13 【ユメ ノ サイライ・1】
※ 過去話です。
※ 本文中に挿絵があります。
著作者:なっつ
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古ぼけた列車がゴトゴトと音を立てて去ってしまうと、駅には窓口で退屈そうに欠伸をしている駅員しかいなくなった。あと3時間もすればその駅員すらいなくなり、完全な無人駅になってしまうらしい。
がらんとしたホームはまるで廃線だ。
魔王を倒しに来る勇者が年中訪れる町のはずなのに、この寂れよう。時刻表も鈍行しか停まらないとは言え、空欄が目立つ。
あれか? 勇者はファンタジーの住人だからか?
文明の利器のひとつである汽車に乗ってやって来るというのはあまりにイメージとかけ離れているから敬遠されているのだろうか。
しかしこのノイシュタインという町は片側を海に、もう片側を山に囲まれているから、徒歩で入るのは辛いだろう。
海と言っても客船が停泊できるような港があるわけでもなし、近隣の町とは馬車でつながっているとは言え、汽車がこれではその本数も期待できるものではなさそうだし。
降りる駅を間違えたのだろうか、同名の駅が他にあるのだろうか、と不安半分に寂れた駅舎を後にする。
1歩外に出ると何処からともなく潮の香りがした。山育ちの自分には嗅ぎ慣れない匂いだが、きっと半年もすれば慣れてしまうのだろう。
既に夕食の仕込みに入っているのか魚を焼く匂いもする。
ニャア、ニャアという声に空を見上げると白い鳥が輪を描いている。海だからカモメか……鳴き声からするとウミネコなのかもしれない。区別はつかないが。
猫のような鳴き声につられたのか、飲み屋の樽の上で寝そべっていたトラ縞の猫がニィィィ、と鳴いた。
此処がノイシュタイン。
そして。
私は夕餉の買い出しに賑わう商店街の先、街並みのずっと向こうに目を向けた。
山の中腹に埋もれるように佇む古城が目的地。
人間たちからは「悪魔の城」と呼ばれている。
「ノイシュタイン城の執事の席なら空いているが、そこならどうだ、と言ってきた」
あの日、執事養成学校の教官はそう言いながら1枚の便箋を差し出した。
羽根を広げた鳥のような紋章が、便箋の上部にエンボス加工されている。
「青藍様は今、ノイシュタインのほうに赴任しているのだそうだ。そこの執事がまだ決まっていないらしい。きみの希望は専属執事だが専属は不要だと言われたよ。そのかわり、ノイシュタイン城付きとして城全般の仕事がメインでもいいなら、と」
聞けば、イレギュラーな出来事があって準備していた使用人リストを白紙撤回することになったらしい。そのため、今はメイドが1人しかいないとか。
……よりにもよって、そばに置いているのが女1人。間違いを起こせと言っているようなものじゃないか。
頭痛がしそうな状況に思わず溜息が漏れる。
危機感の薄いあの人のことだ。ちょっと親しくなればどういうことになるかは、したくなくても簡単に想像できてしまう。
しかも本家から遠く離れた異世界にふたりきり。他に頼る者も、頼られる者もいない。
マズい。これはとんでもなくマズい。
「メイドが1人しかいないのでは負担は全てきみに掛かってくるだろう。いくら小さいとは言え城だし、卒業したばかりの学生には荷が重いだろうと思うのだが」
「お受けします! 是非! ええ、今すぐにでも!!」
「いや、しかしだね。きみも噂は聞いたことがあるだろうが、」
「行きます! そう伝えてください!」
「だがね、ああ! 何処へ!?」
「何処って。決まっているではありませんか」
「せめて卒業ぐらいしていきなさい!!」
……そんな漫才のようなやりとりを経て、私は今、ここにいる。
この話を聞いた時、彼はどんな顔をしただろう。
私のことなど忘れてしまっているだろうか。まさか人間界まで来るとは思うまい。
ストーカーのようだ、と一瞬よぎった考えを無理やり頭から追い出して、あらためて城を仰いだ。ざわざわと騒めく木々が、手招いているようにも見える。
彼はあの城の主で、そしてこのあたり一帯の領主でもある。
しかしそれは仮の姿。真の顔は魔王。
昔のように魔族の中に君臨するものを魔王と呼ぶのならその座を欲しがるものはいくらでもいるだろう。だが、今は名ばかりの勇者殲滅役でしかない。
世界中から勇者と呼ばれる冒険者たちが、あの城を目指してやって来る。魔王を倒すために。
そして私は。
勇者どもから魔王を守りきらなければならない。
遠くで波の音がする。
路地では子供たちが水をかけ合って遊んでいる。
平和な町だ。「悪魔」が目と鼻の先にいるのに暗い影など何処にもない。
魔族の家がそれぞれで狩場を決めているように、魔王の統べる地で他の魔族が狩りをすることはない。言い換えれば、魔王が狩りをしないのなら、この町は他の何処よりも人間にとって安全な場所になる。
ほんの数年の、仮初めの平和ではあるが……私は子供たちから目を離す。
人間は「魔王」の死を望んでいる。この町の住人も例外ではない。しかし彼らは、その望みが叶えばこの平和を失うことになるかもしれない、ということを知らない。
「魔王」は倒されてもすぐに後任がやって来る。その後任が、ここで狩りをしない、とは限らないからだ。
矛盾している。
私はセール中と書かれたのぼりが立ち並んでいる防具屋の前で立ち止まった。
光り輝いている鎧は銀だろうか。装飾品のような……実用性はなさそうなそれに半額の札が付いている。
ラスボスを前にして装備を新調する者が多いのだろうか。こんな海沿いの田舎町で商売が成り立つとは、これも悪魔の城の恩恵と言えるだろう。
資料によると、勇者が多いのは気候の良い春と秋であるらしい。 夏と冬が少ないのは、金属の鎧を着用している者が多いからだろう。暑いさなかでは蒸れるだろうし、凍りつくほど冷えた金属を身に纏って歩くなど、狂気の沙汰としか思えない。
それに確か、フルアーマーになると20kgはあったはずだ。胸当てと籠手 、脛当てだけに減らしても5kgは超える。どうせ出歩くなら快適な季節のほうがいいに決まっている。
だが勇者の装備はどうでもいい。
とにかく平均すれば2日に1回は誰かしらが挑みに来ている計算になる。彼は他の魔族よりも魔力が高いのだと聞いたが、それにしたって限度というのものがあるだろう。
無事だろうか。
倒されたという話を聞かないから、私は此処にこうしているのだが。
彼が魔王役に就任してからもう1年が経過している。
そろそろ疲れも、慣れによる気の緩みも出て来る頃だ。代々の魔王も半年から1年のあたりで交代している事例が多い。
「あぁ領主様? マメに視察にもいらっしゃるし、まだ若いのによくできた方ですわ」
小間物屋の店先にいた女性にそれとなく話を聞いてみると、そんな返事が返って来た。客――と言ってもご近所付き合いのある顔見知りのようだが――のほうも新しく赴任してきた領主には好印象を抱いているように見える。
魔族にしては上手く人間社会に溶け込んでいる。
人間を餌として見る傾向がある魔族は得てしてその人間を下に見ることが多く、そのせいで悪印象を持たれることが多い。それに加えて「悪魔が出る」「魔王がいる」と噂されているノイシュタイン城に住んでいるのだから、普通なら悪魔との関係を疑われてもよさそうなものだ。
それなのに誰も新しい領主が魔王だと思っていない。疑いもしない。
警戒心の薄さが逆に功をなしているのかもしれない。もしくは「何の因果かたったひとりで田舎町の領主をやらされることになった貴族の坊ちゃんが、こまめに町を訪れてくれる」ことがイメージUPにつながっているとか。
どちらにせよ、あの容姿を見れば誰も魔王だなどとは思うまい。
「笑顔がかわいいのよねぇ」
女性はそう言って笑う。
少し意外だった。本庁で見た、感情も何も失くしていた彼を思い出す。
笑えるようになったのか。
それなら……いい。
Episode5のタイトルがカタカナ表記なので「サイライ」って何ぞ? と思われるかもしれませんが……「再来」です。





