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第一話

「……これはいったい、どういうことだ?」

魔王城の玉座の間。

深紅のドレスをまとい、威厳ある冷たい美貌をたたえる魔王様――その名はアイリス。しかし、現在彼女の眼前に広がっているのは、魔王軍の威信を揺るがす大参事であった。

「ふふふ、魔王様。そんなに怖い顔をなさらないでくださいませ」

「そうですよ、お姉様。せっかく私たちが人間界から極上のスイーツを仕入れてきたのですから!」

そう言ってアイリスの両脇にピタリと寄り添うのは、一卵性の双子のサキュバス、リリィとルルゥである。

小悪魔的な魅力を振りまく彼女たちは、それぞれに禍々しくも甘い香りを放つ極上のスイーツを手にしていた。

リリィが差し出したのは、紫色のアイスがのった、幾重にも層を重ねるパフェ。

ルルゥが差し出したのは、とろけるようなチョコレートと真っ赤なベリーが飾られた、焼きたてのフォンダンショコラだ。

「人間界の勇者どもを討伐しに行くはずが、まさかお前たちが『甘味の買い出し』に精を出していたとはな……。しかも、この私がそんなものに屈するとでも思っているのか?」

アイリスはフンと鼻を鳴らし、ぷるると小さく震える魅惑のスイーツから必死に視線を逸らした。

だが、隠しきれない。魔王としての誇りと、甘いものへの本能的な欲望が、彼女の脳内で凄まじいデッドヒートを繰り広げているのだ。なにせ、ここ最近の魔界は深刻な財政難。高級スイーツなど、数百年口にしていない。

「おや、強がりですねぇ、魔王様」

リリィが意地悪く微笑み、紫色のクリームをすくって、アイリスの唇のすぐ近くへと近づけた。

「ほら、一口食べれば、日頃の激務のストレスなんて一瞬で吹き飛びますよ。あーん、してみてくださいな?」

「なっ……! サキュバス風情が生意気な……!」

アイリスの頬がほんのりと朱色に染まる。サキュバス特有の惑わす魔力がスイーツに乗せられているのか、それとも単に見た目が美味しすぎるのか、心臓がやけにうるさい。

「お姉様、リリィばかりズルいですよ! 私の作ったフォンダンショコラなんて、ナイフを入れたら中からトロトロのチョコが溢れ出てくるんですからね!」

ルルゥも負けじと、温かいチョコレートの香りをアイリスの鼻先に漂わせる。

「くっ……! 魅了の魔法を使わずとも、その香りで私を堕とすつもりか……!」

「ふふ、どちらで堕ちるか、試してみますか?」

双子の甘い誘惑は止まらない。

プライドと食欲の狭間で揺れ動きながら、魔王アイリスの運命は――今、甘美な罠へと沈もうとしていた。


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