十二話ですぜ、旦那!
私が忍として仕えているムーティッヒ国へと、突如亡命して来たコーターという名の天才鍛冶師。彼には、正直言って胡散臭さしか感じなかったのが当初の印象だった。
何故なら、メイドに扮した私が世話役となってから、毎日毎日鍛冶仕事しかしないからである。普通の人間なら仕事の後に息抜きでもするのが通常の生活スタイルだというのに、彼は鍛冶仕事が終わったら長々と風呂に浸かり、その後は食事して真っ直ぐ部屋へと戻り就寝である。それが毎日なのだ。気味が悪い程に、その生活は一切変わらなかった。
だがそんな印象も、一月が過ぎる頃には大きく変わったと言って良いだろう。彼が造った武器が兵士や騎士に出回り始めると、その武器の性能の良さに驚きの声がメイドに扮する私の耳にも届き、その結果、彼への評価を上方修正するしかなく、職人というのは少し変わった性格している者が多いと聞くし、きっと彼もその類いなのだろうと思うようになったからである。それにしたって一切変わらぬ生活をするのは苦になりそうなものであるが、変人なら別に苦にならないのだろうと、そうかんがえると何故か不思議と納得出来た。
そう、この時は変人天才鍛冶師という認識になっていたのだ。ま、実際そうだし、あながち間違った人物評価じゃないと思っていたの。
でもその人物評価は、再び大きく変わる事になる。その理由は、武器を全て納品した直後の事で、彼が宰相様から追加の発注を受けた時の事だ。
追加の発注自体は別段驚きはしない。何せ、城の中でも外でも、今では誰もが彼の造る武器を誇らしげに掲げているのを見るし(近衛兵ですら喜色満面だった)、そうであるからして追加の発注は当然だとも言えるからである。
人物評価が再び大きく変わったその理由は、彼が躊躇なく追加の発注を受け入れ、その褒美に貴族街にある巨大な館を貰った事で、彼が実際にその館を見て心底後悔するような表情で膝から崩れ落ちた姿を見た時だった。
普通なら喜びこそすれ、何故に後悔するのか分からなかった私としては、この変人天才鍛冶師は馬鹿かうつけなのかと思わざるを得なかったのだ。
私なら万歳三唱するくらいには喜ぶのに、どうして後悔するのか分からず、何か怪しいと思い始めてしまった私は絶対に間違った判断をしていないだろう。
しかしこの評価も、早々に覆る事になる。褒美として貰った館を実際に見た後日、彼が自分から宰相様へと謁見の許可を求め、その謁見が叶った時に自身の鍛冶技術をムーティッヒ国の力にしてくれと言いのけたからだ。
怪しいと思った自分が馬鹿馬鹿しく思えるくらいに、清々しい理由で秘術とも言える技術を弟子を取って伝授すると言う。彼は実のところ、聖人という類いなのではと思いつつ、或いは自身の鍛冶技術を過小評価し過ぎているのではと思えてしかたなかった。
それ故、宰相様との謁見を終えた直後の彼に、私は堪らずそう告げた。しかし、彼の反論は理路整然としているものであり、そして自分自身の腕や才能を自負しているからこそであると言われて、私は少しだけ彼の本質を漸く知る事が出来たと気付いた。
彼は自身を過小評価している訳ではなく、しかし過大評価している訳でもなく、真実自分の可能性を信じているからこそ堂々としていて、それが故に周囲の者から見ると馬鹿かうつけにしか見えないだけなのだ。
そして、館を見て後悔していたのは、ただ単純に館の規模がデカ過ぎて手に余るからという事と、使用人を雇うのに伝が無いという理由からだったそうだ。因みに、使用人に関しては宰相様から紹介があると教えたら、心底ホッとしている様子で、そんな彼を見ると何故か面白く、笑いを堪えるのに苦労した。
面白い御仁だ。時折見せる焦燥感に迫られるような表情は今も不思議に思うが、それ以外では本当に面白い御仁だと思えるようになった。
これ程に人物評価が二転三転したのは初めての事だが、それが不思議と嫌ではない。観察していて見飽きない彼の密かな護衛役の私は、恐らく忍になってから一番楽しい日々を送っていると言っても過言ではなかろう。
ともあれ、宰相様から館の管理などの為の使用人を(実は全員、宰相様が用意した忍)全員漏れなく雇ったコーター様は、それぞれに給料の額を決めると早速館へと案内し、館の管理を任せて再び鍛冶仕事に戻られた。
どれだけ仕事人間なのだと、そう驚かざるを得ないが、それも今さらだ。もう世話役として一年と八ヶ月も過ごしているので、このくらいでは驚きを顔には出さない自信がある。ま、忍として訓練されているので、元から感情を表に出す事は無いんだけどね。
それにしても、コーター様があの貴族街に貰った土地というのは、以前は評判の良くなかった公爵が所有する代物であった筈。その土地が何故コーター様へと流れたのかと説明すると、公爵が不正を働き、そのせいで宰相様の逆鱗に触れてお家断絶と相成ったからである。それ故、恐らくコーター様への報酬としては丁度良かったのかもしれない。
国の国庫も無限じゃないのだし、そう考えるとタダでコーター様の造る武器と秘術を館一つで賄えたのだから、安い買い物であったと上のお歴々は考えているのかも。
それはそうとして、コーター様が館へと生活の場を移されてから半年後、私が城勤めのメイドに扮して日々を過ごしていると、コーター様が宰相様へと謁見の為の許可を求めて来た。
コーター様が自ら謁見の許可をというのは珍しい。殆どの場合、宰相様がコーター様を呼ぶのが普通だったからだ。
何か問題でもあるのかと疑問に思いつつ、私はコーター様が謁見の許可を求めて来た事を宰相様へと伝えた。
すると、その許可申請が至極あっさり通るとコーター様が宰相様との謁見の折りには、何故か私も呼ばれたので席を御一緒させて貰った。
そしてその時の会話は、弟子の成長具合から見て、もう問題無いだろうという報告であった。これには殊の外、宰相様は手放しで喜び、コーター様をえらく労う言葉をバンバン惜し気もなく告げられていた。
それもそうでしょうね。これでムーティッヒ国は、武器と鍛冶技術の二つでは世界最高峰となったのだから、この戦国の世では大きなアドバンテージだと言えるもの。
ただし、喜びを露にする宰相様の一方で、コーター様はどこか影のある印象が窺えた。その理由を聞いて、私としては少し笑ってしまったのだが、本人からすると切羽詰まっていたのでしょうね。
それと言うのも、館の管理の為に雇った使用人達が館の維持に四苦八苦しているらしく、更なる増員の紹介をお願いしたいと宰相様にそれはもう至極申し訳なさそうにコーター様が頼んだのだ。たかがその程度、国に貢献するコーター様の為なら、宰相様だったら直ぐにでも優れた人物達を(ただし、全員忍)紹介してくれる筈よ。
そう考え微笑む私の直ぐ傍で、宰相様は予想通りに人の手配を素早く整えた。因みに、その新たな増員の中には私も入っている。自分から立候補したからだ。
そうして新たに十人を迎え入れたコーター様は、悩みが解消した事を喜びながら宰相様との謁見を終了させて帰宅なされた。
それからのコーター様の日常は、護衛兼メイド兼忍としての使用人である私達の前で、館に併設された鍛冶工房に籠られるようになる。いや、正確には鍛冶工房と木工工房の二つと表現した方が正しいだろう。何せ、鍛冶工房の他にも幾つかの工房をコーター様の願いで宰相様が職人達に作らせていたので、コーター様はその内の二つの工房に常に籠り続けていた事になる。
何を作っているのか判然としないが、それを宰相様へとそれとなく報告もしているが、宰相様からは何もするなと言われているので深く調べていない私達には本当に何も分からない。
しかし、割合的に言えば鍛冶工房に籠っている時間が、木工工房に籠っている時間と比べると遥かに短いのは間違いないわね。
つまり、コーター様が作られている物は木工中心であると判断して良いと思えるの。
気になる。コーター様という面白おかしい観察対象を前にしているので、そのコーター様が今まさに何をしているのか気になって仕方がない。
そうモヤモヤする日々を三ヶ月も過ごした頃、夜も更けた時間帯に庭園で異常な衝撃音が響き渡り、使用人兼忍である私達は全力で防衛の陣を築く。しかし、常であれば寝室で寝ているコーター様が見当たらないとなり、私達は本気で焦った。
だが、そのコーター様の高笑いをする声が聞こえ始めると、私達使用人は脱力感と共にその声がする方向へと足を進め、そして何やら特殊な形状をした代物を目にする事となった。
その特殊な代物を言葉にして説明するなら、弓を横向きにして棒をくっ付けた物と言えば分かるだろうか? もっと言うなら、それは地面に固定されていて、そこから一歩も動かせない仕組みになっている。そして、その特殊な形状をした代物の二十メートル先には、金属製の鎧兜が三体列を作るように並んで立っていた。
そんな光景を目にして、私達はコーター様が何をして、どうして高笑いしているのかと、そんな疑問を持つ。それと同時に、列を作る金属鎧の先頭に立つ鎧の腹から三体目まで綺麗に穿たれた穴にも疑問を持たざるを得なかった。
「旦那様、これは?」
困惑する私達の中で、一番早く状態復帰した執事(上忍)が問うと、コーター様は満面の笑みでもって口を開く。
「魔物のスタンピードという異常事態を叩き潰す切り札ですよ! 勿論、他国の侵略からも護ってくれる切り札にもなり得ますね!」
「……と言う事は、それはつまり武器であると?」
「まさにその通り! その名もバリスタ! 短槍を弓矢のように射出する兵器になります!」
「短槍を矢の如く……?」
「はい! ……えぇと、早速で悪いんですが、これを国へ献上したいと思っているので、明日で良いので宰相様との謁見の許可を申請してくれると助かります」
目の前の不思議な代物が兵器だったと知って、そしてその兵器の所業が、あの鎧兜三体の腹部になるのだろうと知って、益々困惑する私達。目の前の光景を見れば、バリスタとやらの凄さは馬鹿でも理解出来るだろうだけに、私達のリアクションも致し方ない。
そんな私達に向けて、コーター様は更に驚くべき事を言いのけた。兵器の設計図を国に売るというのなら分かるが、タダで献上するとなれば驚いて然るべきだ。
この人は本当に規格外の人なのだと、改めて理解させられたと言える。上のお歴々がコーター様を何やら重要視しているのが不思議であったが、ただの天才鍛冶師というだけではなく、兵器開発のスペシャリストとして重要視しているのなら納得だ。
そう私が思って改めて感心している間、執事は明日で良いと言われたのにも関わらず、メイド二人に宰相様へと話を通してお連れしろと言い、実際にメイド二人に向かわせてしまった。
まぁ、あんな兵器を見せられたらそれも理解出来る。上忍である執事からしたら、国の国防に際しての重大事項に値するのだから、一秒でも早くご報告をと考えても不思議じゃない。
歴然の忍は流石の判断で、そうしてコーター様が執事の判断に戸惑い困惑している間に、まだお仕事の最中であったのだろう宰相様が、複数の近衛兵を伴ってコーター様の館である庭園へと来た。
そして夜分にお偉い様が来てしまって盛大に狼狽えるコーター様は、報告を耳にして終始落ち着かない宰相様に促され、実際にバリスタとやらのデモンストレーションを始める。
「そ、それでは、新たに鎧を用意しましたし、このバリスタの威力をお見せ致します」
「うむ。その異常と聞く威力を早く見せてくれ」
「は、はい。えぇと、先ずは射出する短槍を番える為、この取っ手を回します。これにより、弓のようになっている部分の弦を引けるのです。
そうして引き終わると、短槍を番えます。これで準備完了となります。……後は狙いを定め━━━」
射る、とコーター様が告げた瞬間、カンッという音と共に短槍が射出されたかと思えば、バリスタの二十メートル前方に設置されてあった縦に三体並び立つ金属鎧の腹部分を、射出された短槍が容易くあっさりと貫いた。
しかしその光景とは裏腹に、鎧を貫いた時の轟音は凄まじいの一言であり、思わず体全身が轟音に対して防衛本能が働いたかの如く硬直してしまう程だった。
それは近衛兵でさえも同様で、宰相様でさえもビクリと体を硬直させていた。勿論、私達使用人も。
「こ……これは!? 革命だ。最早、これは武器の革命であるとしか言えん。凄まじい。凄まじ過ぎる。
コーターよ、見事。大義である。これは凄まじい程に国への献身だ!」
「あ、有り難う御座います?」
「何を戸惑っておる! 素晴らしい事をしたのだぞ、お主は!」
「は、はい。……ただ、そこまで言って頂けるとは思いませんで━━」
「何を言うかと思えば、それは当たり前の言葉を告げたまでの事よ! これを外壁に設置すれば、例え災厄として名高いディアブロが再びムーティッヒ国で暴れようとも、勇者達がその時にその場におらぬとしようとも、決してムーティッヒ国が荒らされる事は無いと断言出来るであろう!
これは凄まじい事だぞ! コーターよ、胸を張れ!」
普段冷静沈着である宰相様がここまで興奮されるのを初めて目にするが、それも頷ける程の所業だと断言出来るだけに、それを成したコーター様が酷く狼狽えているのが非常に面白い。
ご自分の成果を理解されているのだろうかと疑問に思ってしまう程には、コーター様は狼狽えながら謙虚にしていた。
そんなコーター様を放置して、宰相様はと言えば、言う事の全てを言ったと言わんばかりに、或いは居ても立っても居られないと言わんばかりに、陛下にご報告せねばならんと仰られ、本当に直ぐさま城へとお戻りになられた。身軽な御仁だと言えば良いのか、落ち着きが無いと言えば良いのか……。
それは兎も角、その次の日の早朝、コーター様は宰相様から兵器の設計図を持って城へと参られよと、そう宰相様の使いの者から呼び出され、執事と私が一緒になって同行する事になった。
そしてコーター様が通されたのは、驚くべく事に城の中でも特に特殊な場所である玉座の間だった。立派な防具に身を包む近衛兵や、高位の貴族達が多く控えている。
そんな場所に、コーター様の少し後ろに私と執事が立ち、陛下の眼前で恭しく頭を垂れて膝をつく。
余りにもの怒濤の出来事に、コーター様を含めて私達は極度の緊張感の中で陛下からの許しを得て顔を上げると、とてつもない威圧感を醸し出す陛下が口を開く。
「お主が余の国へと亡命して来て、もう二年と半年にはなるな。もうこの国の生活には慣れたか?」
「はっ。陛下の恩情にて迎え入れられてからというもの、私の生活で不便な事など一つも御座いません。感謝してもしたりない程で御座います」
「そうか、それは良かった。文化風習がビルジア国とは大きく異なる部分があるからな、心配しておったが杞憂であったようで嬉しく思う。
それにしても、お主の国への献身には、真に驚かされておる。どう考えても国民に迎え入れる条件として二千と少しの人数の武器を一つの文句を言わずタダ同然で造ってくれたのにも驚くが、その条件を達した後にはお主の秘術をタダで伝授してくれた。余を含め、多くの貴族達はその事に大変感動し、どのような褒美を出すべきかと議論しておったのだが………」
「陛下。私は命を救われているのですから、助けて頂いた恩をほんの少しだけ返したまでの事。それなのにそのようなお考えになられると、私の方が困ってしまいます。
それに、褒美なら立派過ぎる館を既に頂戴致しましておりますれば、これ以上の褒美は過ぎる物と愚考致します」
「いや、信賞必罰は上に立つ者として絶対である。それにのう、お主に下賜した館はというと、アレは新たに武器として注文した前払いに過ぎん。それ故にな、秘術の伝授に際して、何かしらの褒美は絶対に受け取って貰わねばならんのだ。
とは言え、その褒美に何が適しているかと議論の真っ最中であったのだが、お主は此度、またぞろとんでもない物を造り、それを献上すると聞き大いに余としては頭を悩ませておる」
「私としては、金貨の一枚でも陛下から頂戴するのでありましたら充分な褒美で御座います」
「ならん。先程も申したが、それはならん。
クックックッ、聞きしに勝る謙虚さだな。のう、宰相よ」
とてつもない緊張感に支配される玉座の間にあって、コーター様は堂々とした姿勢で陛下と会話をされている。その事に呆然となってしまう私だが(上忍である執事も同様のリアクション)、そんな私達とは打って変わって随分機嫌の良さそうな陛下が笑いながら宰相様へと話を振ると、宰相様は心底困った様子で苦笑していた。
陛下と宰相様は、少し目線で何やら会話しているように見える。陛下が王位に就く時、陛下の一番の力となったのが宰相様であるからして、何かしらの強い絆でもあるのでしょう。
数瞬程のアイコンタクトの後、陛下は再び視線をコーター様へと移した。
「して、適切な褒美となると、今回の献上も加味しなければならん。それ故、少し不作法ではあるが、その献上する兵器とやらの設計図をこの場にて見せてくれ」
「はっ。此方で御座います」
コーター様は陛下の言葉に粛々と従い、手に持つ設計図を宰相様へと手渡した。
すると、次にはその設計図が宰相様から陛下へと渡り、陛下が興味深そうにその複雑な図面へと視線を集中させる。
「ふむ。この設計図をどう見れば良いのかが分からんな。何やら、上から見た図と横から見た図……真ん中のは真正面から見た図になるのか?」
「流石は陛下、その通りで御座います」
「見た事も無い図式だな」
「三面図という名の図式でありまして、慣れるまでは少々見にくいかもしれません」
「ふむ。確かに慣れるまで時間が掛かろうな。
それで、この設計図の兵器がどのような代物なのか、それをお主の口から説明してくれるか?」
「はっ。お任せ下さい」
本当に驚かされるが、コーター様は陛下を目前にして至極冷静にバリスタと名付けた兵器の説明を始められる。
「兵器の名は、バリスタ。短槍を弓矢の如く射出する兵器でして、その射程は八百メートルから一キロ程になり、威力はまだ検証中ですが、現状分かっている限りは鉄鎧でありますれば少なくとも三つ分は軽々と貫通致します」
簡単な説明だが、それによって玉座の間に陛下を含めた多くの近衛兵や高位貴族達から激しく動揺する声が響き渡った。そしてその驚きの声の中には、勿論私と執事の分も含まれている。
何せ、威力は知っていたが射程までは知らなかったので、その辺りについては本当に驚くしかなかったのだ。八百メートルから一キロとなれば、対峙する者からしたら何も出来ない距離に違いなく、そんな間合いから此方が一方的に攻撃出来るとなれば凄まじ過ぎる代物である。魔法でも不可能な距離よ。
「兵器の威力を宰相から耳にしてはおったが、それ程の射程を持っているとは………。宰相よ、真か?」
「も、申し訳ありません。直に見たのは間違いありませんが、それは兵器の威力だけでして、射程の程までは見ておりませんでした。確認不足でした、謝罪致します」
「謝罪などよい。そなたには何も罪は無い故な。
コーターよ、射程について誇張など無いと誓えるか?」
「はっ。お疑いでありますれば、バリスタを外壁に設置し、その上で試射なされると良いかと愚考致します」
何の気負いも無く、コーター様は自信満々にそう言いのけると、それによって兵器の威力と射程に驚く貴族達の声が更に大きくなる中、コーター様は更に言葉を続ける。
「私は自信を持って宣言致します。今回開発致しました兵器を外壁上に設置すれば、強大な魔物に対抗する大きな力となる事は明白です。
私から魔物への………否! 断じて否! 我々人類から魔物への、確かな反撃の嚆矢! それがバリスタで御座います!!」
コーター様の声は、まるで雷の如く玉座の間に響き渡ったかのように感じられた。そして雷がそうであるように、その身に内包する膨大な熱が、玉座の間に居る全ての者の体全身に浸透し、沢山の者の体温を一気に上昇させる。
暑い。熱い。まるで鉄板の上で焼かれる肉になってしまったのかと錯覚する程に、コーター様の宣言が否応なしに全員の心と体を熱くする。
誰も彼もがその熱さに対抗する術を持たず、誰も彼もがその身に宿る熱を発散させんが為に叫び始めた。
『ゥオオオオオオオ! ォオオオオオオオオオオオオ!!』
ふと横に目を向ければ、執事もまたその熱に支配されているのか、盛大に力を込めて握り拳を作っていた。それを見て気付く、私も同様に握り拳を作っていた事を。
しかし、それも仕方がないと言えばそうだ。ムーティッヒ国は魔の森から時折出現する強大な魔物に忸怩たる思いをする事も少なくなかったのだし、それを跳ね返す、或いは打ち倒す力を私達が手にしたとなれば少し興奮してしまう事など恥などにはならないでしょう。
コーター様は今、魔物の被害に永く苦しんでいた私達の、ムーティッヒ国の強大な盾となったのだと言えるかもしれない。いや、矛となったと言うべきか。
「鎮まれぇぇい!! 皆の者、鎮まるのだぁああ!!」
玉座の間が爆発したかのような錯覚を感じる中、陛下が両手を大きく広げて声を響き渡らせた。
そして、熱気によって赤くなった顔をしたまま、陛下は再び大きな声を響き渡らせた。
「良くぞ、そこまでの大言を申した! ならば早速、外壁上に設置して試射して見せよ! そして、余らに実際に目で確かめさせよ! その、反撃の嚆矢とやらを! そうしてお主の宣言が真ならば、直ぐ様にバリスタを増産し、王都の外壁上に百を越える数を造り設置しよう!
さぁ、コーターよ! 余らの矮小な人間の力を、知恵によって反撃となる力を、余を含めた者らに見せてみろ!」
玉座の間の支配者にそう言われたコーター様は、沢山の高位貴族達が見守る中にあって、ゆっくり大きく頭を垂れた。
そしてその数日後、外壁上に設置されたバリスタの威力と射程が、大勢の貴族や騎士や兵士の前で実際に試射され証明された。




