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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>(8がつく日は二話投稿)  作者: コヨコヨ
フレイズ領に園外授業に行く ~ダンジョンに囚われたSランク冒険者を救出する編~

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下剋上

 エイトさんが目を開くと、前に剣を落としたマルティさんの姿があった。

 どうやら、剣を振り上げただけで握力を使い果たしたらしい。

 もう、残り時間が一〇秒も残されていない状況だった。


「おらああああああああああああああああっ!」

「く、くそがあああああああああああああっ!」


 マルティさんは拳を握りしめ、剣に頼らずエイトさんに殴りかかる。

 エイトさんは左腕が使えない中、落ちた剣を右手で拾おうと前に出た。

 拳が当たるのが先か、剣を奪って攻撃するのが先か……。

 誰もがわかっていたが、拳が出る方が速い。

 エイトさんの顔にマルティさんの泥まみれの右ストレートが当たる。

 ただ、威力があまりになく、攻撃と呼んでいいのかわからない。


「そこまで。試合時間が一〇分を過ぎた。ただいまから、審査に入る」


 フェニル先生が両者の戦いを止め、審判が三名集まって来た。

 どちらが勝つのか、三名の審配の拝領で決められることとなる。

 試合の状況的に、しっかりとダメージを与えたのはエイトさんの方が多い。

 ただ、最後まで戦い抜いたマルティさんの方を評価するのか……。


 ――こういう場合、大貴族が優遇されるのだろうか。


 中央付近に立つマルティさんとエイトさんともに、泥まみれで、ものすごく疲れ切っていた。立つのもやっとだ。


「審査の結果が出た。どちらも共に素晴らしい戦いであった」


 審査委員長のように、前に出たのはキースさんだった。

 彼の体は魔力で守られているからか、雨の影響を一切受けていない。乾いたローブが風に揺られ、どこか異界の存在に見える。


「審査員三名でどちらが優勢だったか話合い、二対一でマルティ・マドロフの勝利とする」


 キースさんはマルティさんの手首を握り、高く持ち上げた。

 ボクシングの勝者に行うような勝敗の見せ方……。

 マルティさんの方は口と目を開いて、現実かどうかわかっていない。

 エイトさんの方は、この世に絶望したかのように泣きたそうな顔で、下唇を噛みしめていた。


「どちらが勝ってもおかしくなかった。ただ、最後まで戦う意志を見せたマルティの方がエイトの一歩先をいっていた」


 キースさんは周りの者が納得するように、軽く話したあと両者の頭に手を置いて優しく微笑みかける。

 どちらも同じくらい素晴らしかったのだろう。勝負だから、勝敗が付いてしまうが、彼からしたらどちらも勝者と言いたいに決まっている。


「しっかりと休むといい。そして、この経験を次にいかすんだ」


 キースさんの言葉を掛けられていた、エイトさんは茫然としている。

 自分があのマルティさんに負けたのかと……。あり得ない状況で、これは悪い夢なのではないかと、考えていそう。

 でも、これは紛れもない現実。

 三本勝負の内、まさか一本目をマルティさんが取ると私も予想していなかった。

 エイトさんがこのまま、崩れたらおそらく次の戦いもマルティさんが勝ってしまうだろう。

 マルティさんの努力とリーファさんへの思いが、エイトさんに勝った瞬間だった。


 両者は別方向の出口に歩いていく。

 あまりにも、酷な戦いで審判が肩を貸さないと歩けないだろう。

 エイトさんの方の傷は左腕だけ。魔力を体に入れれば、すぐに回復するはず。

 マルティさんの方は全身に電撃を食らったため、全身筋肉痛のような痛みを受けているに違いない。


 両者の戦いが終わってなお、まだ多くの者がエイトさんが負けたという状況を飲み込めていなかった。

 そりゃあ、一撃で勝負がつくエイトさんが負けるなど誰も思っていなかっただろう。相手がマルティさんならなおさらだ……。


「え、エイト様が負けたらしいぜ」

「あ、ああ……、マルティが勝ったんだな」


 生徒たちも半信半疑。

 宝くじが当たったのに、これが本当に当たりなのかと疑心暗鬼に陥るような状況。

 エイトさんが負けて、マルティさんが勝ったと、誰も信じ込めていない。


「はぁ……、こりゃ、ちょっと心が折れるどころじゃないなぁ……」


 マルティさんが勝ててほっとしている私と、エイトさんが負けて心配している私がいる。

 ただ、エイトさんが負けてよかったと思ってしまう自分もいる。

 自分より格下に勝っても心は治らない。一度人生のどん底を見て、這い上がってこそ本物の強者になれるはずだ。


 立ち直るためには、折れた心をくっ付け直すのではなく、新たな心を生み出すくらいの力が必要になる。

 そりゃあもう、凄く苦しいだろう。辛いだろう。

 でも、強くなるために、必要な過程だ。

 人は勝って強くなるわけじゃない。負けて強くなる。

 ほんと、負けるのに何で強くなるのだと思うけれど、負けた時の方が得られる品が多いというのが大きな理由になる。

 エイトさんも負けたという事実を受け止めて、得られた品をうまく活用すれば今以上に強くなれるはずだ。

 ただ……、そこまで心が治るのかどうか……。そこだけが懸念点である。


 九試合目が始まり、三年生が自分の将来のため、戦い出した。

 周りはまだ、マルティさんとエイトさんの戦いの余韻に浸っており、残念ながら中央で行われている戦いは誰も興味を持っていない。


 私はビーの視線を使い、マルティさんの後を追う。

 彼が闘技場の中に入ると、進む先にリーファさんとモクルさんがいた。

 両者とも、すでに泣いている。まさか、マルティさんがエイトさんに勝てるなんてと言いたそうな顔。でも、勝ってしまった。


「か、勝てた……」

「うん、そうだよ。マルティ君はエイトくんに勝ったんだよ……」


 リーファさんはマルティさんより嬉し泣きしており、泥だらけの彼に抱き着く。

 泥臭くても勝ちは勝ち。キースさんが決めたのだから、誰も文句は付けられない。

 マルティさんがエイトさんに勝ったという事実は覆らない。


「マルティさんはやる男だと思っていたが……、まさかここまでなんて……」


 モクルさんも大好きなマルティさんが勝ってくれて相当嬉しかったのか、もう目の下が赤く腫れている。

 何度も泣いて、手で擦ったのだろう。戦っている最中から泣いていたのかもしれない。


「……これでエイトくんも本気になったはずだ。次が本当の勝負になる。きっと、今回よりも確実に厳しい戦いだ。でも、負けるつもりはないよ」


 マルティさんはまだまだ成長し続けていきそうな勢いがあった。


「エイトさんは、きっとマルティくんを見直していると思うよ。だって、あんなに見下していたんだもん。そんなマルティくんに負けたんだから、マルティくんを凄い奴だって、認めたに決まってるよ!」


 リーファさんはマルティさんがエイトさんに勝って本当に嬉しいようで、ずっと有頂天になっていた。

 戦う前のエイトさんの方がどうなっていたのか全くわかっていないのに……。


 私はエイトさんの方に付けていたビーの視界を共有してもらう。


「……エ、エイト様」

「エ、エイト様……?」


 取り巻きの二名はエイトさんの茫然とした表情を見て、どう声を掛けたらいいのか戸惑っている様子だった。

 そりゃあ、あのエイトさんが負けるなど一切思っていなかったはずだ。

 それは、エイトさん本人もそうだろう。

 まさか、自分がマルティさんに負けるなど、微塵も思っていなかったはずだ。

 その相手に負けた。

 脳が理解を遅れさせている。一歩歩くごとに、自分が負けたのだと理解できてしまうのか、表情が暗くなっていく。


「……お、俺は、マルティに負けたのか?」

「……二対一で負けました」

「で、でも、きっとあと少し時間があれば、エイト様の勝ちでしたよ!」


 取り巻きの二名は少しでもエイトさんの機嫌をなだめようと声をかけ続ける。

 だが、エイトさん本人はずっと顔が固まって、動いていない。

 頬に触れて、マルティさんに殴られた時を思い返している様子だった。

 あの一撃がなければ、もしかしたら自分が勝っていたかもしれない。

 もっと早く剣を持ち上げて切り伏せていたら自分が勝っていたかもしれない。

 かもしれない、という考えが巡り続けているような様子を見るに、自分が負けたのだと理解させられてしまっている。


「……俺はマルティに負けた。負けたのか……、俺が……」


 いら立っている様子はない。どこか、不思議な雰囲気。

 いつも、ピリピリしている彼が少し和やかに笑った。

 顔は良いので、笑みを浮かべると可愛いよりのイケメンになっている。彼が笑うなんて……。

 相当怖かったのか取り巻き二名は打ち震えていた。

 それだけ、エイトさんの笑みを見た覚えがなかったのだろう。


「……もう、試合は終わった。今日は何か食って寝る」


 エイトさんは取り巻き二名にそういうと、さっさと治療を施してから闘技場を後にした。

 怒りに任せてマルティさんに奇襲を仕掛けるといった情けない男ではないらしい。

 悔しいはずだが、それを飲み込んでいる。

 その部分はものすごく強い。

 だが、負けていいなど思っているわけもなく、取り巻き二名に見せないよう、歯を食いしばり雨の中で体温と同じ熱をはらんだ雫を静かに流している。


 試合は午後五時まで続いた。

 三年生の戦いはざっと半分くらいまで終わった。

 その中で、リーファさんとモクルさんの戦いはなかったので、明日に持ち越されたと思われる。

 皆、二名の戦いを楽しみにしていたので、少々やるせない表情だったが、マルティさんとエイトさんの戦いが見れただけで満足そうだ。

 大貴族が負けることもよくあるのか、大貴族への不満を漏らす声は一切ない。

 エイトさんの調子が悪かったのだろうという者、マルティさんが強くなったのだという者、色々な憶測が飛び交っている。

 下剋上が果たされたわけだが、この世界に武士の文化があるかどうか知らないので、下剋上という言葉は飛びかわない。

 まあ、中貴族が大貴族に勝ったという話はドラグニティ魔法学園の中で、一気に広がるだろう。


 午後五時を過ぎ、さっさと冒険者女子寮に帰る。その途中、ミーナとメロアも一緒だ。


「マルティさんとエイトさんの戦い、凄かったね。なんか、意地と意地の張り合いみたいだった」

「そうね……。でも、エイトさんは相当悔しいと思う。あと少しで勝てたんだもん」


 ミーナとメロアは今日、一番の盛り上がりを見せていた二名の戦いを話し合っていた。


「にしても、マルティさんってカッコよかったね。なんか、泥まみれなのに頑張っている姿を見たら、ドキドキしちゃった」

「わかるわかる。あの必死に格上に勝とうとする姿。凄くカッコよかった。ちょっとニクスお兄ちゃんみたいに見えちゃったよ」


 ミーナとメロアは三年生のマルティさんを脳内に思い浮かべているのか、乙女の表情になっていた。

 両者共に好きな相手がいるのに、推しになってしまうような男性が現れたのかもしれない。

 きっと、あの戦いでマルティさんが好きになってしまった女子は多いだろう。

 自分も見習いたいと思った男子もいるに違いない。

 多くの者から注目されるようになるかも。

 顔が良いので、その点だけで周りから目を引く。

 でも、先生でもわからなかったくらい、眼鏡を掛けたら印象が変わるので、普段の彼を見て、カッコいいと思う者がどれだけいるのか……。

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