27 【白銀の狼・2】
※ 13【白銀の狼・前編】より続いています。
※ 本文内に挿絵があります。
著作者:なっつ
Copyright © 2014 なっつ All Rights Reserved.
掲載元URL:http://syosetu.com/
無断転載禁止。(小説家になろう、taskey、novelist、アルファポリス、著作者個人サイト”月の鳥籠”以外は全て【無断転載】です)
这项工作的版权属于我《なっつ》。
The copyright of this work belongs to me《NattU》。Do not reprint without my permission!
ルチナリスの視界を、はらりと白い花弁が横切った。
誰が口火を切ったのか、「今だ!」という掛け声と共にガーゴイルたちが飛び出して行く。
百を越える数のガーゴイルが一斉に飛び掛かって来たことにはさすがに怯んだのだろう、義兄は一瞬、声を失って硬直した。
判断を鈍らせたその隙に、ガーゴイルたちは義兄の身体に圧し掛かる。さらに他のガーゴイルが積み重なって……あっという間に義兄の姿は見えなくなってしまった。
冷たく吹きすさんでいた風が、ふっ、と止まった。
その隙に別動隊のガーゴイルたちが狼を引き摺って来る。
「るぅチャン、止血!」
「う、うん」
しかし止血しろと言われても救急箱の持ち合わせなどない。
冒険ものの話だとよくシュッ、と布を裂いて包帯代わりにする女戦士が登場するものだが……ルチナリスはエプロンを脱ぐとそれを狼の傷口に巻き付けた。フリルに飾られたエプロンは布が重なっている分だけ易々と裂くことはできない。それでもなんとか傷を覆い、ついでに執事から預かっていた外套をも巻きつける。
狼は浅い息を繰り返している。自己回復などできるようには見えない。
どうすればいいのだろう。回復魔法は誰も使えないのだろうか。ガーゴイルは魔法なんか使わないから聞くだけ無駄だろうけれど、さっきの声なら……。そう思った矢先。
吹き消されていた壁の灯りがひとつ、ぽぅ、と灯った。
それを起点に、流れるように次々と灯が点いていく。円形のホールをぐるりとオレンジ色の灯りが取り囲む。
「東に青」
声がした。
オレンジ色の輪のひとつが蒼炎を揺らめかせる。
「西に白」
その反対側に白い灯りがともる。
「南に赤」
さらに、赤。
「北に黒」
最後に。
呪いを込めたような黒炎が、ジュッ、と音を立てて燃え上がった。
その4つの色をくるくると伝いながら、金色の光が弧を描いていく。
床にめり込んだ鉄枠だけのシャンデリアの、その先端に止まったかと思うと、金色の光はポウッ、と強さを増した。ホールを取り囲むオレンジと中央で光る金色が一面に散らばった硝子と凍りついた床に乱反射する。
「姑息な真似を!」
黒山の中から義兄の声が響いた。
放たれた白い竜が、彼の身体を押さえつけていたガーゴイルたちを弾き飛ばす。
しかし。
「――中央を統べるは黄。その意思に応えよ!」
声のほうが早かった。
呼応するように、踊り場の頭上に掲げられていた紋章が火を噴いた。
炎は瞬く間に天井を覆い尽くし、生き物のように渦を巻くと……真下にいる義兄を白い竜とガーゴイルもろとも呑み込んだ。
燃えたぎる炎の中で白い竜の輪郭がみるみるうちに融け、消ていく。
炎の向こう側で竜と共に呑み込まれた黒山が揺らいでいる。
干からびた枯木のような腕が、叫ぶように開いた口が、地獄絵図のようにパチパチと音を立て、黒い塊と化して崩れていく。
待って。
ルチナリスは声を失った。
ガーゴイルたちが燃えている。
生きたまま燃えている。
そして、その下には――。
「青藍様!」
炎に向かって駆け出しかけたルチナリスを別のガーゴイルが押さえつける。
渾身の力を込めてもがいても、どうにも逃れることはできない。義兄の部屋の前に集まっていた連中は倒すことができたのに……まるで力が違う。
「どきなさいよ!!」
「どくわけにはいかねぇっす!」
「何でよ! あたしが人間だから!? 役に立たないから!?」
「そうっすよ!」
ルチナリスを遮るようにガーゴイルが叫んだ。
「姐さんが言ってたっしょ? 人には向き不向きがあるっす。るぅチャンが飛び出して行って好転する要素が何処にあるっすか! 一緒になって燃えるか、また人質に取られるかってところでしょうが!」
うっ、と出かかった声が喉の奥で詰まる。
「1回限りのチャンスを潰すつもりなら、るぅチャンでも許すわけにはいかねぇっす!」
そうだ。
あの声は1度きりだと言っていた。ルチナリスの望む結果と同じになるかどうかはわからないけれど、数ある結果の中でこれが最良なのだろう。
目の前に広がるのは、勝利のためなら多少の犠牲はやむを得ない、と云わんばかりの光景。
氷属性と炎は相性が悪いと言っていたが、それでもこの量をぶつければ氷など為す術もなく蒸発するだろう。ドラゴンにだって致命傷を与えられるかもしれない。
これだけの炎は執事にも、そしてガーゴイルにも作り出すことはできない。義兄なら可能だろうが、今の義兄に炎は操れない。
この炎はきっとあの声の仕業。
そして、1回限りしか出すことができない。
でも。
「坊は炎には耐性あるし、俺らは元々石像だから多少焼かれたってなんとかなるっす。ちょっとは信用してもバチは当たらないっすよ」
そうなのだろうか。
ただの気休めを言われているだけではないのだろうか。
「……姐さんの犠牲を無駄にしないで欲しいっす」
「え?」
そう言えば。
先ほどまで近くで聞こえていたあの女性の声がしない。
気配もない。
「どう、いう……こと?」
自分が守られている間に、命を賭している人がいる。
自分が、泣き叫んでいる間に。
目の前では未だガーゴイルたちが燃えている。
狼はぐったりしたまま横たわっている。
あの声は消えてしまった。
それなのに、あたしは……。
ルチナリスは下を向くと、その場に座り込んだ。
「……貴様ら……」
義兄の声が聞こえた。
ガーゴイルが言う通り、無事だった、と安堵すべきだろうか。
いや、できない。
この声色はドラゴンのもの。ドラゴンはまだ義兄から離れてはいない。
彼は圧し掛かっていたガーゴイルの身体を鬱陶しそうに振り払う。鎮火したあとに崩れ残っていた立木のように、つい今しがたまで喋って動いていた、その形のものを。
振り払われた身体はそのまま床に叩きつけられ……ピシッ! と割れるような音がした。
炭のようになったその身体に、ひびが入った。
――ひび?
ガーゴイルさんたちって石像なのよね? 多少燃えたって大丈夫、なのよね?
でも。
石像でひびって……死亡フラグ?
いや石像だもの、死んだりしないわ。今回のだって、そうやって心配させておいて中から普通に出てくるのよ。きっとそうよ。「日焼けの皮がむけたから、ツルピカのゆで卵肌になったっすー」とか言っちゃっ……
ガーゴイルの身体にさらに亀裂が入る。
パラ、となにかの一部が剥がれ落ちる。
そして中から何かが飛び出した。
「日焼けの皮がむけたから、ツルピカのゆで卵肌になったわぁ~ん」
……惜しい。少し外した。98点。
ガーゴイルの身体を押し退けた青藍は、憎悪を顔に貼りつかせたまま左手を閃かせた。
しかし猛威をふるった氷の結晶も先ほどの白い竜も出ては来ない。それどころか、ツルピカゆで卵肌(自称)たちに抑え込まれる。
刹那。
指先から何かが飛んだ。――氷ではない。火花が。
あの火花は。
やっと目が覚めてくれたのだろうか。狼はよろりと起き上がった。
胴体に巻きつけられた布のおかげで傷口の痛みも和らいだようだ。ごちゃごちゃした巻き方のせいで動きにくいことこの上ないのだが、あの娘に器用さを求めるのは酷というものだろう。
外套の袖が床を擦る。
硝子や棘が散乱した床だけに布が引き摺られるのは邪魔なのだが、やむを得ない。
ひたり。と狼は歩を進める。
先ほどの炎が呼び水になってくれれば。
ならないまでも、氷に閉じ込められて弱りきった彼に活力を与えてくれれば、彼の意識も戻るかもしれない。
いや、戻らなくてもいい。とにかくあの炎はドラゴンにかなりのダメージを与えている。ただでさえ相性は良くないのだから、あの身体に居続けることができなくなれば、それで……。
「そうだ、お前だ。お前が、」
青藍は近寄る狼に手を伸ばす。
「寄越せ、その力を。その魔力を。私に何かあればお前の主人もただでは済まないということはわかっているだろう?」
その声に狼は足を止めた。
深緑の瞳がすうっと暗くなる。
「いいのか? お前の主人がどうなっ、」
狼は一気に加速した。
息をつく間もなく青藍の身体を弾き飛ばす。
壁に打ちつけられ、ずるりと落ちてきたところでその袖を噛み、今度は床に叩きつける。
「貴、様……」
青藍の手が狼の前足を掴む。
一瞬で凍りついたかに見えた。しかし狼は軽く蹴るだけでその戒めを解く。
振り払われた手から、それでも未練がましく白い霧が舞った。だが現れたのは、先ほどよりもずっと小さな氷の粒のみ。それも向かってくる獣を傷つけることもできないまま床に落ちた。
獣の前足が、それをぐしゃりと踏み潰した。
紋章から噴き出した炎は、未だ天井あたりでぐるぐると渦を巻いている。
そのせいで、半分空が見えるような状態でも部屋はまだその温度を保っている。
壁に灯った明りも赤々と燃えている。
そして、その温度はドラゴンをさらに弱らせる。
「貴様……! これが貴様の大事な主の身体だと知っていてそんな真似を!」
青藍が叫ぶ。
どこかで執事が主を傷つけることなどできないと踏んでいたのかもしれない。
しかし狼は無言だ。殺意でも持っているのではないかとさえ思わせる。
「いいのか!? お前の主がどうなっても、」
脅す声に、狼は剥いていた牙を引っ込めた。
次の言葉を待つようにじっと青藍を見る。
「そうだ。……お前の力を、」
手が、弱々しく狼に伸ばされる。
「その氷の魔力を……早く……!」
その手はシュウシュウと音を立てながら、水蒸気のようなものを噴き出している。
氷が溶ける時のようにも見える。
「取引に乗ってやる! お前の主は返してやる! ……だから!!」
『――取引をしませんか?』
悲痛とも呼べるそんな声に、狼は目を細めたように見えた。
読んで下さる読者様にはご迷惑をおかけ致します。
この度、当作品が中国の海賊版サイトに転載されていることが発覚致しました。機械式に本文を丸ごとコピーしているようなので、著作権表記を本文冒頭に貼らせて頂きます。
詳しくはEpisode9-14【級友は嗤う・前編】の前書き及び、2018/04/04の活動報告をご覧ください。





