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第8話:新章のプレシーズン

シュトゥットガルト戦の鮮烈なデビューから1年。

17歳になったさかき じんの立ち位置は、劇的に変わっていた。

ドイツの短い夏が終わりを告げようとしている8月。フランクシュタットのクラブハウスの掲示板には、新シーズンの『U-19ファーストチーム(Aチーム)』の登録メンバーリストが貼り出されていた。

そこには当然のように、『FW 19 JIN SAKAKI』の名前があった。

昨シーズンの後半、練習生から正式なユース契約へと昇格した迅は、限られた出場時間の中でゴールを量産し、チームのAチーム昇格の原動力となっていた。

「おい、ジン。今年も同じチームだな」

後ろからガシッと肩を組んできたのは、すっかり体つきが逞しくなったボランチのクリスだ。彼もまた、中盤の要としてファーストチームへの切符を掴んでいた。

「またお前にアシストを供給してやるよ。だけど、今年は去年みたいにはいかないぞ」

クリスが視線で示した先には、今シーズンから新しくチームに加わった、あるいは下の年代から上がってきた新しいライバルたちの姿があった。

特に目を引いたのは、今夏にフランスの強豪アカデミーから引き抜かれてきたという同い年のFW、エティエンだ。182センチのしなやかな体躯に、驚異的な身体能力を秘めたアフリカ系のストライカー。プレシーズンのミニゲームでは、一人でDF3人をぶち抜いてゴールを決めるほどの怪物だった。

「ジン、エティエン。お前たち2人が今シーズンのツートップの軸だ」

ヘスラー監督が、新シーズンの戦術ボードを前にして告げる。

これまでは迅が唯一のワントップ(CF)として前線を張ることが多かったが、今シーズンはエティエンとの「2トップ」という新しいシステムが試されることになった。

プレシーズンマッチ初戦。相手はオランダのクラブのユースチームだった。

ピッとホイッスルが鳴り、2年目のシーズンが実質的に幕を開ける。

迅は右足のインサイドでエティエンに短いパスを出し、同時に前線へと走り出した。

(エティエンのプレイスタイルは、圧倒的な『個』の強さだ。あいつがDFを引きつけるなら、俺は……)

迅はいつものように冷徹にゲームの絵を描き始める。

前半15分、クリスが中盤でボールを奪取し、前線のエティエンへと鋭い縦パスを入れた。

エティエンは抜群のフィジカルで相手DFを背負いながら、強引に前を向こうとする。しかし、オランダのDF陣も激しいダブルチーム(2人体制)でエティエンを潰しにかかった。

「エティエン、落とせ!」

迅はエティエンが囲まれた瞬間、その斜め後ろのスペースへ鋭くサポートに入っていた。相手DFの意識がエティエンに集中している今、迅の周りは完全にノーマークだ。

だが、エティエンはパスを出さなかった。

強引にドリブルでこじ開けようとし、激しいタックルに遭ってボールを失う。

「チッ……!」

エティエンは悔しそうにピッチを叩いたが、迅の方を見ようとはしなかった。彼の中にあるのは「自分が主役として点を取る」という強烈なエゴだけであり、まだ迅の存在を相棒としては認めていないようだった。

(なるほど。お互いに自分のエゴを通すだけじゃ、この2トップは機能しない)

普通の選手なら「パスを出せよ」と怒るところだが、迅の心はむしろ静かに昂っていた。

一筋縄ではいかない怪物が隣にいる。この気性の荒いストライカーをどう活かし、あるいはどう利用して、自分自身の右足でゴールを奪うか。

明確なゴールなんて最初から決めていない。だけど、この新しいパズルを解き明かしていくプロセスが、迅のストライカーとしての本能を激しく刺激していた。

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