1話「盗みの女神編②」
彼らはなぜか分からなかった。
だが、その男女を――特に女のほうを受け入れてしまった。
別に"綺麗でもなんでもない"価値のない女の言葉に、だ。
それは盗賊のアジトにいた副頭領も同じだった。
頭領の2人もまさかあの副頭領がという驚きとともに、こうしてリョウタロウとスティラは迎え入れられた。
「はぁ~……心を盗むってこういうことか」
「おや、バレちゃったのかい」
と言ってペロっと舌を出すスティラ。
その美貌は本当にずるいくらいに、様になっていた。
「……それで? どうするんだい? あたしも知らなかったけど、ここはどうやら匂いがするよ?」
「どうもこうも――」
「出ていくってのはナシだよ。あたしが楽しくない」
「いや、なんで俺がスティラを楽しませないといけないのか……いやでもそうか」
いつの日か言っていた迷惑をかけることもあるという言葉がこの日だと納得した。
それよりもだ。
「あの頭領の2人兄妹と、副頭領の悪辣な顔のどっちを選ぶかってことか?」
それはここに入るにあたって頭領、それから副頭領の子分たちに聞いたことに端を発する。
2人兄妹の親がそもそもの先代の頭領らしく、全てを引き継いだ2代目頭領というのが彼らだった。それは3割の荷の代わりに安全を保障するという彼らの言う伝統的なやり方。
逆に副頭領は、違う。
悪辣な顔にこれでもかと似合う、いわゆる全奪いという行為を推し進めるという要するに派閥争いがあって俺たちも両陣営側からこっちに入れとそれとなく言われている。
「ま、どっちにも入んないけどな」
そんなことを言いながらアジトから出て、周りを見渡す。
「……ふ~ん? じゃあ、どうするってんだい」
「とりあえず、開拓だな」
手でもって見渡したところにあたりをつけて、なるほどなるほどと納得しながらそちらへと向かった。
本気を出して聴力を活かせば、ここらへんは川も近いし池とかもできそうだなと思いながら俺は歩いていく。
「……」
そんな俺を見て、何やら考えていたがそうかいと言ってついてくるスティラ。
「さてと」
川に着いた俺は、まず最初に拠点となる場所に池を貯めるための道を作ることにした。気配を消して手を両手でほじっては、ズズズーっとそのまま後方へと足を進めて昔やった公園のお砂場でのトンネル堀りのような感じで川の水を引いた。
……?
公園のお砂場ってなんだったっけ?
たまに思いつく謎の記憶はなんだろう。
まぁ、いいか。とりあえず俺はそんな感じで作業を進めた。
もちろんアジトでの作業などもやる。
両側からの下っ端の作業だが、だいたいが下着の洗濯やら何やらの雑用だ。
なぜかスティラはその申しつけは受けなかったが。
「よし、これで川からの水がこの池に貯まるな。じゃあ今度は――」
そして俺は手でもって、色々な女神様から習った通りに木を選別しては切って、皮を剥いで木材として加工していった。
手で全てできちゃう身体能力よ……。
どこで手に入れたのか、また果実をかじりながらスティラは俺を手伝うこともなくその作業を見るだけだった。……たまに木材がなくなるのは、こいつのせいだ。
そのたびに盗み返すのだがなぜかそれが好きなようで、大半の時間はこういうやり取りに費やされる。
さて、そんな作業をしながらも俺はどちらにも組みしない姿勢なので、食料も自分で調達をしないといけない。どっちにも組みしないのになんで下っ端の作業をするのかと言うと、真面目に作業してるんで気にしないでくださいなという感じのことだ。
「ピギャー」
よし、猪が狩れた。
狩猟の女神様に糧を祈って、それからいただきますと祈る。
一連の作業を終えて、肉にしたそれは作った小屋の中で焼いて食べる。
また何も言わず盗んでいく女神のためにもちろん多めに肉を焼いておくのは決まっている。
小屋を作るところまでは姿を見せていたが、それ以降は姿を出さずアジトのほうで何かをしているのは気配で分かった。きっと、盗んで遊んでいるんだと思う。
「……さて」
こういう生活を続けていると、面倒なモノが残ってしまう。
それは皮やらの副産物だ。
この近くに街があればと気配を色々追っているのだが――
「……気配盗んでたんだな。街の」
「おや、やっと気づいたかい?」
「はぁ~……」
なんというか、この人はという感じだ。
いや、柱か。
「街に行くけど、ついてくるのか?」
「ああ、あんたの傍からは離れられないからね~」
その言葉、もっと素敵な雰囲気で言われたいと思ったけどきっとあれだろうな。神の力が近くじゃないと通じないとかそういうことなんだろう。
さて、それじゃと台車を作りそこに全部乗せてこそっと街のほうに出かけた。
「……」
気配を消さずにでかけたので、誰かにじっと見られたのは気づいていた。
街に着き、衛兵さんに身分証を提示されたのだがここは頼りになる相棒の女神様にお願いをする。
「……あ~……どうぞ……お通りを……」
ということで、早速中に入り買い取りをしてくれるところを人づてに探す。
すると――
「ん~……冒険者ギルドか」
そんな感じで案内されるのは、どの人も冒険者ギルドだった。
とりあえず登録をするために訪れて登録をした上で、俺は冒険者と盗賊を兼業することとなった。
ちなみに通り過ぎるたびに物を盗もうとするスティラには、メをしておいた。
まだお金がないのだから。