27 【金色のお守り・2】
※過去話です。
※挿絵があります。
著作者:なっつ
Copyright © 2014 なっつ All Rights Reserved.
掲載元URL:http://syosetu.com/
無断転載禁止。(小説家になろう、taskey、novelist、アルファポリス、著作者個人サイト”月の鳥籠”以外は全て【無断転載】です)
这项工作的版权属于我《なっつ》。
The copyright of this work belongs to me《NattU》。Do not reprint without my permission!
「青藍様、お茶入りましたよー」
小春日和の午後。
ルチナリスはティーセットをワゴンに載せて執務室のドアを叩いた。
いつものようにペンを走らせていた青藍は、手を止めて彼女に目を向ける。
小さな丸テーブルを組み立てて、そこに運んで来たカップを並べる。
今日のお茶菓子はホームメイドタイプのクッキー。貴族様のお茶席に並べるにはどうよ、とも思うが、ルチナリスはお上品なラング・ド・シャよりもこっちのほうが好きだった。
ザク、と噛んだらボロボロと口の中で零れる感じも、食べ応えのある大粒のナッツやチョコチップも。
そうやって並べている間に、青藍がやって来る。
ルチナリスはテーブルの真ん中に菓子皿を置き、その両脇よりやや手前にシュガーポットとミルクポットを並べる。
彼は砂糖もミルクも入れないが、自分は甘いほうが好きだ。だから取りやすいように置く。
本来のメイドならご主人様と一緒にお茶なんてしないのだろう。
けれど、あまりにも物欲しそうに見えたのかもしれない。苦笑交じりに差し出されたお茶菓子を頬張り、喉に詰まらせたところでお茶も貰い……としているうちに、いつの間にか一緒にお茶を飲むようになってしまっていた。
彼は甘いものが苦手らしくいつもお茶菓子には手を付けないので、片付けてくれて幸い、などと思っているかもしれない。
……その考えにものすごく願望が混じっているのはわかっているけれど。
「今日はちょっといい感じにできたんです!」
「そう?」
「ちゃんと本見て、蒸らし時間っていうのも完璧にしてみました!」
砂時計も用意したし。温度もちゃんと測ったし。
今日こそは「美味しい」と言わせてみせるわ!
ルチナリスは得意満面に紅茶を注ぐ。本で見た写真を真似たポーズで。
青藍はそんな彼女をまじまじと見た後、供されたティーカップを手に取った。
一口飲んで、ふふっ、と笑う。
「なんですか?」
「いや、るぅの味だなと思って」
「えー!? なんですか? いつもより美味しいでしょ!?」
「同じ」
そんなはずはない。
完璧なはず。なのに。
「あ、これはこれで美味しいよ」
「嘘です! それは美味しいって顔じゃありません!」
中途半端なフォローはやめて下さい。
ぷうっ、と口を尖らせるルチナリスに青藍は困ったような顔で頬を掻いていたが、ふと思い出したかのように執務机に戻ると、引き出しから何かを取り出した。
「何ですか。賄賂ですか?」
「……どこでそんな言葉を覚えて来るのかなぁ」
青藍は苦笑いを浮かべると、その取り出したものをルチナリスの目の前に差し出した。
それは濃紺のリボン。真ん中に紋章のような模様が入った金色のボタンがついている。
いや、ボタンではない。
裏に……髪留めの金具ではない、別の金具がついていたような跡がある。
青藍様の上着の襟についているのと似ている。
ルチナリスはハンガーにかけられたままの上着に目をやった。陰になっていて見えないから同じものかどうかはわからないけれど……でも同じだったら、お揃いみたいでちょっと嬉しい。
「頭洗う時以外は外すなよ」
青藍は頭の横で両結びにしているルチナリスの髪を解き、横の髪をすくい直した。
パチン、と留められたその髪留めに、ルチナリスはそっと手で触れる。
「これはお守り」
「お守り?」
「怖いのが出ないように魔法をかけてみた」
「……魔法?」
わざわざ買ったの?
この不思議な模様のボタンがお守り?
様々な疑問がぐるぐるとルチナリスの頭の中を回る。
でも。この形。
『――拾ったらね、それで髪飾りを作るの。前にメグが見せてくれたのよ。リボンの真ん中にまぁるいお星様がついて』
覚えていてくれたんだ。あの夜のこと。
「あ……りがとう、ございます」
誰かからプレゼントを貰うのは初めてだ。
ルチナリスはもう1度、さっきよりもゆっくりと髪留めのボタンを撫でた。
冷たいようでいてほんのりと温かい。興味がないようでいていろいろと構ってくれるこの主に、どこか似ている。
あれ以来あたしに話しかける声はない。化け物が姿を見せることもない。
あれは夢だったのかな、なんて思えて来るくらい。
「お茶、まだまだおかわりありますからね!」
いつかまた声がするかもしれないけど、今度は怖がらずに話してみよう。
怖い人は此処にはいないって信じよう。
だってこの人がそう言うんだから。
お守りだって、あるんだから!
白い壁と紺のカーテンと焦茶の机と。
そしてお茶とお菓子と、この人がいる。
今は見えないけれど、味方をしてくれるであろう誰かも何処かにいる。
あたしは、ひとりじゃない。
ひとりじゃなくなったの、神父様。
部屋の片隅で甲高い声とダミ声のふたつの笑い声が、まるで祝福するかのように楽しげに響いた気がした。





