57 遺跡の中
うっかり、カインに抱きしめられ、周りから生暖かい目で見られたエリカです。
いや、ただの幼なじみ、ご近所さんだがらねっ!
「もうよろしいかな?」
不思議な声が響く。
声のする方に振り向くと、四神の像の真ん中に小さな紳士がいた。
燕尾服にスティックを持ったロマンスグレーのおじ様だ。
「私はここを管理するセバスと申します。さて、試練を果たした強き者よ、そなた達が門の中に入ることを許可します」
ちょびひげ紳士がサッと手を挙げてスティックを振ると、扉に刻まれた美しい彫刻が光り出す。
彫刻の木々の花が開き、蝶が舞い、小鳥が歌う。
花が散り、実が実り、熟して落ちた。そして種が芽吹く。
双葉が輝き、重厚な扉は音もなく開いていく。
門の中に入る前に、ハルカに危険だからここで待ってて欲しいとお願いしたが、
ハルカは最後まで見届けたいと、きかなかった。
危険なときは、皆を置いて一人でも逃げてねと、約束して皆で中に入った。
遺跡の中は天井が高く、中世のフレスコ画の描かれた教会を思わせた。
天窓から射す陽ざしで良く磨かれた大理石の床は、ピカピカに光っている。
外から見る古い遺跡と違って、中は出来たばかりの宮殿ようだった。
白で統一された壮麗な大広間に、コリント様式の華麗な柱が均等に並ぶ。
明かりの魔道具がいくつもふわふわと浮かぶ。
幾多の宙に浮かんだ魔道具の灯りが、星のように煌めく。
あまりの美しさに、皆、声も出なかった。
広い部屋の一番奥、一段高くなった祭壇と思われる場所に、黄金色に輝く巨大なものが見えた。
それは、幾重の魔術の鎖で縛られていた。
何だろう?という一同の心の声が聞こえたかのように、小さな紳士が答えた。
「あれが我が主、黄龍さまです。黄龍さまは、遙か昔、心を病み狂い竜としてここに封印されました」
広い部屋の一番奥に目をこらすと、幾重の鎖に縛られて眠る巨大な黄金の竜がいた。
黄金の鱗に覆われた爬虫類を思わせる体、2本の角、コウモリを思わせる大きな翼、鋭い鉤爪と牙、太い尾。
よく見ると鎖が1本外れている。
「そうです。先日、封印の鎖が1本外れてしまいました」
この紳士、心を読むのだろうか?
「その時、主の魔力も少し外に溢れ出してしまいまして、それにあてられたモンスターが活性化してしまいました」
ああ、やっぱりここの竜が、魔物の活性化の原因だったのだ。
「この国の王子アルベルトです。モンスターの活性化を鎮めるため、ここに参りました。セバス殿、外れた鎖を再度、架けることはできないのでしょうか?」
「この封印は、先の竜の長が施したもの。人間が封印することは出来ないでしょう」
――その時、バリバリバリと轟音が響くとともに、膨大な魔力が溢れた。
また、ひとつ封印の鎖が外れたのだ。
膨大な魔力に当たられて、身体が燃えるように熱く苦しくて動けなくなった。
床にうずくまって、どれくらい時間が立ったのだろう。
ようやく人心地ついて立ち上がると、ハルカと私以外のメンバーは皆、床に倒れていた。
気を失っているようだ。
「ほう、人間でこの魔力の中、動ける者があろうとは! なぜ、貴女たちは人間ではあり得ないほど魔力があるのですか?」
セバスさんが、目を見張る。
ええと、乙女ゲームの主人公だからです!とは、言えないよね?
「ほほう」とセバスさんが面白そうに目を細めた。
あ、やっぱり心を読んでる。
ひゅうと風がおこる。
「いかん! 主の目が覚めつつあるようです!」
「ハルカ、逃げて!」
ハルカが逃げようとするが、何かに阻まれて外に出られない。
「さすが主! 意識のない中でも結界を張られたようです」
いや、褒めないで、こっちは困ってるから…… 逃がしてえぇぇー!!!