九話ですぜ、旦那!
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気付いたのが今日で、お礼が遅くなりました。申し訳ないです。
楽しんでって下せぇ└(゜∀゜└) (┘゜∀゜)┘
ムーティッヒ王都は二十五万人という人数で賑わっており、高さ二十五メートル、厚さ八メートルという巨大な壁によって常に安全を保っている。
門は二つあり、一つは魔の森方向へ真正面に存在していて、もう一つはその反対側だ。
魔の森方面にある門が正門で、そこから入ると兵士の訓練所や宿舎があり、その先へと踏み込めば騎士の訓練所と宿舎があって、そこから更に進むと大きな屋敷が目立つ貴族街、そしてその先が王城である。
つまり、正門から入ると一般市民とは一切擦れ違わないという訳だ。
正門側は魔の森が存在していて危険なので、平民は後ろに居なさいという国の考えによって決められた法律であり、それ故に城の正面側には平民は一人として存在しない。
この事実はギルバードさん達から事前に教えて貰っていたのだが、裏門から入った私が実際に街中を見るまでは信じていなかった。
しかし、こうやって自分の目で見てしまったのだから、否定する事は不可能。
それに、今や私はムーティッヒ国の姿勢に感動しているくらいなのだから、否定するどころか称賛したいくらいだ。
何故なら、危険から平民を遠ざける為に貴族達が危険と平民の間に入るなどと、他の国では絶対に耳にする事も無いし見る事も出来ないと思えるくらいだからだ。
平民が存在しているからこそ、自分達貴族が生きていられると理解しているのだろう。
それを理解している貴族など少ないのが世の常なのに、この国ではそこの部分が大きく違うらしい。
身分の高い者は、それに応じて果たさねばならない社会的責任と義務が存在するという貴族では基本的な道徳観で語られるノブレスオブリージュという有名なフランスの言葉があるが、此処の国の貴族はそれを地で実践しているように私には思えた。
まぁ、元々のノブレスオブリージュという言葉は、貴族には貴族なりに相応しい態度で日々を過ごしなさいという言葉らしいので、現代で使われるノブレスオブリージュと昔のノブレスオブリージュは若干意味合いが違うのだが……。
ともあれ、素晴らしいのは貴族の倫理観や道徳観だけではない。
先程とは打って代わってかなり下品な話になるが、目の保養となる美しい女性達がこの国には多く居るのだ。
このムーティッヒ国の人種は、六割ドワーフ、二割エルフ、一割ヒューマン、残りの一割がそれ以外の人種となるのだが、私の視線はドワーフの女性達に釘付けである。
ドワーフの女性は人種的にどうしても身長が低い傾向にあるものの、出るところは出ていて引っ込むべきところは引っ込んでいて、とても素晴らしいプロポーションをしているのだ。
素晴らしいのはそれだけではなく、まるでパルテノン神殿を連想させる建物が街中を進む私の視界に入った時、その建物の中に秘部のみを申し訳程度の布で覆っている女性達を見た時は天国に来てしまったのかと思えるくらいだった。
しかしそれと同時に、そこに居る男性達も同様の格好をしているので、それが目に映ると当然殺意が芽生えたりもしたが、それでも素晴らしいと手放しで言える程には最高の国のようだ。
「コーター、あそこはやめとけ」
「ただの娼館に見えますが?」
見目麗しい女性達(男も居るが)に目を奪われていた私に、ミールさんが少し真面目な様子で忠告してきた。
しかし当然、それに対して見たままを口にして疑問を投げ掛ける私。
すると、今度はギルバードさんが小難しい表情で語り始めた。
「あそこは奴隷商館であって娼館じゃないぞ。……そんでもってミールがやめとけって注意した理由は、料金が馬鹿みたいに高いからだ」
「奴隷……。あの人達全員が奴隷なんですか?」
「あぁそうだ。首輪してる奴は、全員が奴隷だ」
「奴隷って事は、つまり何処かから誘拐して来たとか?」
奴隷という言葉に対して、私は思わず表情を厳しいものにして問うた。何故なら、地球での歴史で奴隷というのは凄惨たるものだったからで、私としては忌避するべきものだったからである。
しかしそんな私の表情と言葉に対して、ギルバードさん達はポカンとした表情で奇妙な物でも見たかのような雰囲気を醸し出し、その次の瞬間にはプッと吹き出すように笑った。
「いやいや、何でそうなるんだよ。はっはっはっ!」
「そんな奴隷商が存在したら、この国の法の番人が許しゃしないっての」
ギルバードさん達は一頻り笑うと、自分の思っていたのとは正反対の反応を見せる面々に面食らっていた私に向かって、奴隷制度をいまいち理解していないと判断したミールさんが代表して穏やかな口調で説明し始める。
「何故コーターがそんな考えに至ったのかは分からんが、説明するなら奴隷制度というのは一種の救済処置なんだよ。病気、怪我、飢饉、事業の失敗等々と、様々な理由によって身を崩した者達を奴隷商人が大金で買い、腹一杯の飯と治療や教育などを施し、その対価として全奴隷、部分奴隷、専門奴隷の三つに分類して客へと売る。その際、三つに分類される者達は勿論、自分達で奴隷身分を選べる訳だ。……例えるならば、荒事が嫌いであれば家事専門だとか商売での職人専門だとか、後は夜の伽であるとかそんな風に選択出来る。
ここまで説明すれば分かると思うが、本来は死ぬか裏の世界にでも身を窶すしかない者達にとっては、自分の身一つで家族を、或いは村全体を救う一助となる。それ故、奴隷制度というのは必要不可欠なものなのだ」
「あ〜……なるほど」
ミールさんの説明で、社会福祉の一つとして奴隷制度が運用されているのが分かった私は、一応の納得はした。
そう、一応の納得は出来たのだが、しかしそれならもっと良い制度を作れよと、そう言いたくもなった私の気持ちは間違いではなかろう。
だが、それは文明が遥かに進んだ法治国家に生きていた私だから思う事であって、この世界の人間にはとても考えに至らないのだから仕方がない。
法制度、人権保護、社会福祉などの最低限を維持する為の税制度を作るには、まだまだ改善せねばならない部分が多様にあるし、そこを改善出来ねば私が王であっても不可能だ。財源が無ければどうしようもないしな。
そう考えると、この世界の奴隷制度というのは確かにある種の救済処置としては今のところ必要であるのだろう。
「それより、もうすぐ城に着くから心構えの一つでもしておけよ」
「はい。……はっ!? 平民の私がどうして城に?!」
突然の言葉に動揺する私に向かって、まるで微笑ましいものでも見るかのような表情で、ギルバードさんが然も当然かの如く告げる。
「この国に勇者として認められた俺達が連れて来たんだから、それは当然だろ。帰還の報告もしなけりゃならんし、そのついでだよ」
「た、他国の平民でしかない私を、そんな簡単に城へと入れたら問題になると思うのですが?」
「大丈夫大丈夫。俺らと一緒なら問題にならねぇから」
「いや、絶対に問題大有りだと思います。やめておいた方が無難かと」
「はっはっはっ、ビビり過ぎだって! 直接王様に会って話す訳でも無いし、何も問題になりゃしねぇって!」
豪快に笑うギルバードさんがそう言うものの、私は不安で不安で仕方がなく、他の面々へと一縷の希望を求めて視線を送る。
しかし、私の期待は見事に砕け散った。何故なら、他の面々もギルバードさんと同様に笑っていたからだ。
普通に考えたら、一体全体どうして大丈夫だと言いきれるのかが不可解でしかない。
私は確かに、鍛冶師としてはこの世界最高の腕を持つが、それ以外はただの平民でしかないからだ。
いや、それは少し卑屈過ぎた考えかもしれない。何せ、鍛冶だけではなく、他の分野でも遥かに進んだ知識を持っているのだから、ただの平民とは大きく異なっているとは自負しているからである。
だが、それは私自身だけがそう認識しているだけであり、他の人からしたら鍛冶師として希有な者程度の認識である筈。
そんな者を、いくらこの国で勇者として名高い彼らでも安易に城へと招き入れてしまえば、最悪の場合には罰せられる可能性があるとしか思えない。
これはマジでヤバい事になった。
そう考える私がどうにかして現状を打破する為の方便を画策していると、いつの間にか巨大な城の門前へと辿り着いていた。
その門前には、全身甲冑で身を固めた兵士が十人居た。誰も彼もが大柄で、兜の隙間から垣間見える鋭い目が光っているように見えた。
この時の私は、ただただヤバいと思うだけで、後はもうどうしようもない事を悟るしかなく、ギルバードさんがやけに親しげに片手を上げて門番に挨拶するのを眺めるしかたなかった。
そして、何故なのか私の手荷物検査などは一切行われず、そのまま城の中へと通される。ギルバードさん達が武器を取り上げられたりしなかったのは、彼らが勇者と認定されているので頷けるものの、何故私も同様の扱いなのかは不明だ。
そしてそして、またもや何故なのか、先ずは身を整えよと騎士然とした者に言われて、何やら客人の待合室みたいな場所へとギルバードさん達と一緒に連行された。
「………本当に大丈夫でしょうか? と言うか、この手渡されたオイルはどう使えと?」
不安で仕方ない私は若干声を震わせながら、汚れた服から身綺麗な服へと着替えるギルバードさんに尋ねた。
すると彼は、ドヤ顔でオイルを両手にまぶし、そのオイルまみれの両手で髪を整え始める。
それを見て、手渡されたオイルが整髪料である事を察したのだが、不安で仕方ない今の私からしたら、ギルバードさんのドヤ顔が非常に腹立たしいものに見えて仕方がなかった。
ぶん殴りてぇ、とそう思う私は最低の人間なのだろうか?
いや、何故だか分からないが、今なら許される気がする。きっとガンジーでも助走をつけて殴る事を許してくれる筈だ。
「ほら、コーターも急いで支度しろ。多分、宰相様との謁見になるからな」
「宰相様!? いきなり宰相様と会うんですか?!」
怒りにプルプル震える私に、ジョッドさんがいの一番に支度を終わらせ忠告してきたが、その言葉に私は盛大に困惑してしまう。
しかし、圧倒的に上の立場の人を待たせては無礼にも程があると理性が訴え、その結果、私はほぼ無意識に身支度を整え終えた。
そして次の瞬間、まるでそれを見越したかのように案内してくれていた騎士が再び現れ、有無も言わさず何処かへと連行され始める。
最早脳内では、ドナドナが流れていた。私は売られる子牛の気分である。
そうして茫然自失のまま案内された一室で、部屋の内装を見る余裕も無い私が(ギルバードさん達は平然としている)静かに待っていると、四十後半に差し掛かったくらいの年齢の男性が室内へと堂々とした素振りで入って来た。
「久し振りだな、勇者達よ。相も変わらず張りのあるその肉体から察するに、冒険者としての仕事も順調なようだな」
「はははは。実りある冒険をしていれば、この肉体を維持する事に困難はありません」
「クックックッ、色々と噂は聞いておる。また強大な魔物を倒したらしいな」
「えぇ。かなり苦労しましたが、新しい武器のお陰ですよ」
ギルバードさんがリーダー然として宰相様と親しげに会話を始めたかと思えば、宰相様の視線がギルバードさん達がソファーの後ろに立て掛けていた武器へとチラリと向けられた。
それを察して、ギルバードさんが自分の相棒である主武器の斧とサブの手斧二本をテーブルの上へと置いた。
すると勿論、宰相様の視線はその武器へと注がれる事になる。
「ほう、これが噂の………。しかし、噂の代物とは違って装飾が施されておる様子」
「これはコーター特別製の武器ですからね。ミール達の武器も、全部そうですよ」
「なるほど。だから形状も少し異なる訳か」
「はい。それに、この武器を始めとした我々の武器は全て、マジックウェポンかと見紛う程の性能を持っております」
「噂では鍛冶師であって錬金術師ではない筈だが? それに、この武器からは魔力を一切感じんぞ?」
「それは実際に武器の使用時を見て頂ければ、発言の意味が分かりますよ」
ギルバードさんが自分自身を誇るかの如く武器を誉める言葉を発すると、宰相様は頻りに感心したように頷いた。
そして、その宰相様の視線が私へと移った。
私はその視線を受けてドキリとしていまい、咄嗟に立ち上がると深々と礼をして口を開く。
「お初にお目にかかります。しがない鍛冶師であり、その武器の創造主であるコーターと申します」
「ふむふむ。そなたが噂の鍛冶師か」
「どのような噂をお耳にしているのか存じませんが、世間では過分な評価を頂いていると理解しております」
「謙虚な事だ。職人にしては珍しいタイプだな。
ともあれ、何やら非常に困った事態に陥っておると聞いておる。そして、それ故にこの国へと亡命を願っている事もな」
「はっ。私の願いをお聞き下されるのであれば、粉骨砕身、この国に尽くす所存であります」
「クックックッ。小難しく古い言葉を使う鍛冶師であるな、コーターよ。
宜しい、その方に陛下からのお言葉を伝える。畏まって聞くが良い」
笑う宰相様が突如、ピリピリと肌を突き刺すような雰囲気を醸し出したかと思えば、このムーティッヒ国の国王からの言葉を私に伝えると告げた。
それによって、私は知らず知らず映画などで見聞きした作法を咄嗟に取り繕い、片膝を床に付けて畏まる。
「その方をムーティッヒ国の国賓として一時的に迎え入れ、その方が此方の要求を飲んだ暁には国民としての身分を与える。
此方が要求するのは、王都の兵士や騎士の武器全てを造る事。無論、その際に必要な工房などは王城の鍛冶工房の使用権限を与えるので心配せずともよい。そして、材料も然りだ」
「はっ。一時的にでも国賓として扱って頂けるなど、光栄の極み。満足して頂ける武器を造る事をお約束致します」
「うむうむ。良き覚悟だ」
私の言葉に満足したのか、宰相様は頻りに頷いて笑みを浮かべた後、私がソファーへと座るように国王様の言葉を伝えた時とは打って変わって優しい口調で促してくれた。
それを受けて、私はホッと胸を撫で下ろしながらソファーへと腰を降ろす。
「して、その方の望みとは何ぞや?」
「この国で鍛冶師として工房を構える御許可を頂きたいのですが、宜しいでしょうか?」
「それだけか? そなたの鍛冶師としての技術があれば、それ以上を望んでも良いぞ?」
「いえ、ただ鍛冶師として工房を開く御許可を頂ければ幸いです。そうすれば、餓える事はありませんので」
私の願いが意外だったのか、少しポカンとした表情を浮かべた宰相様は、数拍の間をおいて快活に笑い始めた。
何が可笑しかったのか、それが分からぬ私は少し面食らってしまう。
「いやいや、すまんな。儂の知る職人は皆、自分の腕に誇りを持っており、それが故に過度な要求をする者も少なくはない。それなのに同じ職人である貴様の要求が余りに小さくてな、少々面食らってしまったのだ。
馬鹿にして笑った訳ではない、許せ」
「いえ、国民としての身分だけではなく、工房を開く御許可を頂けるだけでも望外の僥倖でありますれば、気分を害するなどあり得ません。ただ何故お笑いになったのかと、そう疑問に思い驚いただけですので」
「そうかそうか。それであれば良い。
あぁ、それからその方の住まいは、国賓として扱われる故に、この城内にある一室に寝泊まりして貰う。此方の要求である武器が全て造られる迄、衣食住は心配せずよとも良い」
「平民を国賓として扱って頂けるだけでも異例の事と思いますが、本当に宜しいのですか?」
「何か懸念でもあるのか?」
「前例が無い事でありますれば、それを嫌う方々も居るのではと」
「クックックッ。実に聡いな、コーター。
確かに貴族とはそういうものであるが、その方を国賓として扱うのに不満がある貴族など存在せぬよ。寧ろ、今頃は手放しで大喜びしておるだろう」
少なくとも、英国貴族などは前例を嫌になるほどには気にする存在だ。それは日本の公家でも同様である。
だからこそ、この世界の貴族もそうだろうと高を括っていたのだが、宰相様はそれを肯定しつつも今頃は大喜びしているだろうと断言してみせた。
その事に心底疑問に思い、知らず知らず首を傾げてしまった私を見て宰相様は、笑わずには居られないと言わんばかりに盛大に笑った。
「面白い、実に面白い鍛冶師だな。その方は自分の真なる評価を知らぬと見える」
「評価、でございますか?」
「うむ。実はの、ムーティッヒ国はその方を欲して、戦争を仕掛けるつもりであった」
「へ……? は!? せ、戦争ですか?!」
「クックックッ。やはり自身の評価が低いと見えるの」
突如知らされる事実に、私は驚愕して目を見開いた。それはギルバードさん達も同様であったが、私の驚きは彼ら以上だったのは間違いないだろう。確かに私の造る武器はこの世界でも最高峰であると自負しているが、戦争を仕掛ける程に欲するとは思いもしなかった故の驚きである。
宰相様は笑顔から一転、その表情を少し厳しいものへと変化させて更に言葉を続ける。
「全ての貴族がその方が造る武器の性能を知った時、ビルジア国に恥ずかしげもなく盛大に嫉妬した。何故あのような人口一万人にも満たない弱小国に、一体全体どうしてこれ程の武器を生み出す鍛冶師が誕生したのかと。それはもう怒りすら沸く程には嫉妬した。
その結果、ムーティッヒ国の貴族の全員が日夜戦争の口実を探すようになった。それも当然、あれ程の武器を手にしたならば、武力で大きなアドバンテージを得る事が出来るからな。
そんな矢先、耳を疑う報せが舞い込んだ。件の鍛冶師が、ムーティッヒ国へと亡命を求めておると」
恐らく私がムーティッヒ国の国境へと辿り着いた直後の事なのだろうが、そこまで告げた瞬間、再び宰相様はニコニコと溢れんばかりの笑みを浮かべ、更に言葉を続ける。
「とまぁ、そういう訳だ。その方の腕を信頼しておるからこそ、こうやって裏の事情を明かしておるという事を理解しておいて貰おうか。決してムーティッヒ国はその方を無下には扱わん、という意味でな」
「か、過分な評価を有り難う御座います」
「クックックッ。して、武器製作にはいつから取り掛かり、そしていつまでには終わるのだ?」
「は、はい。それについては兵士や騎士様の人数が分からない事には答えようもないので、先ずはその辺りを教えて頂ければ大まかな日数を答えられるのですが……」
「それはそうじゃな」
思っていたよりも私自身の評価が高い事に困惑しつつ、それでも失礼の無いように無難な返答を心掛ける私。
それによって宰相様の機嫌を損なう事はなく、私は黙して返答を待つ。
「王都の兵士が二千人、騎士が百人。武器は槍が主体で、剣が予備じゃな。……それと、近衛兵には装飾を施した槍と剣を五十人分になるの」
王都の兵士だけで二千人も居ると聞き、流石は中堅国家だと驚く。しかし、総人口が五十万人を越える国なのだから当然かと思えばその驚きも幾分か萎む。
だが、やはり弱小国と比べればその兵士数には素直に驚くばかりだ。ビルジア国と比べるのがそもそも烏滸がましいのかもしれないが、恐らくビルジア国の全兵士が二百から四百程度なのだろうと考えられるのだから、その戦力差たるや象対蟻のようなものだ。
しかも、要求されたのは王都に居る武力兵だけの武器であるので、国全体の兵士数や騎士数ともなれば、きっと五倍以上にはなる筈。そう考えると、益々ビルジア国との違いが浮き彫りになる。
「……それですと、全ての武器が全員に行き届くまでに少なくとも半年。遅くて八ヶ月、と言ったところになると思われます」
「八ヶ月?」
「はい。遅いと思われるでしょうが、それでも大急ぎで造った場合の見積りです。申し訳ありませんが、これ以上は早くなりません。私の造る武器の全てが、これまでに存在しない製法で生み出される代物でありますれば、この遅さはご理解頂きたく思います」
これは嘘偽りの無い紛れもない真実なので、宰相様から決して目を逸らさず答えた。ここが勝負時であるのだから尚更である。
鍛造と鋳造の違いが、その速さなのだ。鋳造は迅速に多くの武器を製作出来るものの、鍛造は性能が良くても非常に時間が掛かる。こればっかりはどうしようもないので、そういうものなのだと理解して貰うしかない。
「ふむ。……随分と時間が掛かるのだな」
「申し訳ありません。しかし、性能は桁違いであるのはお知りの通りでありますれば、そこはご理解頂きたく」
「良かろう。陛下にもそう伝えておく」
「有り難う御座います」
遅すぎる事で叱責の一つや二つはあるかと思っていたのだが、この分だと本当に私の事を大事に扱ってくれるのかもと期待が持てる。やはりこの国を亡命先に選んで正解だった。
そう思いホッと胸を撫で下ろす私が感謝の言葉と共に頭を下げると、宰相様が控えていた騎士に目配せした。
すると、騎士が私だけを促してこの部屋から退出し、私はギルバードさん達が気になるものの勇者としての何かしらがあるのだろうと思い何も言わず、騎士の背を追って一礼の下に部屋から出る。そしてその後は、お偉いさんとの邂逅で脳がホワホワしている内に、騎士に案内された国賓用の一室へと通された。
広い、という言葉以外には、豪華、という言葉しか出て来ない一室に驚く私を他所に、騎士は敬礼一つして去って行く。
「……此処に滞在する許可が降りてるんだよな? 良いのだろうか、平民でしかないのに」
かなり気後れする私だが、こうしてムーティッヒ国での新生活が始まった。
と言っても、やる事は村での生活と変わらない。毎日毎日、金槌片手に炉と向き合う日々が待っているのだ。
形状が変わった鍛冶工房に最初こそ戸惑うだろうが、それも慣れれば問題にはならないだろう。
私は充実した日々を過ごす事になる筈だと、そう確信しつつ国賓用の一室を見渡し、大きく深呼吸をした。
「さぁ、度肝を抜いてやる!」
最初が肝心だ。私がこれから必要不可欠だと思って貰えれば、丁重に扱ってくれるだろうからな。
先ずは言われた通り、武器を造り納品。その後は、この国に必要だと思える物を製作してお偉いさんに納めれば良い。
この国のお偉いさんは、平民を守る為に魔の森の真正面に自分達を配置する位の気概を持っている。これは他の国ではまず見られない傾向にあるし、そんな国だからこそ私は知識を奮うのに躊躇は無い。
王都に来るまでの村や街を見ていても気付けた事であるのだが、この国のお歴々はマトモな人達なのだと察せられる。そして私はそんな国で国民として迎えられる事になる訳だし、全力を出す事に忌避は無い。
この世界の文明を地球の日本に例えるならば、戦国時代だ。沢山の国々が日夜鎬を削る、そんな世界である。しかも、魔物という超危険生物が跋扈する中で、国と国とが生存競争している世界だ。
なればこそ、自身の命の為にも、そしてこのムーティッヒ国以上に私にとって都合が良い国が今のところ存在しない以上、私は本気でこの国に貢献しようと思う。
コーター「やっと城に着いた!でも、ノンビリ出来なさそうでワロタwこれ、笑うしかないっしょw」