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第1章 第5話 終焉の魔王⑮

「もぐもぐ。…ごくん。」


ノラは口の中の食べ物を飲み込む。


「あむ。…もぐもぐ。」


しかしそうやって折角空いた口に彼女は料理を詰め込む。話があると言っていたがまさか本気で口で話さないつもりなのか?


(話っていうのは他でもないわ。)


果たして予想は的中した。ノラは僕の頭に直接話し掛けてくる。


(これから先の話だけど、私達はエレツにある実家に帰ろうと思うの。)

「そうか。じゃあまたよろしくな。」

(よろしくって何言ってるの?私はもうあんたのためには戦わないわよ。)

「え?」

(だって私があんたに協力してたのはこの国の魔王を倒すためだったじゃない。)

「いや、そうだけど…。」

(だからここでお別れ。アーサーもエレツに行くなら向こうで会えるかもね。)


それだけ伝えるとノラは言いたいことは言ったとばかりに僕に背を向け、立ち去ろうとする。


「ノラ。ちょっと待てよ。」

「待たないわよ。」


今度はノラは自分の口でそう言った。一度向けた背を返し、僕に迫りくる。


「『待って下さい』でしょ?あんたは世界が自分の思った通りの世界になると思ってるの?自分の知ってることが世界の全てだと思ってるの?」

「え、いや…えっと。」

「私が、私達がいつまでもあんたの味方でいると思った?ずっとあんたのことを守らないといけないっていう決まりでもあるの?」


僕は勘違いしていたのかもしれない。自分の持ってる知識を特別なものだと思い、自分に価値があると思い込んでいた。でもそんなものノラとシニステルとデキステルにとっては無価値に等しい。

三人がこの島で力を貸してくれたのは三人にとってこの島が未知の島だったからだ。しかしエレツのこととなると話は別だ。エレツは三人の故郷で僕の出る幕なんてない。


「ごめんノラ。君の言う通り、エレツにおける戦闘で僕は無価値に等しい。同盟はここで解消だ。」

「そう。…やけに物分かりがいいのね。」

「ああ、昨日の戦いで、僕は万全を期していた。それなのに三人は計画にないほどの深手を負ってしまった。そろそろ自分の態度を改める頃かなと思って。…君達がいなくなると戦力的にも大きな穴が開くし、寂しくもなるけど仕方ない。」

「うん。」

「今までありがとう。元気でな。」

「うん。って、違うでしょ!」

「え?」


ノラが突然叫びだしたかと思えば激しいツッコミを入れてきた。


「違うでしょ。そうじゃないでしょ。今言うべきことはそれじゃないでしょ!?」


ノラは手に持った皿を亜空間に転送し、それによって空いた両手で僕の胸ぐらを掴んで揺さぶる。


「あんたは私達に匹敵するくらいの戦力に心当たりでもあるの?知識と屁理屈だけでエレツに勝つ策でもあるの?地の文にツッコミを入れてもらえなくなってもいいの?」


脳震盪のうしんとうを起こしかねないほどの勢いで僕は揺さぶられる。


「ま、まて、ノラ、止まれ、話しにくい。」


ノラは素直に揺さぶりを中止する。しかし手はまだ放されない。ノラはじっと僕の目を、あるいは目の奥の網膜を睨みつける。


「えっと、空いた戦闘力の当てはない。普通に考えてお前達に匹敵する戦力がそこらへんに転がってるわけないだろ。」

「じゃあなんであんなにあっさり私達のこと諦めたのよ?」

「だって本人にやる気がないんじゃ協力してもらっても仕方ないだろ。」

「やる気がないのはあんたでしょ!そこは意地でも協力させなさい!」

「お前は一体どうして欲しいんだ…。」

「私がどうして欲しいかなんてどうでもいいのよ。あんたはどうしてほしいの?」


僕が、か。僕、つまりはアーサー・マクダナム、全知の策士。しかし果たして僕はその自分を僕と呼べるのか。僕の行動は本当に僕の意志によるものなのか。


「僕は…」


僕と僕の大切な人の人生を奪ったあの本について真実を知りたい。

知ってどうするわけでもないが。その上知ったところで何かが許されるわけでも、何かが戻ってくるわけでもない。自分勝手と言ったこともあったが、冷静に考えてみればそこに自分はいなかったのかもしれない。


「僕はただ」


ならばやはり僕は探しているんだな。僕が拾ったこの命の意味と知識の価値を。自分は生きてもいいという証明として。


「一度は無くしてしまったけど…もう一度手に入れたいと思ってる。自分が生きていける場所を。」

「それには私達が必要なの?」

「必要だ。いて欲しい。助けて欲しい。また力を貸して欲しい。」

「貸して欲しい。か。そういえば貸した分の力を返すまで一緒にいてくれるんだっけ。私としては踏み倒してくれてもいいんだけど。」

「なら踏み倒させてもらう。でも一緒に戦ってくれ。」

「ふざけるな。一緒に戦ってる限り返済義務は発生するわよ。」

「なら返し続けるよ。だからこれからもよろしくな。」

「うん。」


僕達は互いに手を握り合う。気のせいか、魔法よりも呪いよりも強い何かが刻み込まれた気がする。相手がノラとなると少しばかり恐怖と危機感が芽生えるが。


「じゃ、そういうことで話は終わり。」

「うん。」


ノラは再び僕に背を向けて宴会の会場を目指して歩き始める。


「あ、そうだ。私ここを出る前に髪切ろうと思うんだけど、どう思う?」


ノラは背を向けたまま謎の質問を投げかけてくる。


「え?どうって…。ご愁傷様でした。」

「失恋じゃないわよ!」


ノラはすごい速さで振り返り、同時に魔法で突風を起こす。僕は素直にその風に吹き飛ばされる。

幸か不幸か後方にあった大木に激突し、そこまで遠くへは飛ばされなかった。しかしいかんせん背中が痛い。


「ぐ…ぐはっ。」

「何か言い残す言葉はある?」


手に灰色のオーラをまとってノラはじりじりと僕に接近する。

命の意味をどうたらとか言ってたくせに、その命をさっそく無くしてしまいそうだ。


「に、似合うんじゃないのか?短いのも。」

「はあ、なら初めからそう言いなさいよ。」


ノラは三度みたび僕に背を向け、今度こそ宴会の会場へ戻っていく。命拾いした。


「まったく…いてて。」


軽く悪態をつきながら僕は立ち上がる。背中と腰の具合を確かめながら歩き出す。今はもう、難しい考え事はするまい。宴会に戻って勝利を喜ぶとしよう。


そんな痛々しい落ちで波斗原での冒険は幕を閉じる。

そして次に目指すのは大国エレツ。一つの首都と五つの州からなる巨大国家。生息するのは人間と、その数をはるかに上回る数の魔物。

万全の剣士と万能の魔術師、全能のカタリスト姉弟。そこに僕、全知の策士を加えた全知全能で挑む大冒険。さてどうなることやら。

これで第1章は完結です。登場人物紹介も投稿しますのでそちらもどうぞ。

この後は第2章に入る前に番外編を二、三投稿し、第0章も投稿します。内容的には潮離と慎瑞に焦点を当てたものになると思います。

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