02-SS-05 勇者たちの戦い
「勇者」アーランドだ。
魔族の王女を誘拐する作戦は発動された。俺達がいるのは魔族の都南西のグラブレ地区、いわゆる貧民街だ。
フライの姿が見えない……あのガキ「魔族相手でも幼女誘拐なんかやっていられるか」と言っていたが、まさかバックれたのか!?
役立たずはいらん、そろそろ時間だしな。
エスティーカとかいう魔族のガキが向かいの扉に入った。王女一行6人も扉に近づいていく。ソフィア王女、侍女長で王女の替え玉シャーリー、剣士トエリとステラ、攻撃魔術師セシル、拳銃とかいう射撃武器を使うアネットで計6人か。 しかし、これだけの情報を提供してきた奴は何者なんだ?
よし、ミランもフローラもシダークも準備完了だな?
俺達は行動を開始した。俺は「お前ら魔族だな。」そう声をかけて三節棍を垂らした。
「そうよ、こちらは魔族のさる高貴なお方、人間が近寄っていいお方では無いのよ!」剣を抜きながら侍女の一人……トエリだったか?が叫んだ。
胸を張る王女と思しきガキはいるが……あの写真のガキとは顔つきも雰囲気もどこか違う。どいつが本物のソフィア王女だ?このガキを囮に逃げられたら洒落にもならん……
「ガキをなぶる趣味は無いが、人喰いの魔族は別だな。」
俺の脅すような言葉に、一行の中央にいる帽子を深く被ったガキの足が震えている。こいつがソフィア王女か?もう一押しで確定なのだが……もどかしい!
横にいた侍女風の奴が足が震えたガキ=王女の腕に触れた。確定だ!
俺は三節棍を放った。妻と娘の仇だ、多少痛い目に遭わせても構うまい。
ガキン!横にいた侍女アネットが小さな武器……拳銃で俺の三節棍を逸らした。それでも王女の額にかすり傷はついた!
「とっさに俺の一撃を逸らしたのは褒めてやる、だが得物は変形してもう使えんようだな」俺の煽りに、アネットはソフィアを受け止めながらものすごい怒りの目で俺を見た。おお怖い怖い……
「シャーリー、セシル、非常信号!」トエリが叫んだ。空に何かが上がって大きな光を放った。ここからは時間との勝負だ!俺は左手を上げた。
格闘家シダークが突撃してソフィア王女を抱え上げた。魔術を使おうとしたシャーリーと信号弾を放ったセシルの2人をシダークが一撃で叩きのめした。シダークは頭に血が上がると狂戦士になる。任務を思い出させないとな。
「シダーク!さっさと行け!そのガキは大事な餌だ、壊すんじゃないぞ!」
走り出したシダークを、憤怒の形相で侍女アネットが両手の拳銃で狙った。弓手フローラの矢がアネットの両肩を射抜いた。いつもながら見事な腕前だ。ステラがシダークを追えないように剣士ミランが参戦した。俺はもう一人の剣使いトエリを止める。
シダークは全速力で走り去ったようだな……さあ、これからが締めくくりだ。俺は弓手フローラに叫んだ。
「フローラ!構わん、ガキ共を全員撃ち倒せ!」
だが、俺の指示と同タイミングで一軍の兵士がなだれ込んできた。先頭の馬から大戦斧を持った青い鎧の大男が降りた。まさかこいつ、魔族近衛の斧の巨人か!?
斧の巨人は大戦斧を軽々と振り回して俺の三節棍を弾いている。フローラが放つ矢も奴には効いていないようだ……強い!フライがいれば奴の鎖術でこいつを牽制できるのに……
俺は仲間に叫ぶ。「目的は達した、引くぞ!」
「何を言ってるんだい!?せっかくの人ならぬものを斬るチャンスなのよ!」ミランが撤退を拒んだが、俺は言う。
「ミラン!ここで戦いたいなら構わんが俺達は引くぞ!」
俺は煙幕弾を投げると脇目もふらずにシダークを追った。
幸い斧の巨人と奴の兵は傷つき倒れた侍女救助を優先したようだった。
魔族の王女誘拐という大戦果に興奮して走る俺達だったが、目の前に信じられない者を見た。ソフィアを抱えて先に離脱したはずのシダークが呆然と手ぶらで路地に立ちつくしていたのだ。
「シダーク!ソフィアはどうした!?」俺の問いに
「放せと言われたから放した……」奴は何を言っているんだ?
「なぜ追わなかった!?」もう一度叫んだ俺に筋肉ダルマは
「追った……でも来るなと言われた……」ぼそりと答えた。まさか魔族にはガキにまで精神操作能力でもあるのか!?
「もういい、ここは危険だ!!帰るぞシダーク!!」
俺達は何が起きたのか分からずにアジトに戻った。
北地区のホテル・ベラバルの地下室に手ぶらで戻った俺達に、指示役ルーヴァイス・スロフトとその義姉カーランは激怒して俺達に理由を問い詰めた。聞かれても俺達だって理由なんて分からない。
ルーヴァイスが言った「王女はまだ城に戻っていないようだ、動くとしたら夜だ。それまでこのエスティーカを好きにしていいぞ!英気を養っておけ!」
「もう嫌!やめて!助けて!お願い!」泣き叫ぶエスティーカに俺達は鬱憤を晴らすように近づいた。
そして夜。部屋のベッドに腰かけた俺達の前にあの白髪の悪魔が現れた。それも入り口から。「こんばんは。」ごく普通の挨拶とともに。




