反省と目標
「おーい、神崎。ちょっと。」
実技が終わり、調理室を出ると佐藤講師から声をかけられた。
なんだろう?
佐藤講師は僕に手招きしながら「いいから。いいから。」とこっちに来るよう呼びかけた。
本当になんだろう……?
僕は恐る恐る佐藤講師の方に向かった。
「あの……どうしましたか?もしかして僕、何かしました?」
「あー……それはな……」
佐藤講師は言いづらそうな表情で僕の方を見る。
実技中は怖くてあまり思わなかったが、改めて見ると、すごく美人だ。
細身でモデルのような体型をしている。
髪はサラサラで、手入れが行き届いている。
顔立ちも整っていて、一重の目がクールな印象だ。
「その……隆太のことなんだが……」
「はい?」
僕は思わず首を傾げた。
なんであいつのこと?
そして、なぜ下の名前で言っているのだろう?
「本当にすまない。」
佐藤講師がそう言うと、僕に深々と頭を下げた。
「えっ!ちょっと!講師や、や、や、やめてください。」
「いや、隆太はみんなに迷惑をかけてしまった。特に神崎にはしつこく絡んでいるのを目撃している。申し訳ない。」
「いやいや、悪いのは、あい……隆太さんで講師ではないですよ。」
「いや、そんなわけにもいかない。姉として弟の過ちは謝らせてくれ。」
「……うん?」
弟……?
「あの……佐藤講師は隆太さんのお姉さんなのですか?」
僕の質問に佐藤講師は頷いた。
「あぁ、そうなんですね。」
えっ、そうなんだ……
「あまり……似てないですね。あっ!」
思わず本音が出てしまった。
「そうなんだよ。よく言われるんだ。隆太は父に似ているからね。」
そう言って佐藤講師がクスリと笑ったが、すぐに表情を元に戻した。
「隆太は、本当はここに入学したくはなかったみたいなんだよ。」
「えっ、そうなんですか?」
「あぁ、本当は父の職場を手伝いたかったんだと思う。だけど、父に専門学校へ入学するよう言われて余計にイライラしていたんだろう。」
話し終えると佐藤講師は深くため息をした。
講師としてではなく姉として心配しているのだと思う。
「なぁ、神崎。」
「はい。」
「隆太はおそらく謝ってくると思う。もし、謝ってきても神崎が納得がいかなかったら許さなくていいからな。」
「えっ……」
思ったことと違った。
「どうした?」
佐藤講師は首を傾げて尋ねる。
「あっ、いえ……。てっきり、隆太さんのこと許してほしいと言うのだと思ってました。」
「いや、許してほしいなんて言うつもりはない。」
佐藤講師は即座に否定した。
「私が隆太の代わりに動いても、神崎は納得する?」
佐藤講師の言葉に僕は首を横に激しく振った。
「そうでしょ。それに、本人のためにならないからね。自分の行いは自分でけじめをつけてほしいからね。」
「なら、どうして僕に謝ったんですか?」
僕の言葉に佐藤講師は「あぁ〜。」と言いながら頭を掻いた。
「それは、様子を見ていたとはいえ神崎のことを助けなかったからな。神崎が落ち込んでいないか心配してたんだ。」
そうか……。
佐藤講師は僕のことを気にかけてくれたのか。
入学してから周りに距離を置かれていたから、誰も心配してくれていないと思ってた。
でも、佐藤講師は心配してくれてたんだ。
「ただ、私としても少し考えがあってな。社会に出れば、いろんな人と関わることになる。自分と合わない人間だっているだろ?」
「はい。」
「だから、学生のうちにそういう経験をすることも大切だと思っているんだ。もちろん、何でも見過ごしていいわけじゃないけどな。」
「そうだったんですね。」
「それに、人に注意しておいて、自分ができていないのは嫌だからさ。」
「ありがとうございます!!!」
僕は半泣きになりながら佐藤講師にお礼を言った。
「いや、どうした!急に?」
半泣きの僕に佐藤講師が戸惑っている。
「いえ、少し嬉しかったんです。」
僕の返答に佐藤講師は少し笑った。
「なんだそれ?おっと、そろそろ行かないといけない。じゃあ、神崎次回も頑張れ。」
そう言って、佐藤講師は走っていった。
外を見ると空がオレンジ色になっていた。
周りを見ると学生は誰もいなかった。
よし、早く帰って家族にご飯を作ろうかな。
「はぁ……はぁ……おい、神崎!!!」
聞き覚えのある声の方を向くと隆太が息を切らせていた。
どこから走ってきたのか、服も体も汗でびっしょりだった。
「な……何?」
「すまーーーん!!!」
大声でそう言うと隆太は急に土下座をして頭を地面に擦りつけた。
「ええっ!?ちょっとやめてよー。」
僕は慌てて隆太の肩をつかみ、頭を上げさせた。
顔は似ていないが謝るときの大袈裟なところが佐藤講師と似ている。
「いや、神崎すまん!あの時は本当にイライラしていて何も考えてなかった。」
「いやいや、それよりすごい汗だけど何してたの?」
「いや、みんなに謝るために走り回ってたんだよ。一人一人。」
「いや、隆太何してるの?てか、先に僕に謝るべきじゃない?」
「いや、お前が姉貴と話してたから謝らなかったんだよ。なんで、姉貴と話してるんだよ。」
そう言って、隆太は僕に抱きついてきた。
うわ、汗で濡れてるから気持ち悪い。
「分かった。隆太、分かったから、話してくれ。」
僕は懸命に振りほどこうとしたが、隆太の力が強くて離れられない。
なんて力なんだ。
隆太の顔を見ると両頬が赤く腫れていた。
誰かに叩かれたのだろう。
そりゃあ、こんなことされたら誰でも叩きたくなるわ。
「頼む!許してくれーー!!!」
隆太がさらに強く抱きしめてくる。
「あーーーーー!!!分かった。分かったから気持ち悪いから抱きしめるなーーー!!!」




