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私と彼女の物語 -Travelers of the Far Green Road-  作者: ORSBN.shu
第三部・盛陽
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109/129

3-39

フレアを起こした後、「着いてきなさい」という族長の言葉に逆らうこともできず、鳥馬に乗って高原と砂漠の境界を東へ向かっていた。

巨大な砂食いがいる砂丘に戻るよりも、ネフザードに従う方が安全だと判断した。


ゆっくりと進む鳥馬に揺られていると、ナイザが聖域に近付いていると教えてくれた。

ふと高原地帯に目を向けてみたが、そこには乾いた丘陵しか見えなかった。

何もない場所としか聞いていない聖域が、あの起伏を越えた先にあるのかもしれない。

ぼんやりとしながら、丘陵の向こう側を思い描いていると、ナイザが族長らに聞こえないほどの小さな声で話しかけてきた。


「何か聞かれてもこっちで答える。話を合わせてくれ」


意図するところは分からなかったが、おそらくネフザードに知られてはならないことがあるのだろう。

素直にナイザに従うのが得策だと考えた。


夜闇はすっかりと消え、青空と砂地の境界線がはっきりと見えた。

その景色を眺めながらしばらく進んだところで、前方に幾つかの炊煙らしきものが見えた。

ネフザードの野営地なのか、かなり大規模なもののようだった。

族長が従者の一人に声をかけた。何を命じたのかは聞こえなかったが、声をかけられた従者は、駈歩で炊煙の見える方角へ向かっていった。

それを見送った後で、族長がこちらを振り返った。


「少し寄り道をする」


同意を得ようというわけではない。着いてこい、ただそれだけの意味だ。

族長が手綱を引いて鳥馬を北へ向ける。それに従うように、皆も北へ向けて手綱を引いた。


──数分もせずにたどり着いた場所で、族長が鳥馬から降りた。

砂が捌けた岩場。

少し窪んだような場所に、六本の柱が立っていた。

見覚えのある光景。六柱の女神だ。

族長に倣って鳥馬を降り、柱の前まで歩み寄った。

柱の前で族長はこちらを振り返り、薄らと笑みを浮かべた。


「東の者は、レイア様を尊ぶのだったか」


その言葉の真意は図れない。

それ以前に、こちらの素性は何一つ話していないというのに、オリーとフレアが東から来たということに、いつどこで勘付いたのか……。

族長に問い質すことが恐ろしく感じられ、それを口にすることができなかった。


チラリとナイザを伺い、オリーは族長に頷いてから言葉少なに答えた。


「ユースガリア王国はレイアを信仰しています」


それに何度か頷く仕草を見せたあと、族長は柱に向き直って膝をついた。


「砂漠の民は六柱様とはあまり縁がなくてな。

 部族にもよるが、八部族が常に祈るお柱様は、フィリエン様だ」


目を閉じて、柱に向かって地に伏せ祈りを捧げる。

六柱の一柱、常闇の女神ノルレの眷属であり、死を司る女神──フィリエン。

大陸西部はおしなべてルシア信仰だと思っていたが、どうやらそれはザーローンに限った話のようだ。


「砂の大地にあって、せめて今際の際は安らかでありたいと願う……。

 ──決して善人ではないが、失われるには惜しいな」


族長の呟いた言葉の意味は皆目見当がつかなかったが、それはやけに耳に残った。

祈りを終えた族長は静かに鳥馬に乗り込み、出発すると告げた。

皆同じように鳥馬に乗り込み、走ることもなくゆっくりと鳥馬を進めた。


そして、その後すぐにネフザードの野営地に到着した。

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