第8話:遥か遠い別の世界から
「えーっと、本題に入る前に……ソフィアさん?今いる集落って、どこかの国家に属していますか?」
いきなり異世界の話をするよりも、まずは身近なところから話始めることにした。
幸いソフィアはお喋り好きそうだし、回りくどいと怒り出す様な雰囲気も無い。
「ええ、この集落はサリィズ王国に属してるわ」
「そのサリィズ王国の周りにも、恐らくいくつもの国家や組織や勢力がありますよね?」
「そうね、大小多くの国家が乱立してる。戦争状態にある国々もあるわ」
「その多くの国々は、ひとつの地方とか、もしくは大陸で覇権を争っているって認識でいいですか?」
「大陸で覇権を争う……ほど破滅的な戦争は起こってないわね、今は。アーリヤ半島での覇権争いは、ここ数百年の間で断続的に続いているけれど」
「ちなみに、大陸に名前はありますか?」
「それは勿論。アウローラ大陸よ。この大地の礎を創られたとされる古代の神様の名前ね」
ソフィアの知識力とこの世界の情勢を探るような話し方になってしまったが、これによりこちらの見識が広まったのは確かだ。
それにしても……国と国が戦争をして覇権を争うとか、結局人間ってやつは世界が変われどヤル事は同じと言う事か。
少々やるせない気分になってしまったが、ここはひとつ棚上げしておき、話を先に進めることにしよう。
「――では、ここからが本題になります。わたしが一体どこから来たのかって話です。まず、この集落が属してるサリィズ王国があって、様々な国々が乱立するアーリヤ半島があって。その半島はアウローラ大陸の一部で、大陸の中には様々な国家が乱立している……。ソフィアさん?このアウローラ大陸より外の世界のことは何か知ってますか?」
おれはテーブルに手を置き、両手で輪を作ってそれを話に合わせて少しづつ広げていた。
少しでも彼女に伝わりやすくと思ってのジェスチャーだ。
「アウローラ大陸の外の世界のことは……私には分からないわ。王都にはそういう研究をしてる学者はいたけれど。一般的には恐ろしい悪魔や魔獣の巣窟があるとか、人が住める環境ではない、とされてるわね」
「そうかですか、ではアウローラ大陸の外を取り巻く恐ろしい世界……。それよりも外側にある遥か遠い別の世界から、わたしはやって来た、可能性があります。時間と空間を超えて」
ここが元居た世界であれば、この手の話を若い女性を相手に真顔でしたら、間違いなく今後連絡は来なくなる。
今現在の話相手は若い女性だけれど、しかしここはファンタジー要素テンコ盛りの世界だ。
中二病や妄想癖がバレるのを気にして日和見してる場合では無い。
あとはソフィアの反応を待つばかりだ。
彼女は暫く「うーん」と低い唸り声を漏らし考え込んでいた。
時間にしたら二分か三分程度。
悩んでいる相手に更に新たな情報を提供しても仕方ないので、今は黙って待つしかない。
まずソフィアは「――ごめんなさい、理解が追い付かないわ」と、溜息を零した。
「いや、ソフィアさんが謝ることはないですよ。荒唐無稽な話だと、わたし自身がそう理解してますから」
「アウローラ大陸よりも外の別の世界の話なんて、殆どしたことが無いのよ。アウローラ大陸どころか、私たちはもっと狭い世界しか見てない。特に私なんて、この小さな集落に居を構えて、月に一度近くの街に出掛けて、年に一度王都へ赴くくらいだし」
その身の上でありながらも、おれの話を真面目に聞いて悩んでくれてるのだから、それだけでも今は有り難いと感じてしまう。
「多分、それが普通の反応だと思います。それに、わたし自身……自分のした話に確証を得てるわけではありませんから。そうであって欲しいという願望と言いますか」
「ねえ?理解はできないけど、私が全く知らない未知の国から来た人って、認識でいいよね?」
「ああ、はい!現状はその認識が最上だと思います」
「じゃあ、それを踏まえて聞きたいのは……何故、貴方は、私たちの言葉をそこまで流暢に話せるのかしら?文字は読めるの?」
そう言うとソフィアは立ち上がり、本棚の前に立った。
古めかしく分厚い本ばかりが並んでいる。
彼女はその中から一冊を手に取り席へと戻って来た。
無作為に本を広げ、更に何ページか捲りおれの前へと差し出して来る。
そこには横列で、全く読むことの出来ない文字がびっしりと羅列していた。
「――申し訳ない、全く読めないです。一文字も分からないですね」
それを聞いたソフィアは、新たなページを捲り何度かおれの反応を確かめる。
その度におれは首を横に振るしかない。
「本当に、一文字も読めないってこと?信じられないけど、ここで嘘をついても仕方ないものね。文字は読めないけど、流暢に話せるか……もしかしたらギフトの可能性があるかも」
ソフィアは静かに本を閉じた。
彼女の言う「ギフト」という言葉が印象的に耳に響く。
「その、ギフトって一体どういう?」
「そう質問してくるってことは、貴方は、魔法は疎かギフトも無い世界から来たってことになるわね?」
「ギフト、という同じ言葉はあります。わたしの世界では贈り物という意味ですけど」
「私たちの世界では、神様からの贈り物、という意味なの。そもそもは古代語だと習ってるけど。ギフトとは、個人が神様から与えられた特別な才能、と認識してくれればいいわ」
それを聞いた時、首筋にゾクりと悪寒が走った。
(要するにスキルみたいなコトだろ?それってゲームでよく有るシステムだよな……)
おれの中で、これは異世界転移なのだろうと決めつけていた節があるが、ここに来てゲームの世界に送り込まれた可能性も出て来てしまった。
どちらも自分の運命を呪うしかない現象だが、おれは後者の方がより悪意や陰謀めいた気持ち悪さを感じてしまう。
「そ、そのギフトがわたしにも宿ってると?要するに、知らない言語でも即座に理解して話せる、みたいな?」
その問いかけに対し、ソフィアは頷いて返した。
「古い聖人のひとりが、そう言うギフトを有してたって習ったことがあるの。それ以外では聞いたことが無いけど、今貴方がイセリア語を流暢に話せるのは、ギフト以外には説明がつかないでしょう?」
「確かに、それだと腑に落ちます。そのギフトを調べることは出来ますか?その他にもギフトを有してる可能性は?」
俗にいう、異世界転移の際に特殊能力が備わったという現象なのか。
それともやはり、ここはゲームの世界で……ゲームマスターの都合で能力改変が生じているのか。
今はまだどちらと断定は出来ないが、この先、生き延びることが出来たら、どちらの世界に属しているのかを調べる必要がある様に感じる。
「ギフトは調べれるわよ。多分、浄化と集落長との対面を終えたらルーファスが調べてくれると思うわ。私も立ち合ってあげる。うふふふ、あの偏屈なじいさんは嫌な顔するでしょうけどね。さて、そろそろ浄化の準備も出来てるころだから、外にでましょう――」




