プロローグ「5000柱の女神に見守られながら旅する異世界転生」上
「死んだ? 俺……死んだって?」
「はい、あなたは死にました。今は魂だけの存在です」
その言葉にショックを覚える以前に、俺はあることにビビっていた。
「そ、それは……それは。ところで、聞きたいんですが――」
「なんでしょう?」
「あなたの後ろにいるたくさんの女性たちは一体?」
「……ああ、あなたに興味を持つあなたを見守りながら次の生へと導きたい女神たちですね」
女神"たち"?
見守りたいってなんだ?
そもそも、なんでそんなにいるんだ。
普通こういう時って、目の前の綺麗なお姉さんみたいな女神だけじゃ……。
「まぁ、私を綺麗だなんて――」
「ちょっと美の女神である私を差しおいて――」
「美の女神なら、あと320柱くらいいるでしょう?」
「そ、そうだけど」
何やら俺に話しかけていた女神様が美の女神様という話を遮った人をたしなめ――
まて、320柱?
「あの……全部で何柱ぐらいいらっしゃるのですか?」
その言葉に俺はふわっとして気絶するのを感じるのだった。
「全部で約5000柱ですね」
次に目覚めた時に見えたのは、何やらギリシャにあるような古代の柱だとか綺麗な花壇だったりだとかそういうのがあるところだった。
右手をにぎにぎしてみる。
あ、さっきまでなかった自分をすごく感じる。
魂だけってああいう感覚なんだなと現実逃避をしていると、最初に声をかけられた女神様がこっちに気づいたようで一瞬で俺の下にやってきた。
「目覚められたのですね」
「あ、はい……それでこの体は?」
「ええ、あなたが次の世界へと転生するために必要となる要素を我らが組み合わせた体になっております」
「く、組み合わせた?」
「ええ、頭の女神、体の女神が基本を作り美の女神監修の下、脳の女神、血管のめ――」
「ちょ、ちょっと待ってください」
「なんでしょう?」
「いや、おかしいのを司ってる女神がいたような気がして……頭の女神とか」
「はい、女神は無限大数的にいますから」
む、無限大数……。
日本の八百万とか話にならないくらいいるのかよ!
「今のあなたの年齢は15歳ほどの体になっていて、この世界から出た瞬間に老いの女神によって、次の生が開始されます」
老いの女神……。
「ですが、我らの力であなたを作ったものですからあなたの転生する世界ではさすがにそのままでは適用できませんので、手加減を覚えてほしいと思っております」
手加減?
どんなスペックで作ってくれたんだよ……。
「さあ、他の女神が待ってますのでいきましょうか」
そうして案内された俺が見たのは、まさに美の饗宴という感じの女性だらけという形の終〇のハーレム状態な語らいの場だった。
「あら、目覚めたみたいよ」
「やっぱり、いい魂よね」
「あの頭のできもいいわ」
「体もいい形ね」
そんな語らいが聞こえてくる。
泉のようなところの前にベンチっぽいものがあって、そこにもいるし
花畑のように綺麗なところでそこにもいるし、とにかく至る所に女神様たちがいる。
はっきり言って、供給過多だ。
「ていうかそもそもここってどこなんですか?」
「ここは、創造の女神による世界――女神の園です。あなたを見守りたいという御柱が多すぎるための措置です」
め、女神の園……そりゃ5000柱もいるっていうんだからな。
そもそも、俺にこんだけ関わりたい女神がいるのに、男神が全くいないのが理解できないんだが……なんでなんだろう。
「あの、結局のところですが――」
「なぜ、あなたにこれだけの御柱がということですか? 簡単なことです。あなたの魂がそれほどまでに魅力的だからです。あなたも以前いた世界でいえば、女神にはとても惹かれる男前魂ということですね」
なんだその魂は……。
「まだ質問はありますか?」
「えっと、それでこれから俺はどうなるんです?」
「はい。あなたはここで少しの間、あなたの転生する世界で普通に生活をするために手加減を覚えてもらいたいと思っております。今のあなたの状態ですと、世界を壊すほどのことをなしてしまいそうですので」
「せ、世界を壊す!?」
おいおい、どんだけ俺の身体能力チートなんだよ!
そりゃ手加減を覚えないとだめだな。
そんなわけで俺は目の前の女神の言われる通りに――そういえば、この女神様について何も聞いてなかったな。
「そういえば、あなたは何を司っている女神なのですか?」
「そうでしたね、私は魂を司り統括を任された女神です」
「統括を任された?」
「ええ、ここでの女神たちにもいわゆる序列というものがありまして――」
「そこから先は私が説明をいたしましょうね」
そんな言葉とともに現れたのが、またとんでもない美しさとスタイルを持った女神様だった。
「創造の女神、アブソリューナと申します。この園にいる女神たちの中でもっとも序列の高い女神は私ですが、序列2位である彼女――魂を司る女神・ソリューシャに統括をお任せしようと思っております」
「あ、どうも……えっと俺の名前は……あれ?」
「思い出せないのも仕方ありません。あなたは死にそして魂を丁寧に洗われたので、もはや前世の記憶も洗い流されておりますので、名前すらもおぼえていないでしょう」
「そういうことですか……」
今の俺に名前はないのか。
なんかちょっとがっかりしてる自分がいる。
「希望があるようでしたら、あなたの名前を創造いたしましょう」
「え?」
「私たちがご迷惑をおかけすることもあるかと思いますので、それくらいはさせてもらえれば……」
「といっても……もう記憶がないので」
「そうでしたね。まぁ、ここにいる間にどういう名前がいいかなど考える時間くらいはあるでしょう。さ、今日はまず休んで」
そう言われるとなんか疲れた気がする。
というか、ここにいるとなんかやたら疲れるような……。
アブソリューナ様に言われるまま今日は、用意してもらった部屋で休むことにした。
▽
「彼は眠りましたか?」
「ええ、よほど神気にあてられたのか」
「ムリもありませんね。そもそもこれほどの柱の女神が1人の人間に付くことはあり得ませんもの……」
「仕方がないとはいえ、ですが――」
「分かっております。彼のためにも、私たち女神が頑張って彼の手助けをしましょう」
そう言って頬を染める女神に、同じように魂の在り方に同じく一目惚れ女神もともに彼を思うのだった。