5 【マチビトキタレリ・2】
著作者:なっつ
Copyright © 2014 なっつ All Rights Reserved.
掲載元URL:http://syosetu.com/
無断転載禁止。(小説家になろう、taskey、novelist、アルファポリス、著作者個人サイト”月の鳥籠”以外は全て【無断転載】です)
这项工作的版权属于我《なっつ》。
The copyright of this work belongs to me《NattU》。Do not reprint without my permission!
「だいたい、ガーゴイルさんたちは心配じゃないの!?」
ルチナリスは皿を抱え込むとガーゴイルたちを睨みつけた。
これは賄いのおばさんが執事のために作ったもの。死守できなければ今度はあたしの食事がボッシュートされかねない。
「飲まず食わずで心配すれば坊が早く帰って来るんすか?」
「そ、それは」
帰って来るはずがない。そんな因果関係は何処にもない。
でも、だからと言ってつまみ食いしていいはずもない。
「俺らが今できることは、いざって時のために体力を温存することっしょ?」
いかにもどうでもいい、と言いたげにガーゴイルは手をひらひらと振る。
けれど。
「そんな薄情過ぎ、」
そう簡単に割り切れない。あたしも、きっと執事も。
断食したってなんともならないのは知っている。でも心配で喉を通らないとかあるじゃない。こういう時、軍隊なら「無理矢理にでも腹に詰め込め!」ってなるんだろうけれど。
「大丈夫っすよ。さっき起きてたから」
動かない執事を眺めているのにも飽きたのか、ガーゴイルは首をボキボキと鳴らしながら退屈そうに玄関先を振り返った。
「起きてた? なにが?」
まだ何かいるのだろうか、この城は。ルチナリスもまた玄関先へ視線を向ける。
その時。
「青藍様が頼りにできるのはグラウス様だけなんですよ。その期待に応えなくてどうします!」
若い女性のものと思しき声がホールに響いた。
誰?
思わず見回してみても此処には執事とガーゴイルたちと自分、つまりルチナリスしかいない。城内に範囲を広げたところで他に残っているのは厨房のおばさんぐらいだろう。……が、見回しても彼女の姿はない。
いやその前に彼女は厨房の外に出てくることなどなかった。
この10年そうだったのだから今になってこんなところまでやってきて、しかも執事に説教を始めるなど考えにくい。だが厨房にいるままで執事の様子が見えるはずはないし、厨房の声が此処まで届くとも思えない。
長い月日が経ってお城と同化している、とかなら届くかもしれないけ……れ……
……同化?
ありえる。
だってここは悪魔の城だもの。あのおばさんは生態からして謎だし、人間じゃないと言われても今更感しか漂わない。
例えば、あの厨房でフライパンを握っているのは誘引突起――チョウチンアンコウの頭から伸びてる餌みたいなアレ――で、このノイシュタイン城そのものがおばさんの本体、だとか。
それなら聞こえる。声も届く。
ああ、そう考えてみれば合点がいくところが多すぎる。
貯蔵庫や倉庫の中身を見もしないのに何が足りないのかがわかる、とか。
あの膨大な皿の枚数も把握できている、とか。
あたしが何処で何をしていても全部筒抜けで。あたしがお皿を割ったりお茶缶の中身ぶちまけたりしたのも全部知られていて。
怪奇! 妖怪城女。
こうしている間にもパシャン! パシャン! パシャン! と窓が閉まって、壁から消化液が出てきたりするんじゃ……!
そんな怖い考えに至りそうになって、ルチナリスは思わず身震いした。
「寒いならグラウス様なんか放っておいてあったかいところにいたほうがいいっすよ? あんなずっと玄関開けっぱなしにされたんじゃ、暖房なんてあって無いようなもんだし」
「るぅチャンは人間なんだからさ。一応」
その身震いをどう解釈したのか、隣でガーゴイルが同情の声を寄せてくる。
言えない。
この状況下で厨房のおばさん妖怪化を考えていたなんて、薄情にも程がある。
「何も食べないで! それでいざって時に力が出るんですか? 何時でも万全の体勢で受けられるようにしておくのも執事の大事なお仕事でしょう!?」
叱責の声は続いている。
誰だかしらないけれどチャレンジャーだ。
だってあの執事よ? この城の中であの男が言うことを聞くのは青藍様くらいよ? それは周知の事実でしょうに。
「誰か、」
誰かいるの? とルチナリスが近くのガーゴイルに聞こうとした時、執事が仏頂面でこっちに向かってくるのが見えた。
「……頂きます」
明らかに不満そうな顔のまま、彼はルチナリスの手からサンドイッチの乗った皿を取り上げると、また玄関先に戻って行った。
……なに?
今、なにがあったの?
空いた手と去って行く執事の背を見比べながら呆然としているルチナリスの横で、ガーゴイルが肩を竦める。
「帰りを心配しなきゃいけないのは坊だけじゃねぇし、心配してるのもグラウス様だけじゃないってことっすよ」
「どういうこと?」
義兄はひとりで出たはずだ。
一緒に行くと言ってきかなかった執事は此処にいるし、他の面子も揃っている。ガーゴイルは同じ顔をしているから1匹くらいいなくなっても気づかないだろうけれど、まずその前に彼らは城の外には出られない。
他、と言えばドラゴン退治に出向いてきた名前も知らない勇者くらいだが、その身を案じる「誰か」が悪魔の城にいるのはおかしい。
「んー。ま、グラウス様の断食問題は片付いたようなもんだし、るぅチャンは心おきなくお掃除に専念するっす!」
「片付いたって、なにがあったの!? ねぇ!」
執事はあの声の主に任せておけばいい、と言うことだろうか。
と言うことは、彼らはあの声の主を知っているわけで。
なんだろう。声だけ、ってところから考えるに、ガーゴイル(♀)とか? やっぱり賄いのおばさんが、とか?
違う。
そのあたりがあの執事をおとなしくさせられるとは思えない。
くるりと後ろを向かされて城の奥へ連行されながら、ルチナリスは玄関を振り返った。
やっぱり、執事しかいない。





