一日目の試験終了
私は『ファイアボール』を左手に乗せて杖先から『ウォーターボール』を作る。曲芸師じゃないんだから、球遊びみたいなことさせないでほしい。
「……別の属性の魔法。無詠唱。前に作りだした魔法が霧散せず、残っている」
キースさんは顎に手を当てて、苦笑いを浮かべている。
――あぁ、私、何か不味いことでもしているのだろうか。もう、やっちゃったから、今更だけど。
「キララは魔法を維持する力が異様に高い。素質か、はたまた何かの影響でそうなったのか」
「それなら、魔力を使って魔力体を作り出す練習の影響かもしれません……」
「魔力体を作り出す練習?」
キースさんは私のヘンテコ発言が理解できないのか、首をひねっている。
まあ、普通の魔法使いは魔力が尽きないように管理しているから、自分で無理やり魔力をひねり出すなど、謎行為だろう。
私は中級魔法を解除し、魔力を霧散させる。
だが、ベスパの方に流れて行った。
通常、魔法は発動を止めると魔力となって空気中に消える。
だが、私の魔力は自然の魔力と同じ、または特別性なのか、使われないと戻ってくる。
その性質の影響で、あまりに大量の魔力が体に入ってしまう。そう言う話しを皆の前でするのは少々怖かった。なんせ、他国の諜報員であるスージアやサキア嬢がいるのだ。
キースさんに、そう言う話はしてあるので周りのことは気にせず、私は彼に魔力体を作るという話をする。
「えっと、私、他の人よりも魔力が多いので、暇な時は自分の魔力を使って粘土細工を作るみたいに、魔力で物体を作るんです」
私は手の平を擦り合わせるようにこねこねして、光る球を作る。三個作ったら、お手玉して見せた。
「なるほど、魔力操作と同じか……。キララの魔力量と性質、練度のおかげで魔法が安定しきっているわけだな」
キースさんは私の性質を理解した上で、納得したらしい。魔力の質は皆違う。
私が魔力体を作るのは、自分の命を守るためだったが、どうも魔法の維持や制御といった点の練習にもなっていたらしい。
熟練を超えて匠になってしまったようだ。
「えっと、あまりがやがやすると、ミーナに悪いので……、もう、いいですか?」
「あ、ああ……、そうだな……。少々、本題とずれてしまった。魔法学基礎の評価をしなければならないというのに」
キースさんは羽ペンを素早く動かし、私に追加注文をすることなく試験が終わった。
でもそうなると、期末試験の時はどうしたらいいのだろうか。また同じことをすれば単位が貰えるのかな……。いや、逆に筆記試験を受けないといけないという可能性もあるか。まあ、それならそれで、いいんだけれど。
「ドラグニティ学園長、僕も筆記試験を受けていいですか。そっちの方が自信があります!」
パーズは実技が不甲斐ない結果だったのか、得意の筆記試験を受けたいと言い出した。
もう、時間は三〇分ほどしか残っていない。まあ、答えを書くだけなら、一〇分も掛からないだろう。
彼の頭の中に答えがあるような状態だと思うから、まったく不正なく、答えを丸写しできる。
「構わない。時間を持て余すのなら、筆記試験も受けるといい」
キースさんはパーズに試験用紙を渡す。
「ありがとうございます」
パーズは筆記試験ができてうれしいとでも言わんばかり。まあ、勉強ができる奴は試験が楽しくて仕方がないだろう。自分の実力を試せる機会なんだから。
私は面倒臭いからやならない……。
他の者も、実技試験だけでいいのなら、それに越したことは無いという表情を浮かべている。
解こうと思えば解けるけどね、と……いう雰囲気を放っているのが何とも、インテリ系って感じ。
「キララ、ちょっと……」
キースさんは誰もいない方の角に向かった。
私を呼びつけて、何を言うのか。本当はあまり行きたくないが、呼ばれたのだから行かざるを得ない。
「キララ……、わしにも魔力で物体を作る方法を教えてくれ……」
「ふえぇ?」
「いやぁ、キララほど、上手く出来る自信がなくてな。面白そうだし、わしもやってみたい」
キースさんはまるで新しいゲームを見つけた子供のような眼差しを向けてくる。
もう、八〇代だというのに魔法に関する新たな探求が尽きない様子。
こりゃあ、魔法使いで最も高みに昇る人だ……と思わされた。学習意欲が高すぎる。
「え、えっと……、コツは魔力を圧縮して密度を増すようにすることと、自分が嫌いな物体にすることですかね。自分の嫌いな品って案外鮮明に覚えているじゃないですか。好きな物より、嫌いな物の方が想像して作りやすいと思います」
「なるほどなるほど……」
キースさんは両手を握り合わせ、ぐにぐにと魔力を圧縮し少しずつ魔力体を形成している。
元から、彼の魔力操作は卓越しているため、粘土細工のようにするのはたやすいのだろう。
彼が作り出したのは、私の想像通り、ブラットディアだった……。
「お、おぉ……。き、きんもいのぉ……」
キースさんの掌の上でブラットディアの魔力体がカサカサと蠢いている。
彼が魔力体を作っても、その魔力は空中に霧散してしまうため、本当に遊びで何の意味もない。
私の魔力だと、私の元に戻ってくるため、どれだけ魔力体を作っても保管しておける。
「この状態を維持させておくだけでも、いい練習になるな。上級生たちにもやらせてみるか」
キースさんは新しい魔法の練習方法でも発見したかのように、満面の笑みを浮かべ、ブラットディアの魔力体を床に落とす。
そのまま、靴裏でドスドスと踏みつぶしていた。
「ははは、おらおらっ。日頃のうらみぃっ!」
キースさんのブラットディアに対するイライラが、爆発している。今は試験中なので、静かにしてもらわないと。
私は胸もとについているディアを手の平に乗せ、キースさんに見せる。
彼は言葉を失い。すぐに気絶してしまった。
――こりゃ、私より重症なのではないだろうか……。
キースさんが眠ってしまったという嘘をつき、椅子に座らせておく。まあ、すぐに眼を覚ますと思うので、このまま放っておこう。年よりを脅かすのは心臓に悪いので、あまりやらない方がいい。
私はこの間、何をしていようかと考えていた。
自分の席に座り、ボーっとしているのももったいない。せっかく勉強したなら、筆記試験を受けようかなんて思うが、すでに残り時間は八分。
そんなすぐに解ける問題でもないと思うので、今回はパスする。八分間くらい、瞑想でもしておくか……。
私は椅子に座りながら、八分の間瞑想に入った。
瞑想するだけで、大量の魔力が増えてしまうのが、少々問題だが、その間に手の平に魔力を圧縮しておけばいい。
息を吸って吐く。それだけのこと。
八分が過ぎるとキースさんが目を覚まし、試験を辞めさせる。
「あぁー、終わったぁ~」
ミーナは両手を天井に伸ばし、胸を張って背中を反らせた。体が柔らかいため、そのまま折れてしまいそうになる。
「では、答案用紙を回収する」
キースさんはミーナとパーズから答案用紙を受け取り、封筒の中に入れていた。
「じゃあ、この後の試験も頑張るように。午後からは自分たちが好きなように過ごすといい。上級生の試験を見に行くのもいいと思うぞ。まあ、明日の試験の余裕があるのならな」
キースさんは教室を出て行き、私たちは教室に取り残される。
筆記試験を受けていたミーナは疲れている模様。それ以外は平然としている。
私は手の平の中にある魔力を魔力操作でミツバチの形にする。
小さな個体が八匹作れるほどの魔力量……。
私の魔力は鼠算的に増えていくため、時間が立てばたつほど魔力量が莫大に増えてしまう。
いつか、ベスパが二体くらいいないと私の体が爆発してしまうんじゃないかと不安だ。
私が作った魔力体はぶーんと飛んで行く。家の方に行くのか、寮の方に行くのか……。どちらでも構わない。結局、私の魔力なので必要な時に魔力になってくれさえすれば。
「ミーナ、頑張って。次の試験が終われば休憩できるから」
「う、うぅん……。もう、一教科だけでいい……。毎日一教科だけにしてぇ……」
ミーナはお疲れの様子。
私はビーの子をミーナにあげて、頭の回転を少しでも良くしてもらった。お腹が減っていたら、頭が回らないし、魔力が枯渇していても辛いだけだ。
彼女は単純なので、お腹が満腹になればやる気が増す。魔力が増えてもやる気が増すため「うおおおっ! 次の試験も頑張るよっ!」と、盛大にやる気になっている。
母国語の試験が九〇分ほどあり、長いなーと思いながら勉強したとおりに回答を書いていく。
私の文字は汚いため、先生が読めるような文字で書かなければならない。
その分、時間がかかるので、制限時間ギリギリになってしまう。
ベスパに書いてもらえば、綺麗な文字になるので頼ってもいいが、それだと不正になりそうなので手書きしている。
二限目のテストが終わり、時間は一一時五○分ごろ。
「やったぁー! おわったぁっ!」
ミーナはもうテストが全て終わったかのように喜びまくっていた。
別に、まだテストは全て終わったわけじゃないのだけれど……。まあ、喜んでいるのなら、このまま喜ばせておけばいいかと思い、私は何も言わなかった。
「この後どうする? 昼食、それとも、三年生の試験を見に行く?」
メロアは私たちに向って話しかけて来た。同じ寮の生徒なので、仲がいい証拠かな。
「私、モクル先輩の戦いを見に行きたいっ! 何か、噂だと、リーファ生徒会長と戦うんでしょ! 絶対面白いじゃん!」
ミーナはどこから噂を聞いたのか、モクルさんとリーファさんが戦うのを知っていた。
「私も、その試合を見たいと思ってたんだよ。でも、午前中に終わっていたら見られないよね」
「三年生の試験は午前中に一年二年の筆記試験があって先生の数が減るから、午後に三年生の実技試験が組み込まれているはず。だから、まだ、三年生は試験していないと思いますよ」
「なるほど……、じゃあ、どこの闘技場で戦うんだろう……」
「第一闘技場じゃないかな。一番格式が高そうだし……」
三つある闘技場の内、最初に作れた闘技場なのだから、三年生の実技試験もそこで行われるはず。まあ、試験の内容によると思うけれど。
「とにかく、行ってみればわかる。でも、お腹が減ったから先に昼食を済ませちゃおう!」
ミーナはお腹がペコペコなようで、早く昼食にしたいと聞かなかった。
私とミーナ、メロアは一緒に昼食を得に、全校生徒が使える食堂に移動した。
あまりこの場に来ていなかったが、今日も大盛況……。
「あそこ見て、ニクス様の妹のメロア様よ……、今日も獣族といるわ」
「獣族と、村娘を連れているなんて、ニクス様の妹という地位が分かっておられるのかしら」
他の女子生徒はメロアをニクスさんの妹で、村娘の私と獣族のミーナを連れている変人と思われているっぽい。
まあ、その方が、周りの目をごまかせるので彼女の下についてもいいか。拘わらないのが一番だけど。




