12 【観察者は隣に潜む・1】
※過去話です。
著作者:なっつ
Copyright © 2014 なっつ All Rights Reserved.
掲載元URL:http://syosetu.com/
無断転載禁止。(小説家になろう、taskey、novelist、アルファポリス、著作者個人サイト”月の鳥籠”以外は全て【無断転載】です)
这项工作的版权属于我《なっつ》。
The copyright of this work belongs to me《NattU》。Do not reprint without my permission!
ルチナリスが新しい主と奇妙な生活を始めて数ヶ月が経った。
経験はおろか見たこともない「城の召使い」という立場ではあったが、実際になってみても何処か間違っている気がしてならない。
まず、部屋。
主曰く「部屋が余っているから」とあてがわれた私室は、彼が使っている部屋に比べれば段違いに狭くはあるけれど、どう見ても召使いのそれではなく。虐げられた女主人公が押し込まれる薄暗い部屋を想像していた身としては、「間違っています」とさえ言いたくなる。
ベッドにクローゼットに小さな机。そして用途不明の飾り壺。
今だもってその壺の使い道はわからない。雨が降った時の雨漏りを受け止めるのには最適な大きさだが、多分、違うだろう。
着の身着のままで来たルチナリスにとって私物なんてものはないに等しかったから、ベッド以外はほぼ使っていない。天板が可動式になっているライティングデスクも蓋を無意味に開け閉めするだけだし、羽根ペンは飾りと化している。
今まで「自分の部屋」というものを持ったこともなかった以上に、こういう「いかにもお金がかかっています」風の部屋は落ち着かない。
次に服。
召使い、と言われていただけあってメイド服も用意されていた。
クローゼットを開けると同じデザインのものが5着。雨の日が続いても洗い替えを心配する必要はなさそうなのだが、その服というのがまたひらひらとフリルが多く、襟元のリボンもやけに大きい。
あの主の趣味なのだろうか。
「いらっしゃいませご主人様ぁ」というのを期待されているのだろうか。
ああいうものは綺麗なお姉さんの仕事だと思っていたのだが、幼女でも需要はあるのだろうか。犯罪の臭いがするのだが。
……世の中には知らないお仕事ってたくさんあるのね。
フリルに飾られた服を前にしてルチナリスはしみじみと思う。
が、しかしそこは女の子、かわいげの欠片もない服を着せられていた今までを思えば、頬が緩むのは止められない。
さらには他の使用人。
恐ろしいことに、この城にはルチナリスと青藍以外は誰もいないようなのだ。
正確に言えば通いでやって来る賄いの女性、という人がもうひとりだけいるのだが、彼女は朝から晩までずっと厨房に籠って3人前とは到底思えない量の料理を作り、作り終えると帰ってしまう。
料理をしたことのないルチナリスと厨房に入ったこともないであろう主のふたりだから、料理担当がいるのは素直にありがたい。が、コミュニケーションは取れない。
最初の頃は、他の使用人はまだ到着していないだけで後からやって来るのだろうと思っていた。
だが、待てど暮らせど誰も来ない。
と言うことは召使いってあたしひとり?
この広いお城に、あたしひとり!?
数ヶ月経った今、その事実にルチナリスは卒倒しそうになっていた。
人生は5年と短いが、召使いなんて仕事はしたこともない。
教えてくれる人も、指示してくれる人もいない。子供に期待などしていないのか主もなにも言わないし、それどころかほぼ放置されている。
しかし、何をしていいのかわからないことと、ボーっとしていてもいい、と言うことは別だ。もしかしたらどれだけ使えるのか試しているのかもしれない。今だって隠れて採点しているのかもしれない。
使えない奴、と思われるわけにはいかない。
ここを追い出されたら自分には行くあてがない。
親に甘やかされるような育ちでなかったのが幸いした、と言うべきだろうか。
子供ながらに何かしなければ、という焦燥感に駆られ、散々考えた結果……ほとんど汚れることもない廊下を毎日黙々と掃除する日々が続いている。
これでいいのだろうかと思いながら。
「あの、ほかに召使いの人っていないんですか?」
しかしあまりに何もない日々が続きすぎた。
主の執務室に押しかけ、問い詰める幼女を前に、何の仕事をしているのか日中はこの部屋に籠って大量の書類と格闘している主は、今もペンを握ったままきょとんとした顔で目を瞬かせている。
他に誰もいないことを全く気にしていない。
いや、もしかしたらルチナリスがいることすら忘れていたかもしれない。そんな顔で。
「……賄い」
目を瞬かせて、それから沈黙が続くこと数分、やっと口を開いた彼の台詞にルチナリスのほうが絶句する。
待って。
あの料理製造マシンみたいな人以外には誰も来る予定はないんですか?
その力仕事なんて全くしたことのないような手で、全部自分でやってきたとか言うんですか?
違うでしょ?
あたしの記憶が確かなら、こういうお城に住んでる人って服を着替えるだけでも召使いが数人がかりで着せ付けたりするのよ。ご飯食べる時もお皿持った人が何人も並んで運んでくるのよ。掃除と洗濯は……あたしがやっているけれど、でもこのお城の大きさならもっと大勢いてもいいと思うのよ!
「それ以外は!? たとえば爪のお手入れする人とか」
「爪?」
しまった。つい口が滑ってぇぇえ!!
彼は不思議そうに首を傾げると自分の爪を見た。見て、それから「これが何?」とばかりの視線をルチナリスに投げかける。
「爪くらい自分で切れる」
「そ、そうですよねっ!」
頭の中で薔薇が飛ぶ。
違う、そんな想像しちゃ駄目! 駄目なのに!
大人は、子供らしい子供が好きなのよ。かわいげのある子供が好きなのよ!
「失礼しましたっ!!」
踵を返す。部屋を飛び出す。
背後でバタン、と大きな音がした。
ああ、扉は音を立てて閉めちゃ駄目なのに。
でも戻って締め直すことなんかできない。足は止まらない。
慌てたように部屋を飛び出していくルチナリスを黙って見送っていた青藍の後ろで、何もないはずの空間が揺らめいた。薄い靄だったようなものが徐々に固まり、色も濃くなっていく。
「子供とは思えない気の遣いかたをする子っすね」
1、2、3体。
それは城の前庭に置かれている石像と同じ形になると、扉に目を向けたままの青藍を覗き込んだ。
「まぁ命の恩人でご主人様なわけだし。年上だし男だし、気を遣うなってほうが無理かもしんねーけどさ」
「坊、もうちょっと他人に興味持ちましょうよ」
「一緒に暮らしてんでしょ?」
妙に馴れ馴れしく騒ぎ立てる異形の化け物の頭をそれ以上近づいて来ないように手で押し戻しながら、青藍は宙に浮いている彼らを見上げた。
「爪って自分で切ったら駄目だった?」
「いや……多分そこはそんなに問題にするところじゃないかと」
その異形の彼らはガーゴイルという。
普段は石像の姿を取っているが、勇者がやってきた時などは実体に戻って戦う、魔王配下の低級魔族だ。
魔王が交代すれば彼らもその新たな魔王の下につく。
魔王でなくなればそれはもう彼らの主ではない。
人間であるルチナリスの前には現れないが、この城にはそういった城に付いている魔族や精霊が他にもいる。そのせいで召使いというものがいなくてもそんなに不便はない。
ルチナリスが自分でやっていると思っている掃除や洗濯にしても、実際のところはひとりでやっているわけではない。彼女ひとりが知らないだけの話だ。
「他に召使いはいないんですかーって、やっぱ寂しいんじゃないんすかねぇ」
「暇そうにしてますもんねー」
ルチナリスの前には現れないが、見ていないわけではない。むしろ興味津津に見守っていると言ってもいい。
魔族である以上、人間は「食べるもの」という認識が先に来るのだが、下級に位置する彼らは人間の血肉を口にすることなどほとんどない。
主である青藍に止められていることもあるのだが、つまみ食いして魔王から怒りの矛先を向けられる恐怖よりも、見たことのない子供の言動を観察することのほうが楽しいようだ。
動けるのは城の中だけの、自由に外の世界を見て回ることができない彼らだからかもしれない。





