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現代知識こそが最も有能!   作者: 蘇我栄一郎
他国の侵略や魔物のスタンピードを恐れて、ムーティッヒ国を強化!
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14/31

十三話ですぜ、旦那!

 私が献上したバリスタは、それはもう絶賛されて量産される事が決定した。努力した甲斐があると言うものだ。

 それによって私にも知らされていないが、王都の何処かに秘密の区画を設け、そこで量産される手筈になっているらしい。それで今や、城内はその計画で色々と忙しいらしくバタバタと沢山の人が忙しなく盛大に動き回っている。

 その一方、私は国の財源を意識して資金稼ぎの方法を画策しており、その為の機材を制作中であった。現在造っているのは、蒸留酒を作る為の蒸留器である。

 蒸留器と言えば、やはり銅を用いなければ最高品質のお酒は作れないと考え、私は今ひたすらに銅の板を加工する為にハンマーで叩いて形を整えている。この整形方法は非常に根気の要る作業になるのだが、銅の成分がウンタラカンタラとテレビで言っていたのを記憶しているので、出来る限り本物に近付ける為にと頑張っている真っ最中なのである。

 そうして既に数万回もハンマーで叩いた結果、漸く想像する物と一致する代物が出来た。それを目の前にして、私は居ても立っても居られず、早速とばかりに気に入っているブース辺境伯の領土で作られるワインを蒸留器の中にこれでもかと入れる。

 それから数時間後、蒸留されて溜まった透明な液体を、私が厳選した木材を使用して作られた樽に移す。取り敢えず、今回は初めての蒸留酒制作になるので一回だけの蒸留に留めるつもりだ。

 樽の中が、ワインから出来た蒸留酒とは思えぬ程に透明度の高い液体で満たされる。勿論、私は堪らず一口味見した。そして、噎せた。

 一回だけの蒸留に留めていたのだが、これが私の予想外にアルコール度数が高かったようだ。しかも、ただアルコール度数が高いだけで、やはり寝かせていないので非常に不味い。


「ゴホッゴホッ……ゴホンッ! やっぱり、樽の香りが付いてないし、最低でも三年は寝かさないと商品にはならないだろうね。まぁ、果実水とかで割って飲むという方法もあるだろうけど、果実は平民にとって高い代物だし、そうなると貴族や金持ち専用の飲み物になってしまって、あんまり儲けられそうにないしな」


 となれば、商品として売るには最低でも三年後という事になる。しかもそれは、今使用している樽の素材である木材が蒸留酒作りに適していた場合の話で、適していなかった場合は適切な木材を探す為に数年、或いは十数年の時間が掛かるだろう。

 これでは商品化するまでにどれだけの年数が掛かるか、正直言って私には全く分からない。つまり、蒸留酒で資金稼ぎというのは一旦保留にしておいた方が無難だという事だ。


「……蒸留酒は要研究、としておこう」


 ならば、他に考えていた方法を試そうと、私は再びハンマーを片手に少し形状の異なる蒸留器を造る。今度のはお酒の為の蒸留器ではない。

 そうして、二週間掛けて新たに制作した蒸留器に、執事に大金を払って集めて貰った大量の花を投入した。その量たるや、最早一トンに及ぶだろう。

 それで蒸留されて蒸留器から出て来た液体の量は、百ミリリットルに満たない物だった。予想外に少なくて、私としては困惑せざるを得なかった。


「少なっ……! こんなに少ないの? え、香水作るのって、こんなに大変だったの?」


 一トンの花を集めるのに対して私の財産である金貨四千枚の内、実に半分を使用したのに、取れたのは百ミリリットルにも満たない量だけ。

 いくらこれが原液だと言っても、少な過ぎるのではなかろうか? 蒸留器が失敗していた?

 しかし、それを確認する為に再び実験すれば無一文になってしまう。独り身の時は良かったが、今は使用人を雇っているし迂闊な事など出来やしない。雇用人としての常識があるので、再度の実験は悪手である。

 ならば、花の原液を抽出する作業はこれが普通だと仮定し、その上で採算が取れるのかを検討しなければならない。


「とは言っても、これでは少な過ぎて……」


 殆ど諦めの境地で、私は取れたばかりの原液を入れた容器の蓋を事ここに至って初めて開ける。そして香りを実際に確かめて、私は絶句した。

 原液というのは、こんなにも強い香りがするものなのだろうか?

 私は香水を買った事が無かったし、知識として知っているだけだったので、香水の原液がこれ程に強烈だとは知らなかった。それ故の驚きである。

 これなら、少ない量でも沢山の香水を製造出来るだろう。そしてこの分なら、もしかすると蒸留器は失敗していなくて、この量しか取れないのが普通なのかもしれないとも思えた。

 そう考えると、これは資金稼ぎとして大成功なのではと確信する。平民向けの商品としては無理だろうけど、金持ち専用としてはそこそこ売れるだろうし、採算は問題無いだろう。

 ただし、国の国庫をこれだけで潤うとは思えない。少なくとも、他にも幾つか資金稼ぎの方法を二重三重に重ねなければならないだろう。

 私が安心出来る武力を国に備える迄には、まだまだ沢山の兵器が必要になるので、その資金確保の為には必須だ。


「う〜ん。そうすると、石鹸かなぁ?」


 石鹸ならば必要とする材料も安価に入手出来るし、それでいて平民にも手に渡る値段にする事が可能だろう。さすれば、資金稼ぎとして一気に大量の金貨を稼ぐのも無理とは思えない。

 理想的ではなかろうか? 香水も使えば減るし、石鹸も同じく使えば減る。継続的にお金が入り続ける事を思えば、安価に造れて永く稼げる石鹸は理想的だ。

 勿論、その製造方法が他国にバレてしまえば意味が無いが、それはバリスタと同じで秘密の区画とやらで厳重に管理して貰えば良いだろうし、そうすれば易々と他国に製造方法がバレる事も無かろう。

 ならば早速と、私は思い付いたが吉日と言わんばかりに、石鹸の製造に着手する。石鹸ならば小学校の授業で実際に造っているし、別に難しい事など皆無なので、これは直ぐに出来た。

 完成した石鹸の数は、良く目にする大きさの固形の石鹸が百個。献上するし、それなりの個数が必要だと考えたので多めに作っといた。

 そうして完成した石鹸を前に満足感に浸っていると、館の維持の為に増員したメイドさんの一人が(城での生活中に世話役だった人)、私を呼びに来た。


「コーター様、勇者様達が武器の調整にと参りました」


「あ〜、今回の帰還は早かったみたいですね」


「えぇ。ですが、勇者様達の表情を見れば分かりますが、仕事は順調に終えたようですよ。

 それより、何やら良い匂いがしますが?」


「あぁ、石鹸ですよ」


「セッケン、ですか?」


「使用方法と効果を書いた紙が机の上にありますので、それを見ながら使用人の皆さんで使って下さいね。取り敢えず、十個は持って行って大丈夫です」


 真っ白い固形物である石鹸を目にして、メイドさんは至極不思議そうに見つめている。食べ物かと思ってやしないだろうか、と不安になるが、使用方法と効果を書いた紙を予め用意していたので大丈夫だと思い、私は応接室に居るだろうギルバードさん達の下へと移動する。

 ギルバードさん達とは武器がからくり式である事から、実は結構頻繁に会っていたりする。ギミックの調整や一回だけ射出する機構の補充だったり、ミールさんの弓の微調整だったりと、私にしか出来ない事が沢山あるからだ。こればっかりは、流石に弟子でも無理なので仕方ない。

 王城で生活していた時も、ギルバードさん達はしょっちゅう会いに来てたりした。別に武器の調整が必要無い時でも来てたのは、恐らく私を心配してくれていたのだろうと察せられる。この世界での、私の大切な友人達だと断言出来る人達だ。

 だが、そんな人達であるが、何故か私より私の館に慣れた様子で彷徨くのは止めて貰いたいとも思う。この間なんて、自分達で持って来ていた酒を飲みながら、応接室で寝ていたからね。まぁ、私がバリスタの制作に夢中になって応対が遅くなったのが原因なのだけど、私一人だけが素面という状況で酔っ払いのテンションについていくのは大変苦しいのだ。

 ともあれ、今回は大丈夫だろうと思いつつ、私は応接室の扉を勢い良く開ける。

 すると、そこにはお酒を既にテーブル一杯に用意している面々が居た。


「お、来たなコーター!」


「またお酒ですか?」


「良いじゃんか! 飲もうぜぇ!」


 応接室に入るなり、ギルバードさんが満面の笑みで出迎えてくれたものの、テーブルの上に並ぶお酒の量には引かざるを得ない。何せ、量が尋常じゃないのだ。

 その大きな理由は、恐らくドワーフであるゴードンさんのせいだろう。ドワーフという人種は、蟒蛇が多いので間違いないと思う。


「済まんな、コーター」


「いえ、相変わらず元気そうで良かったですよ。弓の状態はどうですか?」


「コンパウンドボウの状態は最高だし、俺もこの弓の性能に漸く完全に慣れたよ。性能が良すぎるというのも困りものだな」


 言葉とは裏腹に、ミールさんは弓を優しく撫でながらそう言った。かなり気に入っている様子で、製作者の私としては非常に嬉しい事実である。

 しかし気になるのは、他の面々の武器も見た目問題無さそうという事だ。一回だけしか使用出来ない機構の斧も、その機構を使用した形跡が見られず、そうなるとギルバードさん達が訪れた理由が気になってくる。

 館での生活に慣れたのか心配だったのだろうか?


「今日はどうされたんですか?」


「実はな、コーターが何やら献上したと聞いて来たんだ」


「あぁ、なるほど」


 バリスタを献上してから一ヶ月と少し経つから、その時の事が漸く噂として流れ始めたのだろう。


「それなら、お酒でも飲みながら説明しますよ。おつまみも用意しますね」


「流石、コーター! 分かってるぅ!」


「少しは遠慮したらどうだ、ギルバード」


 ミールさんが少し呆れた様子で注意しているが、された方のギルバードさんには暖簾に腕押しって感じで意味を成して無い。相変わらず面白い人達だ。

 私は笑いつつ、執事さんを呼んで色々とツマミを頼むと、バリスタの説明を始める。射程、威力、一基造るのに掛かる費用、設計図を見せながらの説明だ。

 すると流石は冒険者である彼らは、その兵器の恐ろしさや逞しさを絶賛し、これでムーティッヒ国が魔物の被害の度合いを下げられると安堵していた。

 完全に魔物の被害を防げると彼らが判断していない理由は、物理攻撃が全く通じない魔物も存在するからであり、そういう魔物は魔法だったりマジックウェポンじゃないと倒せないからである。

 それにどれだけ強力な兵器であろうとも、ドラゴンを筆頭にした人類が何十万人も集まって戦っても絶対に勝てない魔物も居るので、完全完璧な防衛は不可能であると認識しているからでもある。

 その辺を至極シビアに考えている彼らは、やはり凄腕の冒険者なのだと改めて実感させられたと言えるだろう。


「確かに、何事にも完璧など無いと言えますから、皆さんの考える通り調子に乗るのは不味いと言えますね」


「そうだな。俺達は冒険していて、それを常に意識させられてるからよ」


「皆さんは最前線で戦ってらっしゃいますからね、私とはその理解度が違うのでしょう。

 ですが、ご安心下さい。まだまだ沢山の兵器を造って献上する予定ですので」


「まだあんのか!? バリスタとかってヤツよりも凄いのが?!」


「勿論です。ただし、ムーティッヒ国の財源が追いつかないでしょうけどね」


 私の発言を聞いて驚く面々だったが、財源の事を言うと全員が表情を暗くしてしまった。バリスタ一基に掛かる費用も説明しているし、これから私が献上する武器の費用も同程度だと仮定して想像したのだと思う。

 何事もやはり充分なお金が必要となるのだから、世知辛いという思いが浮上する。自然災害の対策にも資金を残しておかねばならないし、他国の侵略にも対策して資金を残しておかねばならないのだから、本当に世の中というのはままならないものなのだ。


「金、金、金、この世で何かをしようとしたら、金ばっかり掛かって仕方がないな」


 ギルバードさんが大きく溜め息を吐きながら、そう言ってガックリと首を下に向けた。酔いのせいか、少し落ち込み易くなっているようだ。

 他の面々も同様のリアクションを見せているので、私はその暗い雰囲気を払拭させるべく、献上する予定の資金稼ぎ二柱を披露する事を決め、懐から石鹸と香水を取り出しテーブルの上に置く。


「これをご覧下さい」


「何だ、それ?」


「ギルバードさんは興味無いでしょうけど、片方についてはジョッドさんなら食い付く筈です」


「おいおいおい! まさか、とうとう作ったのか?!」


「はい。そのまさかです」


「コーター、よくやった!」


 ジョッドさんだけが予想通り食いついたが、他は何が何やら分かっていない様子でポカンとしている。

 そんな面々を他所に、ハゲが特徴的なジョッドさんは石鹸を手に取って匂いを嗅いだりし始め、リーダーであるギルバードさんのマジックバックから水を取り出して実際に使用し始めた。


「おぉおお! 聞いていた以上に泡が出るぞ! これで洗えば、服も体も綺麗になるんだよな?!」


「はい。保証しますよ」


「はっはっはっ! これで嫌な匂いや汚れともオサラバだぜ!」


 満面の笑みで泡と戯れるハゲたおっさんのジョッドさんは、見た目とは反比例して几帳面で綺麗好きだ。それ故、衛生観念で良く話す事が度々あり、その時に石鹸の効果を細かく話していたので、誰よりも石鹸を欲しがっていた人物になる。

 それに対して他の面々はと言うと、二年近く前にブース辺境伯の屋敷に泊めて貰った時に少し話した程度なので、恐らく忘れているだろう。実際、石鹸を見てもピンときていない様子であるし、その認識は間違っていないと思われる。

 しかし、そうは言ってもジョッドさんが興奮しているのを間近に見ているので、ジョッドさんが必死に泡立てている物が何なのか気になったのか、ミールさんが代表して問うて来た。


「コーター、あれは?」


「石鹸という名の薬、ですね。まぁ、飲み薬や塗り薬とは違いますが、風邪になったり下痢になったりする原因を薬殺する代物ですよ。他には、服を石鹸で洗えば綺麗になるという効果もありますね」


「薬殺……? あ! まさか、ブース辺境伯の屋敷の風呂に浸かっている時に言っていた薬か?!」


「二年近く前の話なのに、良く覚えてましたね。そう、あの時に話していた代物です。作ったら差し上げると約束していたでしょう?」


「あれが石鹸なのか。本当にあれで年間の死者数を減らせるのか?」


「はい、それは約束します。ですが勿論、それは用法要領を充分に守って貰えたら、という註釈が付きますけど」


 ミールさんと私の会話で他の面々も思い出したのか、ジョッドさんの手元に全員の視線が集中する。そして、パーティーメンバーや私以外とは一切喋っているところを見た事が無いクワイエットさんが、何を思ったのかジョッドさんの光る頭を容赦無く平手打ちした。


「イッテェな、おい! 何すんだよ!」


「貴重な薬を無駄に使うな! 今お前が使った量で、何人の命が助かったと思ってる!」


「馬鹿野郎! この石鹸は安価に造れるし、食事前や仕事から帰って来た時とか、その都度外から家に帰った時には石鹸を使って手を洗う物なんだよ! だから、こうやって使用するのは間違ってないんだ!

 な、そうだよな! 言ってやれ、コーター!」


 本当に面白い。彼らのやり取りは、ずっと見ていたいと思わせる何かがある。

 とは言え、石鹸の説明をしないと、貴重な薬だから出来る限り使わないようにしとこうとか考えられると困るので、ここはジョッドさんの要望通りに説明させて貰う。


「あ〜………。ジョッドさんの仰る通りで、非常に安価な値段で作れる代物ですし、使用方法も仰る通りなので、もうバンバン使用して貰って構いません。と言うか、バンバン使用して綺麗な状態を保って貰うのが非常に大事なので、それこそ外出先から家に帰る度に使用して貰うのが理想的です」


「ほらな! バンバン使用するのが良いんだよ!」


「本当か? コーター、ジョッドに気を使ってないか?」


「違うって言ってんだろ! 俺とコーターは、衛生には煩いの! お前らと違って綺麗好きだから、石鹸の事も前から話をしていて知ってたんだっつうの!」


 まるでコントを見ている気分だ。頭を平手打ちされた事で見事な紅葉が出来ているジョッドさんの必死の抗議が、非常に面白おかしい雰囲気を更に増しているような気がする。

 それにしても、本当に見事な紅葉だ。あそこまで綺麗に出来るとは、クワイエットさんはもしかしたら達人なのだろうか? 紅葉を作る達人って何か嫌だな。


「石鹸は取り敢えず百個は造ってまして、その内の十個は当家で使用して、五十個くらいを献上する予定ですから、残りは全部差し上げますので使って下さいね」


「マジでか!? コイツらは普段から汚いから、俺が全部使うよ!」


「何でだよ! 服の汚れが取れるのなら、俺だって欲しいわ!」


「良く言うぜ! いつもシミが付いた服を着てるクセに!」


「そりゃ汚れが取れねぇから仕方なく着てるだけだっつうの!」


「うっせぇうっせぇ! 俺はずっと待ってたんだから、全部俺のもんだ!」


「馬鹿野郎! 一個ぐらい寄越せ!」


「誰がやるか! 石鹸で全部の服を洗って、炊事場も綺麗にする予定なんだから、沢山要るんだよ!」


「はぁ!? 炊事場って何だよ!?」


「そこも石鹸で綺麗に出来るんだよ!」


「自分でメシを作らねぇクセに、何で炊事場が汚れてるんだよ!」


「うるせぇ! 綺麗に出来る場所は全部綺麗にするって決めてたんだよ!」


 腹が痛くなってきた。これ以上に目の前で繰り広げられるコントを見ていたら、きっと腹筋の太い筋肉が千切れるに違いない。

 そう思い仲裁しようとしたら、その前にギルバードさんが何やら明るい雰囲気で勢い良く立ち上がった。


「そうか! これを献上するという事は、その制作方法も献上するという意味なんだな!」


「ジョッドもクワイエットも取り敢えず落ち着け。煩くてかなわん。

 そしてギルバード、どうして制作方法も献上すると思ったんだ?」


「だってよ、これからもコーターは兵器を造って献上するつもりだって言ってただろ? だけど、国の財源が心配だとも言っていた。

 なら、その心配を消す為に、兵器を十全に揃えるだけの資金稼ぎを出来る方法も献上しちまえば問題無くなるじゃねぇか!」


 ギルバードさんの言葉に、私は思わずビックリさせられた。何せ、私の思惑を完璧に看破していたからだ。


「良く分かりましたね」


「ほら、やっぱりそうだった!」


「実はそうなんですよ。製造方法を国に献上するつもりだったんです。石鹸と香水、この二つならそこそこ稼げると思うので、これなら新たに制作して献上する兵器があったとしても、充分に国庫が潤っていれば何一つ問題無く兵器を量産出来ると考えていたんですよ」


 私が肯定すると、言い合っていたジョッドさんとクワイエットさんの二人を含めた全員が驚いた様子で呆けていた。いや、ギルバードさんだけは言い当てたからなのか、嫌にドヤ顔をしていた。

 そんなギルバードさんの表情を横目に、ミールさんが少し納得いかんとばかりに口を開く。


「ギルバードが最初に気付いたのは腹立たしいが、その考えは実に素晴らしいものだ。しかし、制作するのにそれなりの研究費用というものが掛かる筈だが、良いのか?」


「おい、何だよその言い方! 俺が馬鹿みたいな言い方は止めろっ!

 だが、ミールの言い分ももっともだぜ?」


「問題ありません。石鹸は兎も角、確かに香水を造る仮定で二千枚の金貨を使用しましたが、まだ残り二千枚以上の金貨が残っていますので、使用人の給金などは心配ありませんからね。

 それに、私には鍛冶技術があります。懐事情が苦しくなれば、冒険者や傭兵を相手に武器を造って売れば良いですし、そう考えるとやっぱり問題無いと思ってます」


『金貨二千枚?!』


 香水を造るにあたって使用した金貨の数に、全員が驚愕の眼差しでテーブルの上に置いてある透明な液体へと視線が集中した。

 香水は瓶に入れられていて、その瓶は元々ポーションが入っていた容器である。ビルジア国からムーティッヒ国への亡命中に使用したポーションの入った瓶を、勿体なかったので大事に取っていたので、それを再利用したのだ。

 そんな香水に視線が集中する中、私は香水を手にとって実際に使用して見せた。

 するとその途端、酒の匂いやオツマミの匂いが充分する応接室に、花の柔らかな匂いがそれらの香りを押し退けるように取って変わる。


「この匂いは……?」


「花の香り?」


「………花って言ったって、その花は何処にある?」


「だがこれは、花以外にあり得ん」


 全員が驚愕する最中、ドワーフのゴードンさんが頻りに鼻を鳴らして匂いに集中している素振りを見せた後、閉じていた瞼を盛大に開いて叫ぶ。


「スズラン!!」


「大正解です。ゴードンさん、お見事」


「ムーティッヒ国では何処にでも咲く花だからな!

 でも、何でスズランの匂いがするんだ? 此処にはスズランの花なんて見当たらないのに」


「これがその理由ですよ。香水という名で、沢山の花からほんの僅かに抽出出来る成分を薄めて使用しているのです」


 私はそう言いながら、更なる説明をしつつ香水をそれぞれに使用させる。用法、抽出方法、その為に必要な器材、全ての説明だ。

 そして全員が使用し終わる頃になれば、私の説明も丁度終わり、応接室内はスズランの爽やかな香りで充満する事になった。


「どうですか? 素晴らしい香りでしょう?」


『良いな、香水』


「でしょう?」


『一つ幾らするんだ?』


「一瓶で金貨八十枚です」


『高っ!? 香水って高っ!?』


「一トンのスズランから取れる原液は、実のところ百ミリリットルも取れません。六十から八十ミリリットルと言った具合です。それなのに材料費だけで金貨二千枚ですので、人件費も加味するなら更に高くなってしまいます。

 ですので、金貨八十枚は妥当であると考えてるんです。でないと、採算が取れません。

 それ故、現在想定している金額も、もしかしたら今以上になる可能性もありますね」


『……全然取れないんだな』


 多分、欲しかったのだろうが、値段を聞いて尻込みしたのだと思われる。彼らからすれば充分手に届く値段であるが、それでも高いのは間違いないし、念の為にある程度の纏まった資金を確保していなければいけない危険な職業でもあるので、簡単には買えないのだろう。

 まぁ、そうは言っても彼女が出来たりすればポンと金を出して買うんだろうけどね。実際、彼らはかなりの金持ちだし、常にそれなりの資金を確保している筈なので、買おうと思えば買えるのだ。

 ただし、自分だけの自己満足の為に買うのは躊躇するっていうだけの事だ。それだけの為に、大金を使うのはねぇ、と考えるのが彼らなのだから、まず間違いないだろうと思う。


「しかし、確かにこれなら国庫もそれなりに潤うだろうな。他所の国の貴族に馬鹿ウケするだろう。そしてその金でこの国は充分な兵器を、しかもコーターが次々に様々な兵器を造り献上し、あらゆる危険から守護する兵器を増産出来るという訳か」


 感慨深いと言いたげに、ミールさんがボソッと感想を呟いた。

 そう、ミールさんが呟いた通り、その為に私はムーティッヒ国へと献上するのだ。安心安全の為に、そして私の身の安全の為だけではなく、私に良くしてくれる目の前の彼らの為にも、私は全力であるゆる手法を使って国に貢献してやるつもりだ。

 そうして、この国の護りをより堅固にし、私にとっての安住の地へとしてみせる。何れは奥さんを迎えて幸せな生活もしたいし、その為にも早くしなければならない。

 何故なら、もう私も三十路になるし、早くしないといつの間にか五十を迎える歳になっていたりするかもしれない。それは御免だからな。

名無しの権兵衛という泥棒の物語も新しく投稿しておりまして、良ければ暇潰しにご覧下さい。


コーター「他に何か献上する良い物はあるかな? ちょっと考えとこ」

勇者達「あれこれ献上するヤツって初めて見たぜ。大手の商人くらいしか普通しないもんな」

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