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就職先を間違えました

 いくら教員免許を持っているとはいえ、できることとできないことはあるはず。

 日本文学専攻出身だからって、人に語れるほどの恋愛文学を読んできたわけじゃない。

 就活生諸君に言いたいのは、契約書はよく読んだほうがいいということ。

 そうでないと、私みたいなことになる。




 この異世界で唯一の人間であり、この学校の教師である私の名前は、月島一花つきしまいちか

 人間の世界であれば芸能界に即スカウトされそうな、見た目だけなら容姿端麗すぎる三人を前にして、今日も教壇に立つ。 


「今日は、恋人と付き合って初めてのデートをどうするか考えましょう」


 背筋をピンと伸ばし、堂々とした態度で手を挙げる吸血鬼のルイを指名することにした。


「では、ルイ君。お願いします」

「そんなことは簡単だ。『ご両親に挨拶したいから、家に招待してくれないか』と言えばいい」


 突拍子もない答えに、私はがくっと膝をつきそうになった。


 「ちょっとルイ君…現代の人間の女性にいきなりそれは重いかなー」

「なぜだ?付き合うことになるなら、結婚も前提だし親戚付き合いも必要だろう?」

「うーん、価値観がまだ一昔前なんだよね。親に会わせるには早すぎ。あと、何かと理由つけて家に招待されようとするの分かりやすすぎ。家に行きたいだけなのがバレバレだよ」


 吸血鬼は住人に招かれないと家に入れない。

 逆に言えば、招くような言葉を少しでも発すると、いつでも家に入りたい放題、血を吸いたい放題なのだ。

 吸血鬼のルイは、金髪碧眼で国宝級イケメンであることは間違いないのだが、自信満々すぎるのと価値観が古風すぎ、家に入りたいのが分かりやすすぎなのが難点だ。


「ハッ、てめえは魂胆が分かりやすすぎんだよ」


 頬杖をつきながら悪態をついているのは、狼男のバルトだ。

 こちらもワイルド系イケメンで、筋肉隆々。貴公子のようなルイとは違い、まさに対極のイケメン枠と言えるだろう。


「何だと!?お前なんて今日も一花に可愛がられるだけだろう、愛玩動物として」

「てめえ…これでもくらいやがれ!」


 バルトは、勢いよくカーテンを開けてルイに朝日を浴びせた。

 うわぁと言いながら慌ててルイは目を塞ぎ、眩しがる。


 「ちょっとバルト!いくらルイが太陽に強めだからって、朝日は刺激が強いのよ」

「あいつが愛玩動物って言うから…」

「確かに言い方は悪いけど、今回は手を出したあなたが一番悪い。さあ、変身して」


 バルトはしぶしぶ狼の姿に変身する。本来は狼男として、2メートル超えで二足歩行もできるモンスターに変身できるはずなのだが、彼は狼の姿にしか変身できない。

 しょぼくれながら上目遣いされると大きな犬のように見えて、他の生徒の前だというのにわしゃわしゃと撫でたくなる。

 バルトは狼の姿…いや、大きめな犬として人間世界に溶け込み、情報収集できるようにと血族から学校に放り込まれた。

 本人は嫌そうだけど才能はあると思う。

 手に余る場合、罰として撫でさせてもらったりハグさせてもらうこともあるのだけど、撫でる手が止まらない。


「先生…もういいだろ?」

「ふん、やはりお前は愛玩動物だ」

「てめえ本気で噛むぞ」


 またルイとバルトの喧嘩が始まりそうなので、理性を取り戻して私は教壇に戻った。

 すると、ここまで静かだったマーマンのエミールが手を挙げた。


「じゃあ、エミールはどう?」

「お互いのことを想いあった歌を贈り合うのはどうだろうか」

「そうだねー、発想はロマンチックだけど、女性側が歌を作る才能があるかどうかにもなっちゃうから、ハードルが高いかな」


 物静かで神秘的な美しさがあるのは、マーマンのエミール。

 人魚であり、人を誘惑させるような美しい歌唱力が持ち味のはずだけど、人前では緊張して歌えないらしい。

 人魚の血族からは、『人前で歌えるようになることがベストだけど、せめて愛情表現や誘惑の仕方などを学んできて音楽の糧にしてほしい』という要望があった。

 楽器の演奏はできるそうで、ハープを演奏した時にはうっとりと聴き入ってしまった。


「一花、それなら『バイオリンを演奏できるから君の家で聴かせたい』と言うのはどうだろうか?」

「いきなり家って、体目的みたいで敬遠するって。場所によってはバイオリンも演奏できるか分からないし。あとルイ君はいい加減、先生って呼ぼうね」

「やっぱりてめえは単細胞野郎だわ」

「なんだとこの犬ころが!」


 ルイとバルト(狼の状態)の喧嘩が再発し、私はため息をついた。これはまた授業が進まないかもしれない。


「先生、今までの話からするとどこか出かけるのがいいのだろうか?海とか…」

「海もいいと思うよ。あとは話題が膨らみやすいのは映画館とか、観たいものがあれば美術館とかかなー」


 喧嘩が終わらないので、エミールと私で授業を少しずつ進めるのが定番になってきている。

 魔族の恋愛指南役、前途多難すぎる。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。もしよろしければ、励みになりますので感想やブックマークをお願いします。

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