7 【罪深きは我か。それとも無知なる君か・1】
※過去話です。
※少々カニバリズムに関係するような内容が文章内にあります(食べてはいません)。
著作者:なっつ
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再び戻った庭にはもう兵士たちの姿はなかった。
そのかわり別の列ができている。
「あれは……なにかしら」
第二夫人は眉をひそめた。
老若男女入り乱れた列は兵士たちのそれよりも間隔が空き、長々と続いている。
総じて見れば老人よりは子供、男性よりは女性が多い。ただ、汚れた服を着、両手を戒められているところだけは共通している。
咲き乱れる花々に違和感を覚えてしまいそうになるほど、どの顔も悲哀に歪んでいた。
「人間狩り、ですね」
「まぁ……」
だから、先程の兵士たちなのか。
最近は他の家と争うこともないから不思議に思ってはいたけれど、狩りに行っていたのか。
青藍は1時間ほど前に見た光景を思い返す。
狩りによって捕えられた彼らの運命は今更教えられる必要もない。
魔族が人間を「狩る」という行為には、たったひとつの意味しかないのだから。
人間の血肉は今や滅多に口にできない貴重品。これだけの量を捕らえることができたのは大収穫と言えるだろう。
兵士たちの機嫌がよかったのは花の鎮静効果だけでなく、相伴にありつけるかもしれないという期待もあってのことかもしれない。
「……この場にいるのに彼らを救うことができないなんて」
母は悲痛な面持ちで唇を震わせる。
同じように思わないのは自分が母以上に魔族だからなのだろうか。息子は黙ったまま母と人々の列とを見比べる。
母は人間を食べない。
人間を狩るという行為に嫌悪さえ見せ、何もできない自分を悔いる。
しかし彼女は、鶏や牛、豚といった肉は普通に口にしている。先ほど飲んだ紅茶だって元を正せば植物だ。
命に優劣があるというのか?
それらが良くて人間だけ駄目だというのは、ただのエゴではないのだろうか。
捕えられる人間は、この家だけに限っても何十人といる。ここで一時の同情に任せて助けたところできりなどないこともわかっている。
人間で言うところの豚や鶏が、魔族にとっては人間、と言うだけの話なのだから、魔族側が罪悪感など抱くわけがない。
ただ違うのは、自分たちと同じ姿形をしているものを食らう、と言うことだけ。
そのことに背徳を感じるかどうかだけ。
だから思う。
もし豚や鶏が人間の姿をしていたら、人間はそれらを食べることができるのだろうか。
母は、その命を助けられなかったことに涙するのだろうか。
幸か不幸か、今まで自分の食卓に人間の血肉が上がってきたことはない。
だから彼らを見ても「美味しそう」という発想はできないのだが、しかし、いくら口にしたことがないとしても、自分も母も彼らの言うところの悪魔――捕食側であることは間違いない。
口にしようとしまいと、「悪魔」は「悪魔」としてしか彼らの目には映らない。
どちらにせよ、今夜のうちに出立する身では今回も口にせずに終わる。
それが残念だと思わずに済むのは……きっと幸運なことなのだろう。
最後尾に近づいてきたのか、目の前を歩いていく列は先程よりも切れ切れになりつつある。一様にうなだれ、疲れ切った顔が続く。
逃げようともしないのは監視兵がついているからというだけではないだろう。生きることを諦めてしまっている。だから、すぐ近くで見ているのに救いを求めてくる者もいない。
「行きましょうか、母上」
見ていても気分が悪くなるだけ。
彼らに残された救済は、死によって長い苦しみから解放される時だけ。
自分たちにできることなどなにもない。
青藍は母を促しながら踵を返しかけた。
そんな彼らの前で、少し遅れて歩いていた幼い少女がつまずいた。
疲弊しているのだろう、そのまま声もなく倒れ伏す。
手枷につながった鎖がカシャン、と音を立てた。
「なにトロトロ歩いてんだよ、クソ餓鬼ぁ!!」
その音に、鎧姿のサイクロプスが大股で近づいてくる。
「おら! 立てよ!」
荒い言葉を投げかけながら何度もその小さな身を蹴る。
しかし幼女は動かない。
とうとう業を煮やしたのか、サイクロプスは幼女の頭上で片足を上げた。
鎧姿の化け物が幼女の頭を踏みつけようと足を上げた時だった。それを遮る声が響いたのは。
しかし足は止まらない。
止めるつもりもない。
踏み下ろそうとしている足と幼女の間に人影が滑り込むのが見えた。
でも止めない。
サイクロプスは視界の端にその人影を捕えたまま、そのまま足を踏み下ろした。





