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フレアを起こした後、「着いてきなさい」という族長の言葉に逆らうこともできず、鳥馬に乗って高原と砂漠の境界を東へ向かっていた。
巨大な砂食いがいる砂丘に戻るよりも、ネフザードに従う方が安全だと判断した。
ゆっくりと進む鳥馬に揺られていると、ナイザが聖域に近付いていると教えてくれた。
ふと高原地帯に目を向けてみたが、そこには乾いた丘陵しか見えなかった。
何もない場所としか聞いていない聖域が、あの起伏を越えた先にあるのかもしれない。
ぼんやりとしながら、丘陵の向こう側を思い描いていると、ナイザが族長らに聞こえないほどの小さな声で話しかけてきた。
「何か聞かれてもこっちで答える。話を合わせてくれ」
意図するところは分からなかったが、おそらくネフザードに知られてはならないことがあるのだろう。
素直にナイザに従うのが得策だと考えた。
夜闇はすっかりと消え、青空と砂地の境界線がはっきりと見えた。
その景色を眺めながらしばらく進んだところで、前方に幾つかの炊煙らしきものが見えた。
ネフザードの野営地なのか、かなり大規模なもののようだった。
族長が従者の一人に声をかけた。何を命じたのかは聞こえなかったが、声をかけられた従者は、駈歩で炊煙の見える方角へ向かっていった。
それを見送った後で、族長がこちらを振り返った。
「少し寄り道をする」
同意を得ようというわけではない。着いてこい、ただそれだけの意味だ。
族長が手綱を引いて鳥馬を北へ向ける。それに従うように、皆も北へ向けて手綱を引いた。
──数分もせずにたどり着いた場所で、族長が鳥馬から降りた。
砂が捌けた岩場。
少し窪んだような場所に、六本の柱が立っていた。
見覚えのある光景。六柱の女神だ。
族長に倣って鳥馬を降り、柱の前まで歩み寄った。
柱の前で族長はこちらを振り返り、薄らと笑みを浮かべた。
「東の者は、レイア様を尊ぶのだったか」
その言葉の真意は図れない。
それ以前に、こちらの素性は何一つ話していないというのに、オリーとフレアが東から来たということに、いつどこで勘付いたのか……。
族長に問い質すことが恐ろしく感じられ、それを口にすることができなかった。
チラリとナイザを伺い、オリーは族長に頷いてから言葉少なに答えた。
「ユースガリア王国はレイアを信仰しています」
それに何度か頷く仕草を見せたあと、族長は柱に向き直って膝をついた。
「砂漠の民は六柱様とはあまり縁がなくてな。
部族にもよるが、八部族が常に祈るお柱様は、フィリエン様だ」
目を閉じて、柱に向かって地に伏せ祈りを捧げる。
六柱の一柱、常闇の女神ノルレの眷属であり、死を司る女神──フィリエン。
大陸西部はおしなべてルシア信仰だと思っていたが、どうやらそれはザーローンに限った話のようだ。
「砂の大地にあって、せめて今際の際は安らかでありたいと願う……。
──決して善人ではないが、失われるには惜しいな」
族長の呟いた言葉の意味は皆目見当がつかなかったが、それはやけに耳に残った。
祈りを終えた族長は静かに鳥馬に乗り込み、出発すると告げた。
皆同じように鳥馬に乗り込み、走ることもなくゆっくりと鳥馬を進めた。
そして、その後すぐにネフザードの野営地に到着した。




