~ハザマノマチノクリエイターズ~
【狭間の街】それはどこにでもあってどこにもない場所。
曰く、ありとあらゆるものがそろう場所……
曰く、この世ならざる技術があふれる場所……
曰く、年がら年中昼夜を問わずお祭り騒ぎの場所……
その存在を知る人達に問えば問うほど異なった答えが返ってくるその場所は、どこにあるか、どう行けば行き着くのか、だれも細かな答えを語るものはいない。しかし、問いを投げかけた人々が共通して身に着けているモノがあった、それは…………
花菱 文は頭を抱えていた。何に? 目の前に広げたメモ帳に記したバツ印に、だ。
場所は駅前の黄色に赤のマークで有名なチェーンのファストフード店、2階の窓際に据えられたカウンタータイプのから外を見れば、多くの人々が流れ、行きかい、じっと見ていると波のようにも見えてくる。しかしそんな雑踏には目もくれず、彼女はメモ帳を鬼のような形相で見つめていた。メモ帳には何十件もの会社の名前が書き連ねられ、その会社の特徴や雰囲気、理念などがびっしりと書き込まれていた……そのすべての横にバツ印がついていたが。
いったん視線を外し首を軽く振りもう一度メモ帳をにらみ、少しの後また視線を外し、天を見上げ、また睨みつけ……かれこれ1時間は同じ動作を繰り返しているだろうか。時折「あああ……」や「いやでもひょっとして……」や「ああああやっぱり……」等と譫言のように繰り返すその様は、はた目から見れば思わずそっとしておいてあげたくなるほどに悲壮感が漂っていた。周囲のほかの客も気を使ってかそれとも居心地が悪いのか、昼食時で満席になるであろうその場所は、彼女の周囲だけぽっかりと空いていた。
「あああ……やっぱりどう見てもだめだぁ……」
それからさらに15分ほど後、いよいよ彼女はメモ帳を投げやりに閉じ盛大なため息とともにテーブルに突っ伏す。どうあがいてもこの結果は変わらないであろう、その認めたくないである事実をようやく受け入れたようであった。突っ伏したままおもむろに注文したドリンクに手を伸ばし、冷たかったであろうそれがすっかり常温に戻っていることにさらに大きなため息をつき、彼女は視線を窓の外に向ける。
「はぁ……全滅……大手はそりゃ無理があったとしても中堅、下請け、挙句の果てには全く関係のない事務職まで……就職ってこんなに難しいものなの……?」
まるで死んだ焼き魚のような虚ろな目で、乾いた笑いを浮かべながら独り言ちる。いくら就職氷河期のこのご時世といってもここまで完膚なきまでに就活を失敗しているのは珍しい部類であろう。そんな嬉しくも何ともない部類にはまり込んだ自身を呪いながら、彼女はぬるいにもほどがあるオレンジジュースを力なく啜る。
都会での生活を夢見て田舎から上京してきたのは何時のことだっただろうか……? 実際は2週間も経っていないわけではあるが、彼女にとってはもう何年も前のことのように感じる。両親には無理はせずに地元で働けばいいのに……と言われ、同級生からはさすがに夢を見すぎだから頭を冷やせと言われ、それでもそれらをはねのけてこの町、虹淵市まで出てきたのは、ひとえにどうしてもやりたい事があったからだった。しかしここまで惨敗というのは余りにもな話ではないだろうか……ただ何をするでもなく、虚無の心境で外を眺める。自分の生まれ育った田舎とは違い、活気にあふれ生き生きしている。こんな場所であこがれの職業に就き、活躍してみたい。その気持ちも今や消し炭の灰のように真っ白である。
「…………地元に帰る……しかない、のかな……」
ぽつりとこぼしたその言葉は、自分でも笑ってしまうほど敗北感に満ちていた。やはり分不相応であったのだ。大人しく地元に帰って親の紹介で職場
を見つけるか、それとも花嫁修業とやらに力を注いでお見合いでもしてみるか……投げやりにそんなことを考えながらオレンジジュースの入ったカップをトレイに置きメモ帳をカバンに仕舞おうと閉じ──ふと、バツ印がついていない企業の名前が目に入った。
「あれ?さっき全部バツ印付けたと思ったんだけど……」
自分の記憶違いだったのだろうか。書かれたものを見れば特徴なども何も書かれていない、書かれていたのは企業の名前と思われるであろうそれと、電話番号のみ。
「こんなの書いたっけ……えっとハザマクリエイトカンパニー……?」
その名前にはまったくもって心当たりがない。そもそもこんな社名聞いたこともないし、調べた記憶もない。徹夜で調べているときに寝ぼけて書き間違えたのだろうか。
しかしそれにしてはしっかりとした筆跡で書かれており、電話番号もちゃんと書いている。やはり自分のチェックミスだったのだろうか……そんなことをぼんやり考えながらも、これは最後のチャンスなのかもしれない。ふとそんな考えが浮かぶ。
「……最後に、頑張ってみようかな」
これでだめだったら大人しく実家に帰ろう。もしかしたら自分以上に頑張ってる人もいるのかもしれないけど、自分にはこれが限界だ。最後くらい、精いっぱい全力を出し切ってみよう。そう思い、書かれた電話番号をスマートホンに打ち込む。そして発信キーをタップする段階、そこでいったん指を止め、ゆっくりと息を吸い、吐き出す。覚悟は決まった。
「……よし!」
小さく気合を入れ、彼女は発信キーを押す。数瞬のうち、なり始めるコール。
1回
2回…
3回……
そして三回目のコールが終わり、4回目に入ろうかというその時であった。
「はい、お電話ありがとうございます。ハザマクリエイトカンパニーです」
初めまして、紅屋 酒桜と申します。力まず頑張って更新していこうと思うので応援よろしくお願いします。




