も喧嘩の仲裁にミレニティが呼びだされたが、彼女の感想は驚きでなく慣れからくる呆れである。ため息しか出ない。


(私、なんのためにここにいるんだろう。最近わかんなくなってきちゃった)


 十六歳までの七年間、この惑星(ほし)を離れていたミレニティだったが惑うことも多い。敬愛する祖父が大切にしていたこの地で暮らしたいと考えたのは紛れもなく本当だ。

 居心地もいい。帰ってきた彼女を住人は温かく迎えてくれたし尊重もしてくれる。それが祖父の貢献へのお返しの意味が強くとも皆はきちんと彼女の人格を見てくれている。


(荒っぽいけど、基本的にはお人好しばかりなのよね。昼間っから飲んで暴れるのはいただけないけど)


 仕方ないとは思うのだ。小惑星探査作業というのは常に危険と隣り合わせである。アームドスキンという頑丈な人型機械に乗っていようが、フィットスキンという防護機能の高い宇宙服をまとっていようが死ぬときは死ぬ。実際にミレニティは物心もつかないうちに両親を事故で喪っていた。


(ストレス解消はいいんだけど喧嘩はねぇ)


 ベッフェルベリの警察もあまりに日常すぎる喧嘩沙汰に、ろくに関与しない。普通に暴行事件なのだがお互い様なのである。生死に関わるようでないと間に入らないし、荒くれ者たちも加減をわきまえている。そこが余計に問題なのかもしれないが。


(私に同じ役割を求められても困る)


 彼女の祖父は喧嘩の仲裁も上手かったと聞く。両者あるいはグループに意見を聞いて問題点を指摘する。本当なら理屈抜きで暴走する連中もそれで納得した。なにせ、祖父のジェイルはその気になれば誰よりも強かったから。


(論理と力で封じ込めてたみたい。ここの連中じゃそれやられたらぐぅの音も出ないわよね)


 子どもの喧嘩に大人が出てくるようなものである。感情を抑えきれずに突っ掛かってくるようなら簡単に転がされていたという。決して屈強な体格ではなかった祖父の強さを彼女も憶えている。

 そして、ミレニティ自身もジェイルの愛弟子であった。なので、辺境惑星の荒くれ者相手でも後れを取ることはない。それがさらに彼女を仲裁者(ジャッジ)として認めさせてしまう原因でもある。


「今日はどこの誰?」


 向かった先で人垣ができている。ベッフェルベリの住人はそんな気性なので喧嘩をするのも観戦するのも好きなのだ。困ったものである。


「ドッカスの野郎がな」

「彼なの? もう、大変なのに」


 ひと際体格のいい男の名前が出てしまった。酒も喧嘩も好きな男は何度彼女に叩きのめされても反省しない。逆に彼女にやり込められたがっているという想像したくもない噂まである始末。


「痣の一つふたつ覚悟して……」


 言いかけた瞬間、危険を感じる。ドッカスが吊りあげられているのが見えたからだ。そんなことができる人間を彼女は知らない。人垣を掻き分けて飛び込む。


(最悪大怪我をする人が出ちゃう)


 一も二もなく相手に蹴りを放った。まずは注意を引く必要がある。ところが彼女のキックはいとも簡単に受け止められている。それが最初の衝撃だった。


「え!?」


 二つ目の衝撃は、ミレニティが蹴った相手が犬であることだった。

次回『迷い犬(2)』 「それが大問題。どうにかしてくれないか?」

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